ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百六十八話 北風の街アルシュ

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「師匠、街が見えてきましたっス!」
「ふむ、ようやく……といった感じじゃのう」

 いや、ホントに長かったな……
 首都を出て、もう何日になるか。
 竜車に揺られてひたすら北へ。十日ほどかけて三つほど街を経由した後、今度は険しい山道を進み、やっとのことで山を越えれば真っ白な雪原が待っていた。その雪原を街道沿いに進み、そして吹雪の中を北上すること数日、ようやく人工物が見え始めた。そこからさに三日進んでようやくここまで来られた。
 俺はと言えば、竜車の中で座ってただけなのに、アレだけ長期間ともなると流石に疲れたわ。身体中からバキボキ音がする。
 早く宿で暖を取りてぇ。いくら何でも寒すぎるぞ北国。

「ここが目的地の街か?」
「随分と雰囲気が変わってしまっておるが、位置的には間違いないはずじゃが……」
「へい、ここが北風の街とも呼ばれているアルシュっス」

 エレクがそう言うという事はここが目的地で間違いないらしい。
 シアの言う雰囲気は数百年前の話だろうから、変わってしまってるのは当然の話しだろう。

「それで、当初の目的地としてここまで来たけど、ここからどうするんだ?」
「兄貴、まずは宿を取りませんか? 流石にこんな町の入口で問答するには寒すぎるっスよ」

 確かににそりゃそうだ。
 あまりの寒さに、ちょっと結論を急ぎすぎたか。
 今の今まで当の俺自身が暖を取りたいと思ってたのに、頭から吹っ飛んじまったらしい。

「ヴォックス、宿をとってきてもらえるか? 出来れば以前泊まったところが良いと思うんだが」
「心得ました。では先行しますので、ノンビリと追いかけてきてください」
「頼む」

 どうでもいいけど、俺や師匠と喋るときと、仲間と喋る時で微妙に口調が変わるんだよな、エレクって。
 仲間と話すときは「ッス」っていう語尾がないし、何か変なこだわりを感じるんだが、一体何なんだろうな、アレ。

「しかし、国境の町って言うから、てっきり賑わってるのかと思ったけど、結構寂しい感じがする街だな」

 門から覗ける街の大通りに、人の姿が殆ど見当たらない。

「何で国境が賑わってるとか思ったのかも知らないけれど、ここはまだ国境じゃないわよ。というか数日ほど行った所に国境の町は別にあるし。そもそも僻地なんて何処もこんなもんでしょう?」

 俺の疑問に、それこそ何で? って感じの疑問顔でレーラが問い返してきた。
 あれ? そうだっけか? やべ、アルシェが国境の町だと思いこんでたけど、そう言えば確かにシアはアルシェから何日かの所に国境の町がどうこうって言ってたような気が……する……かもしれない?
 ところで、俺の思い違いは兎も角として、国境が賑わっているっていうのはそんなに認識としておかしいのか?

「そうなのか? 流通の問題で必ず人が通るんだから、宿場町とか出来上がって儲かるんじゃないのか?」
「必ず人が通るって行っても、月に商人が数人通るかってところでしょ? 流石にソレでは街が大きくなることはないわよ。大店の商人なんて、大抵はこんな僻地じゃなくてその国で一番大きな街へ行こうとするものでしょ」
「ありゃ、そうなのか……」

 うろ覚えだけど東海道五十三次とかって、そうやって発展した宿場じゃなかったっけか……?
 国とかが違うと、そういう事情も変わってくるんかな?

「僻地な上に国交が活発というわけでも無いんだから、コレでも立派な方よ。僻地は人が居ないから僻地なんだから」
「そういうもんか」

 人が居ないから僻地か……言われてみりゃたしかにそのとおりだ。
 平地で、しかも街道沿いで国境の街とはいっても、日本でいうと山奥にある県境の寒村とかに当たるんだな。
 字面上では好立地に見えても、そもそも人が通らなければ発展のしようがない訳だ。世知辛いねぇ

「それはそうと、今回は大丈夫そうじゃな」
「ん? 何がだ?」
「見てみぃ」

 シアに促されて街の方を見るが……大丈夫って何がだ?

「なんじゃい、気づかんのか」
「だから何をだよ?」
「門兵がおらん」
「あ」

 言われてみるとたしかに、この町の入口には俺の宿敵と言っていい門兵が立っていない。
 街を囲う壁もあるし、入り口には立派な門もあるが、普通に開放されていて、門兵が守っていると言った様子もない。

「これならお主のジンクスとやらも問題にはなるまい?」
「……確かに……まぁ」

 もう認めるしか無いが、門には……というか正確には門兵相手関わるとほぼ確実に面倒くさいことになる。結構洒落にならん目ににも合わされてるから、トラブルの種が無いというのは正直有り難い。
 イベントフラグ的なものが存在しない筈のこのゲームで、発生率100%のトラブルってどうなってるんだとクレームを入れたいところだが、連絡つかねぇしなぁ……
 もう、あの転移からかなり経ってるけど、未だに運営がこちらに対して接触してこないというのはどうなんだ。
 ステータスウィンドウがずっとグルグル状態でフリーズしているせいでこちらからは連絡の取りようもないから、向こうの方から何とかしてもらうしか無いんだが、一向に何とかなる気配が居ない。
 流石にこれだけの期間以上が続けば気付いても良いもんなんだが、直近でイベントとかの参加予定がないから、テスター個人の状態まで把握は出来てない? でも、ライノスの時とかちゃっかりデータ取られたりとかしてたはずだしなぁ……
 それでも反応がないというのは、可能性として考えられるのは、開発側が今の俺の状況をトラブルとして受け取っていない場合だ。
 こっちのクレイドル側のエラーだか何かでステータスウィンドウがバグってるだけで、開発側から見ると俺のアカウントは正常に動いていると認識されていれば、そりゃ何の接触もないだろう。
 実際、固まっているのはステータスウィンドウだけで、普通にゲームとしては遊べているし、恐らくレベルアップも普通にしている。シアに鍛えられて、明らかに自分が強くなってる自覚がある。つまり、システムは普通に動作しているという事になるし、回線トラブル線も否定できるとなると、やっぱりクライアント側の表示バグの可能性が結構高いんだよなぁ。
 この場合、状況的には最悪に近いんだがどうすれば良いんだろう? コレって、こちらから異常を伝えられないのと同時に、開発側からメールとかで接触されても何も返答できないんだが。もしかしたら、既に山のようにメールが届いてる可能性もある。
 まぁその場合、異変に気づいて病院の方に来て異常に気付いてもおかしくない。外部から何のアクションも取られてないって事は、気づかれてないんかなぁ、やっぱり。
 ……って、前もコレ考えたけど、考えてもこちらから解決する手段無いから考えるだけ無駄ではあるんだよなぁ。
 今まさにそれで困ってるんんだから、考えるなって方が無理なんだけどさ。
 ……なんて、どうにもならない方向へ思考がとっ散らかってる間に、門にたどり着いていた。

 正直門兵が居ないと判っても、門を通る時は内心ビクビクだったが、今度こそは何事もなく街へ入ることが出来た。
 ……何のトラブルもなく街に侵入できたのって、実はコレが初めてだよな? ハイナ村も、アレはアレで村長とかに試されて結構ゴタゴタしたからな。アレが一番平和的だったって時点でもうね。街じゃなくて村だったからトラブルも小さかったとか? 普通にありえるな……

 そのまま竜車に揺られてると、それなりに大きな宿の前で止まった。

「取れたか?」
「えぇ、問題なく。男用の大部屋と女用の二人部屋で確保できました」
「でかした!」

「随分嬉しそうだじゃが、何かあるのかの?」
「えぇ、この宿、部屋が良いのもありますけど、飯がかなり美味いんスよ」
「ほう、それは良いな」

 そういや、以前に使った宿みたいな話をしてたな。
 飯の味で覚えてたのか。
 まぁ、飯の味って重要だよな。こっちの世界はネットとかゲームとか、手軽な娯楽が手元にないからか、以前に比べて飯の味とかに結構重点を置くようになったんだよな。
 まぁ、現実では食ったこと無いくらいまずい飯が店で普通に出てくるから、美味い飯の店を覚えているっていうのは良く分かる。
 まぁ、不味いと言うか香辛料がそれなりに高価だから、安い飯屋だとろくに塩味すらしない味のない飯が出てくるんだよな。見た目は美味そうな鶏肉ソテーっぽかったのに、実際に食ったらただの焼いただけの水っぽい鳥肉だった時の衝撃ときたら……

「俺は竜車を預けてくるんで、師匠たちは部屋の方行っておいてくださいっス」
「わかった。この後の事とか俺も何も聞いてねぇし、そろそろ約束通りシアに説明して貰う必要があるし大部屋の方に一度集まるか」
「そうじゃな、ソレが良かろ」

 北を目指すと、ソレだけは聞いていたが、国を出た後どうするかは後に教えると言われたっきり何も聞いてない。
 アルシェは旅を始めたときに決めた当面の目的地だ。今聞いておかないと流石に今後の予定が立てられない。
 幸い、今回はシアも特に隠し立てするような事もないようだし、さっさと予定をててたしまおう。
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