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第二章.家族になろうよ

30.月花草

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 おやつの時間には着く予定だったのに、すっかり夜になってしまった。夜に花見をする予定で出てきているので、おうちの人は心配しないだろうが、私は疲れてキーリーに背負われている。ジョエルなら気にならなくなってきたけど、キーリーに背負われるようになったら終わりじゃね? って思った。言ったら落とされそうだから、秘密だ。
 まあ、いい。やっと花見開始だ。

「すごーい。キレイ!」
 開けた丘の上が、一面花畑になっていた。1つひとつの花は、500円玉サイズで大きくはないのだが、群生して咲き乱れる姿は、圧巻だった。ハナニラのような花は大変可愛らしく、地面に広がる星空のようにも見える。白いから月あかりに反射しているのだろうか、花自体が発光しているようにも見えた。
「ただの白い花じゃないよ。すごいよ」
 自分の語彙力がないのが、切ない。とてもキレイだ! キレイすぎる!!

 一通り堪能した後、夜用のお弁当を広げようとしたら、誰か来た。これだけ素晴らしい花畑だ。他の見物客が来ても、不思議ではない。
「来てくださったのですね。ジョエルさん」  
 恰幅のいい、30歳前後の男性が現れた。ここは、ジョエルの地元だ。知り合いなんだろう。親しげに話しかけてくるが、ジョエルは渋面だ。嫌いな人なんだろうか。
「あなたたちを呼んだ覚えはないのですがね。まあ、いいでしょう」
 何をしてしまったか謎だが、すごい睨まれた。
「行け!」

 男の後ろから、犬が沢山飛び出してきた。ペットをつれてきたのかと思っていたのだが、猟犬なんだろうか? 牙を剥き出して、怖い顔でこちらに走ってきた。シェパードが仔犬に見えるくらい大きな犬も混ざっている。怖いなんて物じゃない。  
 話をするほど近くにいたのだ。当然、私は1人で避けることもできない。初撃は、たまたま近くにいたタケルが防いでくれたが、敵の数が多すぎて分断されてしまった。ジョエルとキーリーは、ちょっと遠い。自分なりに逃げようと頑張ったが、一歩逃げたかどうかくらいで、即背中に衝撃があり、吹っ飛ばされた。恐怖を感じたが、カマイタチを出さないように自制した。タケルたちを巻き込みたくないし、何より花を散らしたくない。気合いで押さえ込んだことを褒めて欲しい。まったく役に立たない立たないまま、戦線離脱することを許して欲しい。


 目覚めたら、ジョエル実家の客間の寝室にいた。ジョエルたちは、無事に帰ってきたようだ。良かった。タケルは一緒に寝ていたが、ケガもなさそうで、何よりだ。 
「うわぁ、何これ」  
 私は、フリル満載の薄緑のパジャマ? ひょっとしたら、ネグリジェ? を着ていた。こんなの持ってなかったのに、どこから出てきたんだろう。そして、なんで私の服はヒラヒラと緑ばっかりなんだろうか。黒髪は緑の服を着なければならない決まりでもあるのだろうか。ありそうだ。この世界は、意味不明なルールが多いのだ。
「るる、おきた。える、よぶ」
 不用意な一言で、タケルを起こしてしまったらしい。タケルは、ベッドから飛び降りて、部屋から出て行ってしまった。ジョエルが起きている時間だったら、いいのだけれど。

 しばらくして、ジョエルがやってきた。やってきたのだが、回れ右してドアを閉められた。部屋に入って来ない。どうした? いつもノックもせずに勝手に入ってくるジョエルらしくない。
「るる、きがえる」
 タケルが入ってきて言うので、着替えた。ジョエルが入ってこないか、ドキドキした。

「ルルー、痛いところはない?」
 やっとジョエルが入ってきた。ドアの外から、キーリーとお兄さんズの声が聞こえる。お兄さんズが入ってきたら、面倒だ。頑張れ、キーリー。追い返してくれ。
「ん。平気。特級傷薬を塗ってくれたんでしょ? ありがとう」
「守りきれなくて、ごめん」
「ジョエルが気にすることないよ。戦闘力もないくせに冒険者を名乗ってる私がおかしいんだよ。それより、あれは何だったの?」

 ジョエルの話は、クソだった。あの犬たちの飼い主の男性は、見合いの釣り書の1人だったらしい。呼び出しに全く応じないジョエルをギルドの指名任務を利用して呼び出して、キレイな花畑で素敵な告白をする予定だったそうだ。道中のモンスターも、あの人が連れてきたもので、邪魔な夫と子どもを始末する予定だったけど、言うことを聞いてもらえなくて、野に放たれてしまったらしい。馬鹿だ。馬鹿すぎる。ツッコミどころしかない。
「あー、なんていうか、美しさは罪だね」
「そうだね。ルルーの顔を見た途端、運命の出会いだって言ってたよ」
「嫌だよ。そんな運命」
「エメリーとベイリーに抹殺依頼を出しておいたから、もう顔を見ることはないよ」
「抹殺!!」
「社会的にね」
「それなら、まぁいいか」

「ルルーは、元気になったら、買い物ね」
「いやいや、いいよ。お金がもったいない」
「胸にサラシ巻いてる方が、あり得ない!」
「な!」
 見られた?! だって、仕方がないじゃないか。シャルルの荷物には、それらしい物がなく、その時点でサラシを巻いていたら、そういう文化なんだと思うじゃないか。巻かないと邪魔になるから、風呂に入る度に面倒臭いなぁ、と思いつつ、巻いてきたのだ。最近は、巻くのも上手になってきたんだよ!
「見たのは、背中だけだよ。服も皮膚もスッパリ切れてたから」
「背中ぱっくり? 傷残ってない?」
 傷物にしてしまうなんて、シャルルに申し訳ないよ。 借り物なら、返さなければならないのに。
「じっくりは見てないからわからないけど、心配なら、母さんに見てもらえばいい。ついでに下着も見繕ってもらいなさい。形が崩れたら、どうする?」
 別に、どうもしないけど。
「なんで、ジョエルが私より女性用下着に詳しいのよ。ジョエルも使ってるの?」
「一般常識だ!」
 ジョエルの顔は、真っ赤だった。なんだ、違ったのか。そうだよね。女装してるけど、膨らんでないもんね。
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