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第二章

結婚《ルーナ side》①

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◇◆◇◆

 ────今から約八年ほど前のこと。
私はハメット侯爵家の当主たる父に呼び出され、ある事実を突きつけられた。

「なっ……!?政略結婚なんて、そんなの困ります!私は成人したら家を出て恋人のところに嫁ぐ、と再三言っていたじゃないですか!お父様だって、納得してくれていた筈です!」

 執務机に手を突く形で身を乗り出し、私は『話が違う!』と喚く。
癖毛がちな桃髪を振り乱しながら。

「仕方ないだろう。陛下たっての願いなのだから」

 『聞き入れる他ない』と言い放ち、父はこちらの反論に一切耳を貸さなかった。
相変わらず一方的で独善的な彼を前に、私は歯を食いしばる。

「とにかく、私は絶対に嫁ぎません!」

 皇帝陛下からの求婚と言えど、私の心は変わらない。
夫にしたいと思うのも、生涯支えたいと思うのも恋人のアッシュだけ。
『他の殿方なんて有り得ないわ!』と考える中、父は眉間に皺を寄せる。

「そんな勝手が許されると思うのか」

「勝手なのは、どちらですか!」

「貴族としての義務を果たそうとしないお前の方だろう」

 淡々とした口調でそう言い放つ父に、私は思わず乾いた笑みを零した。

「貴族?これまで、私を侯爵令嬢として扱ってくれたことなんてありませんよね?庶子・・だからとろくに食事も与えず、部屋へ閉じ込めて……それなのに、貴族としての義務を果たせ?理不尽にもほどがあります!」

 『都合のいいときだけ貴族扱いして……!』と眉を顰め、私は鋭い目付きで父を睨みつけた。
が、あちらは顔色一つ変えない。

「だが、これまで育ててやった恩はあるだろう?誰のおかげでこんなに大きくなれたと思っているんだ?」

「必要最低限の生活を保証した程度で、育ててやった気になるなんてお父様は本当に傲慢ですね……!」

 『有り得ない!』と非難すると、私は身を翻した。
ここで何を言っても、無駄だと思って。

 予定より少し早いけど、恋人のところに行きましょう。
駆け落ちのような形になってしまうけど、この際そんなの気にしていられないわ。

 『今夜にでも、侯爵家を去ろう』と決意し、私は執務室の扉を開けた。
と同時に、絶句する。
だって、そこには────皇室の騎士がズラリと並んでいたから。
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