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挑発

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 甘いものが好きだと言うのは嘘ではないらしい。
 ここで冨岡は、思っていたよりもローズは素直な子なんだと認識し、さらに話を続ける。

「ローズお嬢様、俺はホース様から講師をしろとは命じられていませんよ? もしも、ローズお嬢様が俺を認めてくれるなら講師を請け負うように言われています。ですから、まずは俺と遊びませんか?」
「・・・・・・は?」

 突然遊びに誘われたローズは、何を言っているんだろう、という表情を浮かべた。
 少し警戒心が強まった、と感じながらも冨岡は攻めるのをやめない。

「お菓子を食べながら、楽しいゲームをしましょう」
「げぇむ?」
「実際に見てもらった方が早いですね」
「ちょっと、まだ私はするって言ってないわよ」

 ローズが慌てて冨岡に言うと、彼は煽るような笑みを浮かべて言い返す。

「この世のものとは思えないほどの美味を試してみたくはないですか? 時間を忘れるほど熱中できる遊びを試してみたくはないですか? 公爵家ご令嬢は思っていたよりも保守的なんですね」
「ほしゅてき?」

 言葉の意味がわからなかったローズは説明を求めるように繰り返しながら、ダルクに視線を送った。
 するとダルクはなるほど、と頷き「トミオカ様はお嬢様を臆病者と罵っておられます」と答える。
 そこまでは言ってませんけどね、と思いながらも冨岡は黙った。自分が煽っていることを理解したダルクが言葉の意味を増幅させているのだ、と受け入れる。
 そんな言葉を聞いたローズは再び腕を組み、口角を下げた。

「私は臆病者じゃないわ! そんなに言うなら『美味』と『遊び』を見せてみなさいよ!」

 大人びた話し方をするとはいえ、まだまだ幼いローズ。彼女は冨岡の挑発に乗せられ、そう言ってしまう。
 もちろん『この世のものとは思えないほどの美味』と『熱中できる遊び』にも興味はあった。冨岡はローズの『負けず嫌い』と『興味』を同時に刺激したのである。
 思惑通りに進んだことで冨岡はしめしめと口角を上げた。

「はい、わかりました。じゃあ、少しだけお待ちいただけますか?」

 冨岡が言うとローズは臨戦的な表情で聞き返す。

「何を待つのよ?」
「一度戻ってすぐに準備して参ります」
「ふん、そんなこと言って大したものを用意できないから焦っているんじゃないの? ついつい私の興味をひきたくて嘘を言ってしまった。そうでしょ? 公爵家の給金はそれほど魅力的なのかしら」

 勝ち誇ったようなローズ。彼女は冨岡が公爵家から金をもらうために嘘をついたのだと馬鹿にしたように見上げる。
 それでも冨岡は笑顔を崩さずに話し続けた。

「嘘かどうかはお嬢様自身が確かめてください。あ、ダルクさん」
「なんでしょう?」
「俺、一度教会に戻りたいのですが帰り道を教えてもらえますか。道がわからなくて」
「では、車を出させましょう」
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