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百億円

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「ひゃ、百億円ですか?」

 驚きを隠せずに冨岡は叫んだ。
 場所は祖父の家。目の前にいるのは高級そうなスーツに身を包んだ男。高速道路建設の担当者だという。
 眩暈がするほど現実味のない金額を提示され冨岡は頭が混乱した。
 何故こうなったのか、少しだけ時間を遡ろう。


「やっぱりここは落ち着くなぁ」
 
 冨岡 浩哉はそう呟きながら軽自動車を運転する。向かっているのは懐かしさを感じる山奥だ。
 彼には両親の記憶がない。物心つく前に事故で亡くなったらしく、冨岡は祖父に育てられていた。
 気づけば今向かっている山奥に建てられた祖父の家で生活しており、大学進学を機に祖父と別れ街で一人暮らしを始めたのである。
 祖父との関係が悪かったなどということはない。むしろ、良好であったと言える。休みの度に祖父の家へと帰り、大人になってからは何度も酒を酌み交わしていた。
 しかし冨岡が二十五歳になった春、彼の祖父である冨岡 源次郎は体調を崩し寝込み始める。
 心配するな、自分のことは自分で出来る。そう言っていたが源次郎はその年の冬を待たずして息を引き取った。
 冨岡 浩哉、二十五歳の秋。唯一の家族である祖父との別れ。
 もちろん悲しみ涙を流した。しかし、いつまでも悲しんでいては源次郎に怒られてしまうと冨岡は前を向くことを決める。祖父の家で冨岡だけの葬儀を行い、様々な手続きを済ませた冨岡。
 そして源次郎が亡くなってから一週間後の今日、冨岡は家の清掃のために訪れていたのだった。
 山奥とは言っても街から一時間ほどの場所に源次郎の家はある。
 その山自体が源次郎の所有物であり、代々受け継いだものだと言っていた。特に思い入れがあるわけではないが売りに出したところで買い手はなく、大した金額にもならないだろうと住み続けているらしい。
 しばらく運転を続けた冨岡はようやく目的地へと辿り着いた。
 少し大きめの古い日本家屋、まさにそのような家である。
 
「さて、片付けるとするか」

 冨岡はそう言いながら軽自動車を降り、家の中へ向かった。
 玄関から入ると葬儀からそれほど経っていないというのに床が埃っぽいことに気づく。

「うわぁ、人が住んでいないと風が通らないから埃も溜まるもんだなぁ」

 そんなことを呟きながら先へと進む冨岡。
 玄関から長い廊下を進むと左右に襖があり、その右側が源次郎の寝室だ。
 片付けるのならばここからだろうと襖を開ける。
 もちろん、葬儀の時にある程度は片付けたが棚や押入れまでは手をつけていなかった。
 今日の目的は遺品の整理である。
 源次郎の寝室に入った冨岡はいつも通り木製の机と棚、そして布団を閉まっておく押入れを眺めた。それ以外はこの部屋には何もない。畳と埃っぽい匂いがするだけだった。
 いつも源次郎は大事なものを棚に入れておくと知っていた冨岡は迷わず棚の中を調べる。

「ここから見ていくかな。爺ちゃんはなんでも棚に片付けるから」

 そう言いながら調べると冨岡の目には老眼鏡や印鑑、土地の権利書などが映った。全て大切なものだが、それよりも気になったのは『遺書』と書かれた真っ白な封筒である。
 これまで様々な手続きや葬儀の手配で考える余裕などなかったが源次郎は最後の言葉を残していた。

「遺書・・・・・・ごめんな爺ちゃん。もっと早く見つけてあげられればよかったんだけど」

 一週間も眠らせてしまっていたことを謝罪しながら封筒を開けると一枚の便箋が入っている。それを広げると手書きのきれいな文字でこう書かれていた。
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