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口にする正義

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 キュルケース家が公爵位だと知った今、本来ならば飛びつくべきだろう。
 一人の人生を豊かにする程度の給金は得られるはずだ。しかし、冨岡が求めているのはその程度の金ではない。
 むしろ百億円は持っているのだから、それ以上稼げる見込みがなければ利点はないのだ。

「とんでもない金額と言われれば確かにそうですね」

 冨岡がそう答えるとホースは自分の顎に降ればがら問いかける。

「ちなみにどの程度を所望かな? 私にとって君の存在はそれほど大きいものだと言っておこう。娘が健康的に育ってくれることを、どれほど願っているのか。その願いは君への期待値と比例するよ」
「どの程度・・・・・・そうですね、この街に学園を作り、継続的に運営していけるほどです」
「学園?」
「ええ、孤児院兼学園と言った方がいいでしょうか。親を失ったり、貧しくて生きていけない子どもたちが暮らせる場所を作りたいんです。子どもたちが当たり前に笑える環境と将来困らない程度の知識を学べる場所を、この街に」

 自分で言っていて大きすぎる夢だと震えそうになる。これは文化を変えること、常識を壊すことと同じだ。
 貴族が豊かに暮らしている輝きが落とした影。貧しく苦しい生活を強いられている人が存在するという現実。
 それを貴族の最上位である公爵に言うこと自体が危険だと冨岡は話してから気づいた。
 感情的に反発を受けることも笑われることも想像したが、存外にもホースは真剣に頷く。

「ほう、なるほど。それは大きな金額が必要な夢だ。しかし、それを口にするのは危険でもある。人によっては市民が富むことを良しとしない貴族もいるんだ。富とは力だよ。貴族よりも力を持つ市民が現れることは脅威でしかないからね。ふむ・・・・・・一応聞かせてもらえるかな、君がそうしたい理由を。まさか正義なんて言葉を口にすることはないだろう?」

 そう問いかけられた冨岡は、自然と口角を上げていた。

「正義ですよ」
「市民の神にでもなるつもりかい? それは危険な思想だ」
「いえ、俺自身の正義です。俺は幼い頃に親を亡くし、祖父に育てられました。その祖父が亡くなってから知ったのですが、俺と祖父は血のつながりがなかったんです。俺は祖父の優しさと愛でここまで生きてこられた。そして祖父は俺に『困っている人を救える人間であってくれ』と言葉を遺したんです」

 冨岡の言葉を聞くとホースは一気に柔らかい表情を浮かべ、何度か頷く。

「そうだったのか。すまない、君が『あの教会』とつながっていると聞いていたから多少警戒してしまった」

 そうか、と冨岡は思い出した。アメリアたちが住んでいる教会は元々『白の創世』という宗教の教会である。詳しくは知らないが、正義を掲げ人々を騙していたのだ。
 冨岡がその跡を継ごうと考えているのではないか、と警戒するのも当然である。
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