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死者の墓を掘り返すのは飢えた魔物のみ

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 その『もしも』は冨岡の中で『もしも』などという可能性ではないものだ。
 それでもノルマンの出方がわからない以上、確定事項としては話せない。たとえノルマンが悪人ではないと知っていても、である。
 するとノルマンは『この若者は何を言っているのか』という表情で、しばらく冨岡を見つめた後に口を開いた。

「突拍子もない『もしも』じゃな。魔王に子ども・・・・・・いやいや、子どもがおったのならば『あの日』に消されておるはずじゃ。血筋を恐れるのは、この国の特性じゃからな。だが、しかし・・・・・・可能性としては考えられんことはない。面白い話ではある、か」

 魔王に愛する女性がいたという話は伝わっている。二人の間に子どもが産まれていても不思議ではない。しかし、子どもがいたとすれば『あの日』、つまり『魔王の終焉』で殺されているはずだ、と考えるノルマン。
 だが、子どもがいたとして、国軍が魔王と一緒に殺害したのならば、その話も伝わっているだろう。魔王の血筋が途絶えた、という情報は国民に安心を届けるものだからだ。
 そこまで考え、ノルマンは冨岡の『もしも』を否定した。
 しかし、冨岡はさらに食い下がる。

「俺は話でしか聞いていませんが、魔王は頭のいい人だったんですよね」
「そうじゃな。天才という言葉はあの男のためにあるのじゃろう。結果的には『愚行』とされているが、損得よりも正義感が勝っただけで、優秀すぎる男じゃったよ。その後に執着と復讐心に囚われるがな」
「そう、魔王は頭がいいんです。どうにかして、自分の子どもを避難させた。そう考えることはできませんか?」
「ふむ・・・・・・お前さんはどうしても、子どもの存在を考えさせたいわけじゃな。魔王について研究でもしたいのか? だが、考えてみれば、魔王なら子どもの存在を完璧に隠匿することはできよう。奴は相手の心を操作する魔法を完成させておった・・・・・・つまり、記憶を改竄することは可能じゃ。産婆や周囲の人間から子どもの記憶を消せば良い。国軍に知られておったとしても、知っておる者全ての記憶を改竄すれば、広まることもない。じゃが・・・・・・それ以上は踏み込みとうないのう」

 ノルマンそう言いながら茶を口に含み、黙ろうとする。
 だが冨岡としては、ここで話を止めるわけにはいかない。

「踏み込みたくない、ですか?」
「そりゃそうじゃ。その『もしも』があったとして、魔王が命をかけて『なかったことにした』事実じゃろうて。それならばワシが暴くわけにはいかん。死者の墓は掘り返すのは飢えた魔物のみ、じゃよ」
「それじゃあ、その『子ども』に会えるとしたら?」
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