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第一章
第32話『疑問の答え』
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それから、俺はタオルドライからブラッシングまでしてやり、ウリエルのヘアセットを終えた。紺のローブに着替えたウリエルと共に森を抜けながら、『はぁ····』と内心溜め息を零す。
髪の手入れって、あんなに時間がかかるものなのか?タオルドライとブラッシングだけで軽く30分はかかったぞ···?ウリエルの髪が長かったこともあるんだろうが、髪の毛をあんなに丁寧に手入れしたのは初めてだ。俺は基本軽くタオルドライしたら自然乾燥するからなぁ····。ドライヤーなんて面倒臭くてかけないし···。
ウリエルの髪の手入れをすることで、女子の苦労が少しだけ理解出来た。
綺麗であるために日々努力を怠らない女子の皆さんには頭が上がらない。俺だったら、毎日あんな丁寧に髪の手入れなんてしてられないからな。女子の美意識の高さと惜しみない努力には目を見張るものがある。やっぱ、女ってすげぇなぁ····。
『まあ、髪は女の命って言いますしね。あっ、もうすぐ森を抜けるので森を抜けたら右へ曲ってください。ずーっと右へ直進していくと、小さな村が見えてくる筈です。今日はそこで休みましょう』
あぁ、そうだな····って、ウリエルが居るから村で休む訳にはいかないだろ!魔族ってバレたら、どうするんだよ!
『その心配はありませんよ。基本村人は旅人に過剰干渉して来ないので。宿屋を決めたら、部屋に篭れば良い話ですよ。さすがに三日連続野宿ではウリエルの方が辛いでしょう?いい加減、ふかふかのベッドで寝かせてあげて下さい』
うっ····まあ、確かにそうだが····万が一って可能性が····!
『はぁ····音羽は心配性ですねぇ···。ウリエルが魔族だとバレたら、逃げれば良い話じゃないですか。住民が50人にも満たない小さな村です。逃げるのは容易いでしょう?それとも、音羽は今日もまたウリエルに野宿をさせるつもりですか?』
うぐっ····ウリエルを引き合いに出されたら、頷くしかないな···。
俺は内心溜め息を零しながら、ビアンカの提案に了承の意を示す。
俺だって、好きでウリエルを野宿させている訳では無い。ふかふかのベッドで寝かせてあげたいし、屋根のある部屋で寝かせてあげたい。その気持ちはビアンカと変わらなかった。
まあ、それにビアンカの言う通り、ウリエルの正体がバレれば逃げれば良い話だ。脚力に自信はないが、体力には自信がある。それにいざとなれば、無職の特殊能力でどうとでも出来るしな。
『無職の特殊能力──────転職は命を削る危険な能力なので出来れば使って頂きたくありませんが····まあ、いざとなれば転職を使って切り抜けましょう』
ああ、そうだな。あくまで無職の特殊能力────転職は奥の手と考えておいた方が良い。場合によっては死も有り得る危険な能力だ。軽いノリでほいほい使えるものじゃない。
オークを討伐したことでレベルが29から38に上がったが、それでもまだ生命力は足りない。まあ、生命力はあればあるほど良いとされる基礎能力だからな。きっとどれだけレベルが上がったとしても、足りることは無いだろう。
ウリエルの小さな歩幅に合わせながら、歩くペースを落とす。短い足でトテトテ歩くウリエルは可愛らしく、歩くペースを落とすことにあまり苦を感じない。なんでだろうなぁ····癒されるからかな?ただ歩く姿を横で眺めているだけなのにこんなにも癒される。ウリエルが子供だからってのもあるが、彼女自身が癒し系に分類される、おっとりとした性格をしているせいもある。ウリエルって、荒れた心を癒す不思議な力があるよなぁ···。
『ウリエルに癒されているところ申し訳ありませんが、前方で魔物と人間の戦闘が行われているようです。魔物は群れからはぐれたコカトリス一体。そして、人間は子供の男の子のようですね。大分苦戦しているみたいです』
コカトリスって、確か雄鶏の姿に蛇の尻尾を持った魔物のことだよな?ラノベでよく使われる種類の魔物のため、多少の知識はある。まあ、その知識が合っているかどうかは分からないがな。
『コカトリスの外見は音羽が持つ知識と全く同じです。それより、どうしますか?助けますか?無視しますか?』
んー····どうするかなぁ····。
コカトリスって、言うまでもなくスライムやオークより強い魔物だよなぁ····。俺のレベルで太刀打ち出来るか分からないし、俺には守るべき存在が居る。この子を危険に晒すくらいだったら、無視した方が····でも、戦ってるのは子供なんだよな?しかも、苦戦中···。未来ある子供を見捨てる訳には····いや、でもウリエルが···。
思考が堂々巡りを始めた俺は悶々と思い悩む。
その男の子を助けたい気持ちはある。でも、ウリエルの保護者である以上、この子の安全を確保するために無視するべきじゃないのか?
自己満の正義感と保護者としての責任感が俺の中で争いを始め、なかなか結論が出せない状態である。こういうのを優柔不断と言うのだろう。
俺個人の意見としてはその子供を助けてあげたい。が、ウリエルの保護者として考えるなら無視するのが最善である。自分の気持ちに従うか、ウリエルの身を危険に晒さないために無視を決め込むか····。う~む···悩みどころだ。
『はぁ·····音羽は相変わらず馬鹿ですね』
おい、てめぇ!デーモンエンジェル!それはどういう事だ!!俺は確かに頭が良い方ではないが、学校の成績はそこそこ良かった筈だ!馬鹿と罵られるほど、頭は悪くない!!
猛抗議をおっ始める俺の脳内に『はぁ····』と深い溜め息が響いた。
『ウリエルはもう自衛の術を持っています。子供とは言え、ブレスを扱えるドラゴン族の娘ですよ。コカトリス程度に遅れを取るとは思えませんね。それとコカトリスの強さですが、音羽よりずっと下ですよ。例えるなら、オークの二倍の強さと言ったところでしょうか。音羽やウリエルの敵ではありません』
オークの二倍程度の強さ····?まあ、それなら確かに俺やウリエルの敵ではない。こちらが隙を見せない限り、負けることはないだろう。そう、隙を····って、そういえば!!ビアンカ!!お前、昨日のオーク戦で俺に嘘の情報渡しただろ!?オークの数、五匹じゃなくて六匹だったじゃねぇーか!!
昨日の夜はウリエルのブレスとお師匠様との約束の件で話し込んでいたため、すっかり忘れていたがビアンカは確かに昨日ミスをしていた。昨日のビアンカは確かに『オークが五匹』と、俺に伝えていた。にも関わらず、六匹目のオークが現れたのだ。これは明らかな確認ミス。それ相応の謝罪を求め····。
『·····確かに昨日、私はミスをしました。ですが、あの六匹目に関しては私も予想外だったんですよ。あの六匹目のオーク、やけに小さくありませんでしたか?』
小さく····?あー····まあ、確かに他のオークより一回り小さかったな。
って、そんな事よりもお前は俺に言うことが···。
『昨日現れた六匹目のオークは子供だったんですよ。基本オークの子供は戦闘を行いません。言うならば非戦闘員です。逃げるか、親のオークに守ってもらうかしか出来ない筈なんですよ、子供のオークは···。だから、襲ってきたオークの頭数に六匹目の子供のオークを含まなかったんです』
つまり、非戦闘員である筈の子供のオークが襲ってきたのはビアンカも予想外だったと····?
『はい····。あの子供のオークはよっぽど親のことが好きだったんでしょうね。そうじゃなきゃ、親のオークを殺された時点で子供のオークは本能的に逃亡を選択しますから····親の仇討ちのために戦う子供のオークなんてそうそう居ませんよ』
なるほどな····だから、あの六匹目のオークが何故か泣いている気がしたのか····。親を殺されて悲しいのは当たり前だ。殺した相手である俺を憎むのも当然だろう。あのオークとの戦闘に特別な何かを感じたのはそういう事だったのか···。あの奇妙な六匹目のオークとの戦闘に何故敬意を払わなければならないと判断したのか····やっと分かった気がする。
ずっと疑問だったそれがストンと腑に落ちた。
と同時に胸を締め付ける罪悪感に襲われる。痛いほど締め付けられる胸が····弱肉強食の異世界を恨めと悲鳴をあげていた。
髪の手入れって、あんなに時間がかかるものなのか?タオルドライとブラッシングだけで軽く30分はかかったぞ···?ウリエルの髪が長かったこともあるんだろうが、髪の毛をあんなに丁寧に手入れしたのは初めてだ。俺は基本軽くタオルドライしたら自然乾燥するからなぁ····。ドライヤーなんて面倒臭くてかけないし···。
ウリエルの髪の手入れをすることで、女子の苦労が少しだけ理解出来た。
綺麗であるために日々努力を怠らない女子の皆さんには頭が上がらない。俺だったら、毎日あんな丁寧に髪の手入れなんてしてられないからな。女子の美意識の高さと惜しみない努力には目を見張るものがある。やっぱ、女ってすげぇなぁ····。
『まあ、髪は女の命って言いますしね。あっ、もうすぐ森を抜けるので森を抜けたら右へ曲ってください。ずーっと右へ直進していくと、小さな村が見えてくる筈です。今日はそこで休みましょう』
あぁ、そうだな····って、ウリエルが居るから村で休む訳にはいかないだろ!魔族ってバレたら、どうするんだよ!
『その心配はありませんよ。基本村人は旅人に過剰干渉して来ないので。宿屋を決めたら、部屋に篭れば良い話ですよ。さすがに三日連続野宿ではウリエルの方が辛いでしょう?いい加減、ふかふかのベッドで寝かせてあげて下さい』
うっ····まあ、確かにそうだが····万が一って可能性が····!
『はぁ····音羽は心配性ですねぇ···。ウリエルが魔族だとバレたら、逃げれば良い話じゃないですか。住民が50人にも満たない小さな村です。逃げるのは容易いでしょう?それとも、音羽は今日もまたウリエルに野宿をさせるつもりですか?』
うぐっ····ウリエルを引き合いに出されたら、頷くしかないな···。
俺は内心溜め息を零しながら、ビアンカの提案に了承の意を示す。
俺だって、好きでウリエルを野宿させている訳では無い。ふかふかのベッドで寝かせてあげたいし、屋根のある部屋で寝かせてあげたい。その気持ちはビアンカと変わらなかった。
まあ、それにビアンカの言う通り、ウリエルの正体がバレれば逃げれば良い話だ。脚力に自信はないが、体力には自信がある。それにいざとなれば、無職の特殊能力でどうとでも出来るしな。
『無職の特殊能力──────転職は命を削る危険な能力なので出来れば使って頂きたくありませんが····まあ、いざとなれば転職を使って切り抜けましょう』
ああ、そうだな。あくまで無職の特殊能力────転職は奥の手と考えておいた方が良い。場合によっては死も有り得る危険な能力だ。軽いノリでほいほい使えるものじゃない。
オークを討伐したことでレベルが29から38に上がったが、それでもまだ生命力は足りない。まあ、生命力はあればあるほど良いとされる基礎能力だからな。きっとどれだけレベルが上がったとしても、足りることは無いだろう。
ウリエルの小さな歩幅に合わせながら、歩くペースを落とす。短い足でトテトテ歩くウリエルは可愛らしく、歩くペースを落とすことにあまり苦を感じない。なんでだろうなぁ····癒されるからかな?ただ歩く姿を横で眺めているだけなのにこんなにも癒される。ウリエルが子供だからってのもあるが、彼女自身が癒し系に分類される、おっとりとした性格をしているせいもある。ウリエルって、荒れた心を癒す不思議な力があるよなぁ···。
『ウリエルに癒されているところ申し訳ありませんが、前方で魔物と人間の戦闘が行われているようです。魔物は群れからはぐれたコカトリス一体。そして、人間は子供の男の子のようですね。大分苦戦しているみたいです』
コカトリスって、確か雄鶏の姿に蛇の尻尾を持った魔物のことだよな?ラノベでよく使われる種類の魔物のため、多少の知識はある。まあ、その知識が合っているかどうかは分からないがな。
『コカトリスの外見は音羽が持つ知識と全く同じです。それより、どうしますか?助けますか?無視しますか?』
んー····どうするかなぁ····。
コカトリスって、言うまでもなくスライムやオークより強い魔物だよなぁ····。俺のレベルで太刀打ち出来るか分からないし、俺には守るべき存在が居る。この子を危険に晒すくらいだったら、無視した方が····でも、戦ってるのは子供なんだよな?しかも、苦戦中···。未来ある子供を見捨てる訳には····いや、でもウリエルが···。
思考が堂々巡りを始めた俺は悶々と思い悩む。
その男の子を助けたい気持ちはある。でも、ウリエルの保護者である以上、この子の安全を確保するために無視するべきじゃないのか?
自己満の正義感と保護者としての責任感が俺の中で争いを始め、なかなか結論が出せない状態である。こういうのを優柔不断と言うのだろう。
俺個人の意見としてはその子供を助けてあげたい。が、ウリエルの保護者として考えるなら無視するのが最善である。自分の気持ちに従うか、ウリエルの身を危険に晒さないために無視を決め込むか····。う~む···悩みどころだ。
『はぁ·····音羽は相変わらず馬鹿ですね』
おい、てめぇ!デーモンエンジェル!それはどういう事だ!!俺は確かに頭が良い方ではないが、学校の成績はそこそこ良かった筈だ!馬鹿と罵られるほど、頭は悪くない!!
猛抗議をおっ始める俺の脳内に『はぁ····』と深い溜め息が響いた。
『ウリエルはもう自衛の術を持っています。子供とは言え、ブレスを扱えるドラゴン族の娘ですよ。コカトリス程度に遅れを取るとは思えませんね。それとコカトリスの強さですが、音羽よりずっと下ですよ。例えるなら、オークの二倍の強さと言ったところでしょうか。音羽やウリエルの敵ではありません』
オークの二倍程度の強さ····?まあ、それなら確かに俺やウリエルの敵ではない。こちらが隙を見せない限り、負けることはないだろう。そう、隙を····って、そういえば!!ビアンカ!!お前、昨日のオーク戦で俺に嘘の情報渡しただろ!?オークの数、五匹じゃなくて六匹だったじゃねぇーか!!
昨日の夜はウリエルのブレスとお師匠様との約束の件で話し込んでいたため、すっかり忘れていたがビアンカは確かに昨日ミスをしていた。昨日のビアンカは確かに『オークが五匹』と、俺に伝えていた。にも関わらず、六匹目のオークが現れたのだ。これは明らかな確認ミス。それ相応の謝罪を求め····。
『·····確かに昨日、私はミスをしました。ですが、あの六匹目に関しては私も予想外だったんですよ。あの六匹目のオーク、やけに小さくありませんでしたか?』
小さく····?あー····まあ、確かに他のオークより一回り小さかったな。
って、そんな事よりもお前は俺に言うことが···。
『昨日現れた六匹目のオークは子供だったんですよ。基本オークの子供は戦闘を行いません。言うならば非戦闘員です。逃げるか、親のオークに守ってもらうかしか出来ない筈なんですよ、子供のオークは···。だから、襲ってきたオークの頭数に六匹目の子供のオークを含まなかったんです』
つまり、非戦闘員である筈の子供のオークが襲ってきたのはビアンカも予想外だったと····?
『はい····。あの子供のオークはよっぽど親のことが好きだったんでしょうね。そうじゃなきゃ、親のオークを殺された時点で子供のオークは本能的に逃亡を選択しますから····親の仇討ちのために戦う子供のオークなんてそうそう居ませんよ』
なるほどな····だから、あの六匹目のオークが何故か泣いている気がしたのか····。親を殺されて悲しいのは当たり前だ。殺した相手である俺を憎むのも当然だろう。あのオークとの戦闘に特別な何かを感じたのはそういう事だったのか···。あの奇妙な六匹目のオークとの戦闘に何故敬意を払わなければならないと判断したのか····やっと分かった気がする。
ずっと疑問だったそれがストンと腑に落ちた。
と同時に胸を締め付ける罪悪感に襲われる。痛いほど締め付けられる胸が····弱肉強食の異世界を恨めと悲鳴をあげていた。
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