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白と黒の違い

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 そのまま邪悪な巨体は全身の力を失い、背中側に倒れていった。
 高層ビルでも倒壊したのかと思うほど地面を揺らし、砂埃を巻き上げる。
 倉野はクレアシオンにしがみつき、横たわるデザストルの胸部に立った。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・やった・・・・・・のか?」

 ここまでの戦いを全て見ているが故に懐疑的になってしまう倉野。中々息が整わず、心臓が暴れるように鼓動していた。
 倒れているデザストルは大量の血液を垂れ流し、か細い呼吸を繰り返す。イスベルグの存在によって体を動かすことは叶わず、魔法によって回復することもできない。
 もうデザストルに助かる余地などなかった。

「何故だ・・・・・・何故、俺様が人間なんかに・・・・・・二度も!」

 受け入れ難い現実にそう吐き捨てる。
 しかし、流れ出た血液も漏れ出す命も戻っていくことはない。覆水を拾い集める術などなかった。

「俺様が・・・・・・負けるわけねぇ・・・・・・どうして俺様を認めない・・・・・・俺様を・・・・・・」

 死へ向かいながら放たれるデザストルの言葉。それは誰に伝えたい言葉なのだろうか。
 倉野は黙ったまま、自分の行動によって消えゆく命を目に焼き付けている。
 それでもデザストルは言葉を繰り返した。

「認めろ・・・・・・俺様を・・・・・・」

 そんなデザストルに同じ口を介してイスベルグが言葉をかける。
 
「死を前にして嘘を吐くことはできない。お前の行動原理はそこにあったか」

 肉親であるイスベルグだからこそ、たどり着くことができた言葉だ。
 ドラゴンの王になれず、群れから離れ自身よりも弱い種族を蹂躙し支配してきたデザストル。
 彼が求めていたのは、他者の命でも支配する領地でもない。
 心から自分を認めてくれる者の存在だった。
 だが、デザストルにとってイスベルグに理解されることは耐えられないほどの屈辱である。

「お前が・・・・・・お前が言うな、イスベルグ! お前も俺様と変わらないはずだ。その姿を忌み嫌われ、ドラゴンの群れから追い出されたお前は俺様と同じように、居場所を失っただろ。なのに・・・・・・どうしてお前は!」

 デザストルは一点の曇りもない本心を吐き出す。そこには見栄も矜持もなかった。
 どうして同じ境遇であるはずのイスベルグは満たされているのか。その質問にはこれまで静観していた倉野が答える。

「・・・・・・イスベルグさんが僕達人間を認めてくれるからだよ。いつだって価値観を押し付けたりはしない。相手を認めて受け入れなければ、誰も受け入れてはくれないよ」
「くそ、何言ってるのかわかんねぇよ・・・・・・クソガキ」

 そう答えるデザストルは唐突に理解し始めていた。
 気に食わないものを壊し、殺し、奪ってきたこれまでの生き方で得られたものは、恐怖による服従。自分のために命をかけてくれる存在などなかった。
 しかし、今自分の胸部に立っている小さく脆い人間はイスベルグの想いを受け継ぎ、立ち向かってきたのである。
 そしてようやくデザストルは自分が欲しかったものは強さや誰かへの支配ではないことに気づいた。
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