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四章
二百九十八話 とても駄目な使者Ⅰ
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……でだ。
買い物に出たはずの俺達はどうして今こんな状態になってるのか……
目の前にはズタボロの角の生えた男。角の形状からして獣人ではなく魔族だろう。この辺りではあまり見かけない人種だ。当然面識はない。
「それで、我々に一体どのような御用で?」
「用というほどの事はない。私は伝言を預かってきただけだ。ソレを伝えたらすぐに去ろう」
伝言……ねぇ?
「伝言が目的なら何故俺たちを攻撃した? 言葉を届けるのに不意打ちなんて全く必要ないだろ」
そう、コイツはイブリスの欲しがった宝石を探しに街へ繰り出した所で尾行してきた。ソレだけならまだ良かったが、尾行に苛立ったイブリスが気配を隠す何かの術をを剥ぎ取った途端、街中に関わらず襲いかかってきやがった。諦めて姿を晒すでも、隠れるでもなく、問答無用で攻撃を。
「それは、お前たちが私の行動を妨害する動きが見えたから仕方なく……」
「妨害? 見ず知らずの奴が影から私たちの事を追跡していれば警戒するに決まっているでしょう。そもそも何故攻撃する必要があるので? お前はあるじ様に伝言があるだけなのでしょう?」
そもそも伝言とやらも本当かどうか怪しいものだ。こいつの言っていることは何一つとしてつじつまが合わない。
「本当に伝言であれば何故最初から堂々と正面から来ない? 何故この期に及んでその伝言の主の名前を出さない?」
「送り主の名は……言うことは出来ん」
「伝言の主を明かせないと? その伝言に何の意味があるというのですか」
「それはお前たちの受け取り方次第だ。私は伝えるだけでその後の事は知ったことではない」
いや、流石にそれは通らんだろ……
「では私も名は開かせませんがとある者からの伝言です。貴方が伝えようとした伝言は間違いなのでちゃんと依頼主を私達に伝えなさいという事だそうですわ。確かに伝えましたわよ」
「貴様……ふざけているのか?」
「あら自分がふざけたことを抜かしている自覚がないとは、随分と残念な頭をお持ちで。あなたの言う通りこちらの受け取り方次第だというのなら、聞くに値しない……どころか耳に入れる事自体が害悪でしかありませんわ」
言い方は攻撃的だが、イブリスの言ってることは正しい。ただでさえ伝言なんて真偽の確かめようがない伝達方法なのに、そこに来て差出人不明ともなれば、捏造し放題だろ。コイツがその場の思いつきで喋ったかどうかも解らない言葉の可能性だってある。というかこいつの言動を鑑みるに、その可能性のほうが高い。
「大体、お前の様な言っている事と実際の行動が全く噛み合ってない奴の何を信じろと言うんだ」
さっきイブリスの言う通り、コイツはまず最初に対話も何もなく不意打ちで俺達を襲撃してきた。伝言が目的ならイブリスに気づかれた段階で姿を現せばよかったんだ。なのにコイツは襲撃を選んだ。
何かの依頼を受けるに当たって、俺達の強さを確かめる必要があったというのなら百歩譲ってまだ理解は出来る。ゲームではわりとお約束の展開だからな、だが伝言にそんな必要はまったくないはずだ。
「だが、伝言の主は以前よりお前のことを気にかけている。ソレは間違いない」
「貴方の趣味は墓穴堀ですの? つまり貴方は伝言の主とやらの考えとは真逆の行動をしているわけですわね。伝言の主の意向を一切考慮してない。なら仮に伝言の主とやらが本当にあるじ様を気遣っていたのだとしても、それを貴方が伝えるという時点でその伝言も十中八九貴方によって捏造されてると考えるのが自然ですわね」
「まぁ、こいつの言動からするとそれが妥当な判断だわな」
「こちらの言い分を聞く気はないと?」
「なら聞くが、俺達は事故で見ず知らずの土地に飛ばされ、つい最近似たような経緯でここに飛ばされてきた。なのに、何故俺達の居場所を知っている? 以前の俺の知人というのなら、それはアルヴァスト国内の人間だろうよ。そこからここまでどれだけ時間がかかると思っている?」
たとえば何らかの噂で魔獣騒ぎでの俺の話を聞いて俺だと気づいたとしてもだ。ここからアルヴァストまで少なく見積もっても一月はかかる筈だ。つまり、アルヴァストまで俺の噂が届いてここまで来るのに単純二月。
だが、俺はこの街に来てからまだ10日も経っていない。そもそも最初から俺達がここにいると知っていなければたどり着けない筈。
「私とて言えないことくらいある。おまえたちには信じてもらうしか無い」
「いや、信じる理由も必要もないと言ってるんだが……」
「何故そこまで頑なにこちらの話を聞こうとしない。聞くだけなら何の損もないだろう」
「そんなの相手がアンタだからに決まっているだろ。そこらの見ず知らずのおばちゃんでも話くらいは聞く耳は持ってるよ」
「大体、聞くだけで毒になる情報なんてどれほどあると思っているんですの? 真偽のわからない怪しげな情報で被害者を不安にさせてペテンにかけようとするのは詐欺師の情報手段ですわよ」
そう。俺たちの事を付け回していたということは、何らかの俺達の情報を持っているということだ。ソレが正しい情報なのかはともかくとして、友好的でない人間がそんな物を耳に入れようとする時点で、良くて厄介事の頼み。悪くて罠にかけようとする何か碌でもない情報といったところだろう。
「確かに私は多くを語ることは出来ない。だが詐欺師呼ばわりとは、いくらなんでも事実無根の侮辱がすぎると思うが?」
「事実無根でもなんでも無く、突然暴力を仕掛けてきて、事情を聞こうにも嘘しか言わない。聞いても答えをよこさない。そのくせ話を聞けと一方的。詐欺師でないならただの不審者だよ」
「どうしても話を聞いて欲しいというのなら、貴方の主に別の者を寄越すように言いなさいな。初手で武器を振りかざすような者でなく、会話ができるような常識人を」
「ここで私の言葉を聞かなかった事、後悔することになるぞ」
「あら、ついに脅迫ですの? やっぱり真っ当な筋ではないようですのね。申し訳ないですが、私達先を急ぎますの。面倒事に巻き込む気ならお生憎様。どうせ我々の戦力目当ての小悪党なのでしょうけど、目をつける相手を間違えましたわね」
まぁイブリスにズタボロにボコられたにも関わらず、何故か最初からこっちを見下す態度だったしな。ろくでも無いやつだとは思ってたがやっぱりそういう手合か。
「もし本当にアンタが重要な問題を持っていたとしたら、アンタをよこした人間に文句垂れてやるよ」
「なら好きにするが良い。私は仕事は果たした。聞かなかったのは……」
「何が仕事は果たした、だ。一言も伝えられてないではないか」
「!?」
びっくりした!!
突然、横から別の誰かが会話に混ざってきた。しかも全く気配を感じなかった。イブリスが露骨に警戒していると言うことは、彼女ですら接近を察知できなかったって事になる。
「何者ですの?」
「私が件の依頼人だよ」
「こんな近くにいるのにわざわざ伝言を?」
「そもそも、こうやって表に出てくるのを避けたかったから伝言を頼んだのだがな……人選を誤ったらしい。伝言であれば子供でも出来ると思っていたのだが、どうやら私の目は節穴だったらしい」
「いえ、ま……」
「これ以上!」
魔族の男はなにか弁明をしようとしたようだが、二の句を継がせる気はないらしい。
「恥を上塗りするつもりか? 下がりたまえよ」
「…………承知しました」
まぁ良い歳した大人が、こんな子供のお使いじみた頼みすら果たせないともなれば、こうなるのも致し方なしか。
後から現れた男の言葉に従い、ズタボロ魔族は去っていった。
そして、この場に三人が残ったわけだが。
「スマンね。寄越した人材に難があったようだ」
「それはもう良い。で、アンタは一体?」
なんかあの男が去ってから急に口調が軽くなったが……アルヴァスト王を思い出すな。
「それを語る前に……少々失礼」
そういって手をかざしたと思った途端、周囲の景色が歪んだ……というかガラスの壁の様ななにかに覆われたらしい。
「何だ!?」
「一定範囲の情報を隠蔽するバリアの様なものだと思ってくれ」
「つまり、あまり大っぴらに出来ない話って訳か?」
「話もそうだが、私がここに居たということは出来るだけ知られたくないんでね」
つまり、俺達のためと言うよりも自分の為か。自分がここにいるのを知られたくないから、さっきの男をわざわざ使いに出したのに仕事を果たしてくれなくて、やむ無く自分で出張った訳だ。
「ふ~……コレでいい。外からはここには誰も居ないように偽装できているはずだ」
途端に、さっきまでの周囲を威圧する雰囲気はどこへやら、明らかにやる気のないトッポイ兄ちゃんと言った雰囲気が……
「そうか。で、改めて、アンタは何者だ?」
「このサーバではA3というコードで通っている。田辺……T1の協力者だと言えば理解できるかい?」
「! システム側の人か!」
「田辺達とは立ち位置が少し違うが業態でいえばリージョン管理者。こことは別のだけどね」
システム側の人間か!
それなら、短期間で俺を見つけて接触しようと動けたというのも解る。普通のNPCでは絶対に無理な距離や時間の問題を突破できる例外的存在だ。
「その言葉が本当であると証明できますか? 貴方があるじ様を害する側の存在ではないという証明が」
「そうだなぁ……出来れば彼のボイスデータで伝言でも頼みたかったんだけど、外部からデータを持ち込めば流石に察知されちゃうでしょ。逆に聞くけど、君達はどういうものであれば納得できる?」
「そうですわね、私達がここの街へたどり着いた経緯。それを説明できますか?」
「別リージョンの田辺の協力者から送ってもらったんだろう? 守秘義務だとかでその協力者が誰なのかは俺も知らされていないけど、ここのシステムを作り上げる上の重要なパートナーだとは聞いている」
「なるほど、確かにその情報は他者では知り得ない情報ですわね。田辺という方には面識がないので判断し辛いですが、彼が理由なく尻尾を掴ませるようなミスをするとは思えませんし」
彼……というのは俺たちをこっちに送ったあの男の事だな。
なるほど、イブリスにとっては田辺さんは俺の記憶から何となくくらいの人物像しかつかめないだろうからそこまで信頼感は持っていない。だけど、俺達をここに送ったあの男の情報を掴んでいる時点で、協力者である田辺さんと直接繋がりがなければ手に入れることができない情報だと判断したんだな。
「でも、管理人が直接で向いたりしたら、それこそ犯人側に気取られちまうんじゃないのか?」
「それなら大丈夫、これは借り物の身体だよ。今の君と同じような状態といえば解るかい? 君の言うように管理者用の特殊ボディを動かせば足取りを追われて君の居場所が犯人側に知られる危険があるんでね」
「なるほど。出来るだけ俺達との接点を残したくなかったという訳だ。それに犯人側っていうのは……」
思い当たることと言うとやっぱり……
「そう。バックドアの件だ。残念ながらまだ犯人は特定できないという事でね。出来るだけ慎重に事を運びたいのさ」
買い物に出たはずの俺達はどうして今こんな状態になってるのか……
目の前にはズタボロの角の生えた男。角の形状からして獣人ではなく魔族だろう。この辺りではあまり見かけない人種だ。当然面識はない。
「それで、我々に一体どのような御用で?」
「用というほどの事はない。私は伝言を預かってきただけだ。ソレを伝えたらすぐに去ろう」
伝言……ねぇ?
「伝言が目的なら何故俺たちを攻撃した? 言葉を届けるのに不意打ちなんて全く必要ないだろ」
そう、コイツはイブリスの欲しがった宝石を探しに街へ繰り出した所で尾行してきた。ソレだけならまだ良かったが、尾行に苛立ったイブリスが気配を隠す何かの術をを剥ぎ取った途端、街中に関わらず襲いかかってきやがった。諦めて姿を晒すでも、隠れるでもなく、問答無用で攻撃を。
「それは、お前たちが私の行動を妨害する動きが見えたから仕方なく……」
「妨害? 見ず知らずの奴が影から私たちの事を追跡していれば警戒するに決まっているでしょう。そもそも何故攻撃する必要があるので? お前はあるじ様に伝言があるだけなのでしょう?」
そもそも伝言とやらも本当かどうか怪しいものだ。こいつの言っていることは何一つとしてつじつまが合わない。
「本当に伝言であれば何故最初から堂々と正面から来ない? 何故この期に及んでその伝言の主の名前を出さない?」
「送り主の名は……言うことは出来ん」
「伝言の主を明かせないと? その伝言に何の意味があるというのですか」
「それはお前たちの受け取り方次第だ。私は伝えるだけでその後の事は知ったことではない」
いや、流石にそれは通らんだろ……
「では私も名は開かせませんがとある者からの伝言です。貴方が伝えようとした伝言は間違いなのでちゃんと依頼主を私達に伝えなさいという事だそうですわ。確かに伝えましたわよ」
「貴様……ふざけているのか?」
「あら自分がふざけたことを抜かしている自覚がないとは、随分と残念な頭をお持ちで。あなたの言う通りこちらの受け取り方次第だというのなら、聞くに値しない……どころか耳に入れる事自体が害悪でしかありませんわ」
言い方は攻撃的だが、イブリスの言ってることは正しい。ただでさえ伝言なんて真偽の確かめようがない伝達方法なのに、そこに来て差出人不明ともなれば、捏造し放題だろ。コイツがその場の思いつきで喋ったかどうかも解らない言葉の可能性だってある。というかこいつの言動を鑑みるに、その可能性のほうが高い。
「大体、お前の様な言っている事と実際の行動が全く噛み合ってない奴の何を信じろと言うんだ」
さっきイブリスの言う通り、コイツはまず最初に対話も何もなく不意打ちで俺達を襲撃してきた。伝言が目的ならイブリスに気づかれた段階で姿を現せばよかったんだ。なのにコイツは襲撃を選んだ。
何かの依頼を受けるに当たって、俺達の強さを確かめる必要があったというのなら百歩譲ってまだ理解は出来る。ゲームではわりとお約束の展開だからな、だが伝言にそんな必要はまったくないはずだ。
「だが、伝言の主は以前よりお前のことを気にかけている。ソレは間違いない」
「貴方の趣味は墓穴堀ですの? つまり貴方は伝言の主とやらの考えとは真逆の行動をしているわけですわね。伝言の主の意向を一切考慮してない。なら仮に伝言の主とやらが本当にあるじ様を気遣っていたのだとしても、それを貴方が伝えるという時点でその伝言も十中八九貴方によって捏造されてると考えるのが自然ですわね」
「まぁ、こいつの言動からするとそれが妥当な判断だわな」
「こちらの言い分を聞く気はないと?」
「なら聞くが、俺達は事故で見ず知らずの土地に飛ばされ、つい最近似たような経緯でここに飛ばされてきた。なのに、何故俺達の居場所を知っている? 以前の俺の知人というのなら、それはアルヴァスト国内の人間だろうよ。そこからここまでどれだけ時間がかかると思っている?」
たとえば何らかの噂で魔獣騒ぎでの俺の話を聞いて俺だと気づいたとしてもだ。ここからアルヴァストまで少なく見積もっても一月はかかる筈だ。つまり、アルヴァストまで俺の噂が届いてここまで来るのに単純二月。
だが、俺はこの街に来てからまだ10日も経っていない。そもそも最初から俺達がここにいると知っていなければたどり着けない筈。
「私とて言えないことくらいある。おまえたちには信じてもらうしか無い」
「いや、信じる理由も必要もないと言ってるんだが……」
「何故そこまで頑なにこちらの話を聞こうとしない。聞くだけなら何の損もないだろう」
「そんなの相手がアンタだからに決まっているだろ。そこらの見ず知らずのおばちゃんでも話くらいは聞く耳は持ってるよ」
「大体、聞くだけで毒になる情報なんてどれほどあると思っているんですの? 真偽のわからない怪しげな情報で被害者を不安にさせてペテンにかけようとするのは詐欺師の情報手段ですわよ」
そう。俺たちの事を付け回していたということは、何らかの俺達の情報を持っているということだ。ソレが正しい情報なのかはともかくとして、友好的でない人間がそんな物を耳に入れようとする時点で、良くて厄介事の頼み。悪くて罠にかけようとする何か碌でもない情報といったところだろう。
「確かに私は多くを語ることは出来ない。だが詐欺師呼ばわりとは、いくらなんでも事実無根の侮辱がすぎると思うが?」
「事実無根でもなんでも無く、突然暴力を仕掛けてきて、事情を聞こうにも嘘しか言わない。聞いても答えをよこさない。そのくせ話を聞けと一方的。詐欺師でないならただの不審者だよ」
「どうしても話を聞いて欲しいというのなら、貴方の主に別の者を寄越すように言いなさいな。初手で武器を振りかざすような者でなく、会話ができるような常識人を」
「ここで私の言葉を聞かなかった事、後悔することになるぞ」
「あら、ついに脅迫ですの? やっぱり真っ当な筋ではないようですのね。申し訳ないですが、私達先を急ぎますの。面倒事に巻き込む気ならお生憎様。どうせ我々の戦力目当ての小悪党なのでしょうけど、目をつける相手を間違えましたわね」
まぁイブリスにズタボロにボコられたにも関わらず、何故か最初からこっちを見下す態度だったしな。ろくでも無いやつだとは思ってたがやっぱりそういう手合か。
「もし本当にアンタが重要な問題を持っていたとしたら、アンタをよこした人間に文句垂れてやるよ」
「なら好きにするが良い。私は仕事は果たした。聞かなかったのは……」
「何が仕事は果たした、だ。一言も伝えられてないではないか」
「!?」
びっくりした!!
突然、横から別の誰かが会話に混ざってきた。しかも全く気配を感じなかった。イブリスが露骨に警戒していると言うことは、彼女ですら接近を察知できなかったって事になる。
「何者ですの?」
「私が件の依頼人だよ」
「こんな近くにいるのにわざわざ伝言を?」
「そもそも、こうやって表に出てくるのを避けたかったから伝言を頼んだのだがな……人選を誤ったらしい。伝言であれば子供でも出来ると思っていたのだが、どうやら私の目は節穴だったらしい」
「いえ、ま……」
「これ以上!」
魔族の男はなにか弁明をしようとしたようだが、二の句を継がせる気はないらしい。
「恥を上塗りするつもりか? 下がりたまえよ」
「…………承知しました」
まぁ良い歳した大人が、こんな子供のお使いじみた頼みすら果たせないともなれば、こうなるのも致し方なしか。
後から現れた男の言葉に従い、ズタボロ魔族は去っていった。
そして、この場に三人が残ったわけだが。
「スマンね。寄越した人材に難があったようだ」
「それはもう良い。で、アンタは一体?」
なんかあの男が去ってから急に口調が軽くなったが……アルヴァスト王を思い出すな。
「それを語る前に……少々失礼」
そういって手をかざしたと思った途端、周囲の景色が歪んだ……というかガラスの壁の様ななにかに覆われたらしい。
「何だ!?」
「一定範囲の情報を隠蔽するバリアの様なものだと思ってくれ」
「つまり、あまり大っぴらに出来ない話って訳か?」
「話もそうだが、私がここに居たということは出来るだけ知られたくないんでね」
つまり、俺達のためと言うよりも自分の為か。自分がここにいるのを知られたくないから、さっきの男をわざわざ使いに出したのに仕事を果たしてくれなくて、やむ無く自分で出張った訳だ。
「ふ~……コレでいい。外からはここには誰も居ないように偽装できているはずだ」
途端に、さっきまでの周囲を威圧する雰囲気はどこへやら、明らかにやる気のないトッポイ兄ちゃんと言った雰囲気が……
「そうか。で、改めて、アンタは何者だ?」
「このサーバではA3というコードで通っている。田辺……T1の協力者だと言えば理解できるかい?」
「! システム側の人か!」
「田辺達とは立ち位置が少し違うが業態でいえばリージョン管理者。こことは別のだけどね」
システム側の人間か!
それなら、短期間で俺を見つけて接触しようと動けたというのも解る。普通のNPCでは絶対に無理な距離や時間の問題を突破できる例外的存在だ。
「その言葉が本当であると証明できますか? 貴方があるじ様を害する側の存在ではないという証明が」
「そうだなぁ……出来れば彼のボイスデータで伝言でも頼みたかったんだけど、外部からデータを持ち込めば流石に察知されちゃうでしょ。逆に聞くけど、君達はどういうものであれば納得できる?」
「そうですわね、私達がここの街へたどり着いた経緯。それを説明できますか?」
「別リージョンの田辺の協力者から送ってもらったんだろう? 守秘義務だとかでその協力者が誰なのかは俺も知らされていないけど、ここのシステムを作り上げる上の重要なパートナーだとは聞いている」
「なるほど、確かにその情報は他者では知り得ない情報ですわね。田辺という方には面識がないので判断し辛いですが、彼が理由なく尻尾を掴ませるようなミスをするとは思えませんし」
彼……というのは俺たちをこっちに送ったあの男の事だな。
なるほど、イブリスにとっては田辺さんは俺の記憶から何となくくらいの人物像しかつかめないだろうからそこまで信頼感は持っていない。だけど、俺達をここに送ったあの男の情報を掴んでいる時点で、協力者である田辺さんと直接繋がりがなければ手に入れることができない情報だと判断したんだな。
「でも、管理人が直接で向いたりしたら、それこそ犯人側に気取られちまうんじゃないのか?」
「それなら大丈夫、これは借り物の身体だよ。今の君と同じような状態といえば解るかい? 君の言うように管理者用の特殊ボディを動かせば足取りを追われて君の居場所が犯人側に知られる危険があるんでね」
「なるほど。出来るだけ俺達との接点を残したくなかったという訳だ。それに犯人側っていうのは……」
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