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命がけと命がけ
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「このような時間に三人揃ってお出かけですかな」
そう話す人影はグランダー伯爵家執事のシラムである。
まるで待ち構えていたかのように扉の前に立っていた。
三人は足を止めると、月の光に照らされたシラムの表情を窺う。
彼は穏やかな表情で優しい笑顔を浮かべていた。
「シラムさん・・・・・・」
倉野がそう呼びかけるとシラムは全てを理解したように頷く。
「執事は屋敷の中に百の目と耳を持つものですから。お三方が何をしようとしているのかは分かっております。ですが執事としてやはりお嬢様の幸せを考えたいもの。クラノ様を引き留めようという気持ちがないとは言えません。しかしながら、その覚悟も知っております。故に、執事としてお願いをしようとお待ちしておりました」
シラムの言葉を聞いた倉野は首を傾げた。
「お願い・・・・・・ですか?」
「はい。必ず生きて帰ると、誓ってください。グランダー家執事の名においてクラノ様が死ぬことは許しません。死んでも死なないでください」
「死んでもって、無茶苦茶じゃないですか」
そう答えながら倉野が苦笑するとシラムは急に真面目な顔をして言葉を放つ。
「無茶苦茶です。我ながら無茶なお願いをしていると理解しております。命がけの戦いをしに行くお方に、命を惜めといっているのですから。しかし、それを約束できないのであれば、この老いぼれの命をここで奪っていってください。そうすればさすがにお嬢様もクラノ様に愛想を尽かすでしょうから」
語調からシラムの言葉が本気であると分かった。
命がけで戦いにいく倉野への命がけの依頼である。
もちろん倉野の答えは決まっていた。
「もちろん約束します。何があっても必ず帰ってきます」
倉野の答えを聞いたシラムはその言葉に嘘がないと感じ取り、優しく頷く。
「その言葉を信じさせていただきます。お嬢様への言付けは私の方でしておきますので、気になさらず目的を果たしてきてください」
レイチェルに黙って出発することが若干の心残りではあった倉野。
シラムの言葉によって頭の中が鮮明になったように感じる。
「ありがとうございます、シラムさん」
「ああ。それと、こちらをお持ちください」
そう言ってからシラムは何かの紙を倉野に手渡した。
「これは?」
問いかけながら倉野が紙に視線を落とすと地図が描かれている。
「庶民街ベイスタリアル通り七の四への地図です。少し入り組んだ場所にありますので、迷わないようにお持ちください」
そんな詳細な情報まで持っているのかと驚きつつも倉野はそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「ありがとね」
三人はシラムに礼を言うと再び足を踏み出す。
そんな三つの背中を見送りながらシラムはお手本の様に綺麗なお辞儀を見せた。
「いってらっしゃいませ。どうか、ご無事で」
祈りの様な言葉を受け止めながら、月だけが照らす道を三つの影が駆け抜けていく。
そう話す人影はグランダー伯爵家執事のシラムである。
まるで待ち構えていたかのように扉の前に立っていた。
三人は足を止めると、月の光に照らされたシラムの表情を窺う。
彼は穏やかな表情で優しい笑顔を浮かべていた。
「シラムさん・・・・・・」
倉野がそう呼びかけるとシラムは全てを理解したように頷く。
「執事は屋敷の中に百の目と耳を持つものですから。お三方が何をしようとしているのかは分かっております。ですが執事としてやはりお嬢様の幸せを考えたいもの。クラノ様を引き留めようという気持ちがないとは言えません。しかしながら、その覚悟も知っております。故に、執事としてお願いをしようとお待ちしておりました」
シラムの言葉を聞いた倉野は首を傾げた。
「お願い・・・・・・ですか?」
「はい。必ず生きて帰ると、誓ってください。グランダー家執事の名においてクラノ様が死ぬことは許しません。死んでも死なないでください」
「死んでもって、無茶苦茶じゃないですか」
そう答えながら倉野が苦笑するとシラムは急に真面目な顔をして言葉を放つ。
「無茶苦茶です。我ながら無茶なお願いをしていると理解しております。命がけの戦いをしに行くお方に、命を惜めといっているのですから。しかし、それを約束できないのであれば、この老いぼれの命をここで奪っていってください。そうすればさすがにお嬢様もクラノ様に愛想を尽かすでしょうから」
語調からシラムの言葉が本気であると分かった。
命がけで戦いにいく倉野への命がけの依頼である。
もちろん倉野の答えは決まっていた。
「もちろん約束します。何があっても必ず帰ってきます」
倉野の答えを聞いたシラムはその言葉に嘘がないと感じ取り、優しく頷く。
「その言葉を信じさせていただきます。お嬢様への言付けは私の方でしておきますので、気になさらず目的を果たしてきてください」
レイチェルに黙って出発することが若干の心残りではあった倉野。
シラムの言葉によって頭の中が鮮明になったように感じる。
「ありがとうございます、シラムさん」
「ああ。それと、こちらをお持ちください」
そう言ってからシラムは何かの紙を倉野に手渡した。
「これは?」
問いかけながら倉野が紙に視線を落とすと地図が描かれている。
「庶民街ベイスタリアル通り七の四への地図です。少し入り組んだ場所にありますので、迷わないようにお持ちください」
そんな詳細な情報まで持っているのかと驚きつつも倉野はそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「ありがとね」
三人はシラムに礼を言うと再び足を踏み出す。
そんな三つの背中を見送りながらシラムはお手本の様に綺麗なお辞儀を見せた。
「いってらっしゃいませ。どうか、ご無事で」
祈りの様な言葉を受け止めながら、月だけが照らす道を三つの影が駆け抜けていく。
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