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冨岡の夢

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 フィーネは匂いからメルルズパンを『美味しい店』だと認識し、富岡に教えている。匂いが食欲に影響することを本能的に知っているのだろう。
 味覚を封じられた時に、最も触接的に食欲を刺激するのは視覚でも聴覚でもなく嗅覚。人にもよるが匂いで食べたくなる者は多いはずだ。

「確かに市場の大通りでもお肉の匂いを嗅ぐと食べたくなりますもんね」

 納得したようにアメリアが言うと、冨岡は首が取れるのではないかと心配になる程頷く。

「そうなんですよ。俺がいた国でも、店頭販売だったり試食だったりで匂いを立てて集客する方法は確立されていますから」
「先日、冨岡さんが言っていた土地の権利を侵さずに侵入する方法って」
「匂いですよ! 土地の権利は匂いを取り締まれないでしょう?」

 冨岡が問いかけると、アメリアは頭の中にあるルールを確認するかのように視線を揺らしてから答えた。

「そうですね、確かに匂いを防ぐ方法なんてないですから・・・・・・でも」

 と、アメリアは続ける。

「匂いでお客さんを呼んでも、売る場所がないのは変わらなくないですか?」

 指摘している、と言うよりも心配しているようだ。冨岡ががっかりしないように、様子を窺いながら問いかけるアメリア。
 しかし、富岡の策には続きがある。

「大丈夫です、ハーメルンの笛吹きですよ」
「はーめるん?」
「はーめるん?」

 時間差でアメリアとフィーネが首を傾げた。
 その言葉で伝わるわけもない。この世界にはない物語の話だ。全てを伝えようと思っても難しい、と考えた冨岡は掻い摘んで必要な部分だけを説明する。

「不思議な笛の音色で人を引き連れて行くっていう御伽噺なんですけど、同じことができないかなと思ったんですよ。ハンバーガーを作りながら市場を歩いて、売れる場所に誘導するんです。匂いで引き連れながら、ね」

 ハーメルンの笛吹きがネズミや子どもを誘導したように、屋台の匂いで客を引き連れて、土地の権利関係が面倒でない場所で販売する。
 それが冨岡の考えていた策だった。
 策の全貌を聞いたフィーネは自分なりに噛み砕いて理解する。

「えっと、美味しい匂いでお客さんを呼ぶってこと?」
「うん、そうだよ。そうしていけば、いつかハンバーガーを食べたいってなってお客さんが店まで来てくれるようになるかもしれないしね。そうなれば、この教会でお店を出せるようになる」

 冨岡が将来の話にまで触れるとアメリアは笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます、トミオカさん。この場所を活かそうとしてくださって」
「アメリアさんにとって大切な場所なら、大切にしたいじゃないですか。それに、この場所があるおかげでフィーネちゃんが笑顔でいられるんです。そしてゆくゆくは・・・・・・」

 そこで冨岡は言葉を止めた。不思議に思ったアメリアは首を傾げ訊ねる。

「ゆくゆくは?」
「笑われちゃうかもしれないほど、大きな夢ですが・・・・・・俺たちだけで利益を出せるようになれば、寄付に頼らずにできる孤児院を、いや子どもたちが学んでいける場所、学園を作りたいと思ってるんです」

 祖父から受け継いだ他人への優しさ。それを叶えるためにどうすれば最良なのか、と考えた冨岡が出した答えである。子どもたちの今と未来を支えること、そうすれば優しさや知恵は広がって行くだろう。
 自分がそうであったように、と冨岡は微笑む。
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