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第二章

エルフ②

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 素早く剣を鞘に収め、騎士の礼を取るイージス卿の前で、父はゆっくりと口を開く。

『おい、エルフ』

「なんだ、人間」

 父と同じくらいぶっきらぼうな態度を取る緑髪の美男子に、私もユリウスも内心ハラハラする。
公爵様お父様の機嫌を損ねたら……』と不安になるものの……当人はあまり気にしていないようだった。

『何があっても、ベアトリスを害さないと誓えるか?』

「ああ。四季を司りし天の恵みは我々エルフにとっても、重要な存在。親切に接することはあれど、危害を加えるなんてことは有り得ない」

 迷いのない口調でそう言い切り、緑髪の美男子は水晶へ向き直った。
通信越しに父のことを真っ直ぐ見つめ、自身の耳に触れる。

「エルフの象徴であるこの耳を賭けてやってもいい」

『……そうか。分かった』

 おもむろに相槌を打つ父は手で顔を覆い隠し、大きく息を吐いた。
かと思えば、ゆっくりと前髪を掻き上げる。

『そこまで言うなら、ベアトリスとの接触を許す。ただし、今日だけだ』

 エルフの覚悟の度合いが見て取れたからか、父は渋々折れてくれた。
パッと表情を明るくする私達の前で、彼はオレンジ髪の少年へ目を向ける。

『イージス、日付けが変わってもまだ居座っているなら容赦なくエルフを斬れ』

「了解です」

 『今度こそ、斬ります!』と意気込み、イージス卿はグッと手を握り締めた。
物騒な……でも心強い姿勢を見せる彼に、父は大きく頷く。

『それから、ベアトリス』

「は、はい」

 まだ何か条件があるのかもしれないと考え、私は慌てて姿勢を正した。
若干表情を強ばらせる私の前で、父はスッと目を細める。

『エルフが何が粗相をしたら、すぐ私に連絡しなさい。即刻引き返して、キツいお灸を据えてやろう』

「わ、分かりました。ありがとうございます」

 また聖剣を抜くような騒動に発展しそうで、少し気後れするものの……私は素直に父の厚意を受け取った。
心配の裏返しだと知っているから。

『さて、そろそろ時間だな。ベアトリス、出来るだけ早く帰ってくるから少し待っていなさい』
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