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第二章.家族になろうよ

31.閑話、キーリー視点

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 シャルルの不用意な一言で、ジョエルの実家でジョエルの夫役をやることになってしまった。そんな茶番で騙されるのなんて、シャルルとジョエルくらいな物だと思うのだが、その理論は通じなかった。
 シャルルは面白がっているだけかもしれないが、ジョエルに関しては、自分の実家だぞ。正気とも思えない。
 だが、何故かシャルルがとても楽しみにしている。これは、断れない流れだ。自分の実家なら絶対に連れて行かないが、シャルルが行きたいなら、連れて行こう。ジョエルは自分の実家よりシャルルを優先するだろう。誰も止める人間はいなかった。

 だが、俺もジョエルもうっかりしていた。なんで夫婦役だよ、というところに意識を持っていかれすぎていて、ハイエナの存在に気付かなかった。 
 ジョエルは5人兄弟だ。4人の兄がいる。どれも腹の立つ顔をしているのだから、とっとと嫁取りして独立でもしてりゃあいいものを、全員実家に住んでいた。
 婿の立場だが、殴り飛ばしてやろうかと思うほど、あからさまにシャルルにまとわりつく兄たち。シャルルも立場上強く言えないのか、鬱陶しくて疲れてしまったのか、覇気がない。タケルは食い物に夢中だし、ジョエルは役に立たない。そろそろ我慢をやめてもいいだろうか。そもそも、ジョエルの見合いの話こそ、どうでもいい。


 月花草の話を聞いて、出かけることに決めた。帰るのでなければ、ずっと外出していて、寝に帰ってくるくらいにすれば良い。実家に家族を連れ帰って、周辺の観光をするのは不自然ではない。月花草なら、見頃は夜だ。寝る直前まで外出することができる。
 次の日は、朝市で食材調達をして、シャルルに弁当を作らせることにした。朝市に行っている間に、兄どもが出勤している予定だったが、全員家にいた。ずっとシャルルの飯作りに張り付いていたらしい。俺が弁当を作れば良かった。 

 花見について来られたら、出かける意味がない。やんわり断るのは効果がなかったので、仕事に不真面目な男は最低だ、とシャルルに言わせたら、散って行った。
 そこまでやらせても、シャルルは自分が狙われているのに気付いていない。気付かれて失うことになったら、たまらない。一生気付かなくていいが、なんでこんなに鈍感なんだろうな。  
 道中、モンスターが湧いていて、2人で茂みに隠れている間とか、マジでどうしようかと思ったのに。モンスター待ちが長すぎて疲れたとかで、背負わなきゃならなくなった時に、俺がどう思ったかも知らないんだろう。くっそ。


 花畑に着いた時の反応は、想像通りだった。
 さっきまで疲れたと歩くのを拒否していたくせに、
「すごーい。キレイ! ただの白い花じゃないよ。すごいよ」
などと言って、テンション高く走り回っている。一通り堪能した後、弁当を食おうということになったのだが、変なオッサンが現れて、めちゃくちゃになった。

 シャルルに向かって走ったが、犬より早くは走れない。間に合わなかった。シャルルが、吹っ飛ぶ!
「シャルルーーー!」 
 邪魔な犬を殴り飛ばして、追い縋る。そのまま抱えて走った。タケルがついてきているので、後ろは任せる。  
 ある程度距離を取ったら、下ろして様子を見た。 
 ぐったりして動かないが、いつも通り気絶しているだけのようだ。魔力を放出した気配はなかったが、同じ症状なのだろうか?
 傷は、背中に1箇所。首の下から腰近くまでザックリと深めの引っ掻き傷がついている。
 ひとまず手持ちの水をぶちまけ、制圧完了後、酒を持ってきてかけてから、特級傷薬を塗る。あっという間に傷は治ったが。 
「やべえ」
 傷があるうちは傷しか見てなかったが、傷がなくなったら。これは、見てはいけないヤツだ。少なくとも、晒したくはない。誰かに見せる前に、服を一枚脱いで着せた。濃い色の服を着ていて良かった。


 抱えて、ジョエルのところへ戻る。
 犬は全部蹴散らされ、男には剣が突きつけられていた。何をしたかったのかは知らんが、ジョエルの知り合いなのにジョエルの実力を知らないとか、阿呆で間違いない。
「で、そいつは、誰だ」
「ルルーは?」
「薬で治した。寝てるだけだ」
「運命の出会いだ! なんと美しい!!」
 ジョエルに凹まされて座ってたオッサンが、こっちにやって来たので、蹴り戻す。
「何だ。これは」
「釣り書その1」
「俺はともかく、大事な娘にケガさせる男に嫁ぐバカが、何処にいるんだよ」 
「わたしは嫁がないけれど、このバカなら嫁ぐのでしょうね」 
 ああ、確かにバカがいた。ジョエルをやるからシャルルを寄越せと言っているバカが。
「ジョエルの娘が美人なのは順当だろが、阿呆。どっちも俺の物だ。阿呆にはやらん」 
 阿呆はジョエルに任せて、タケルと帰った。道中、シャルルの背中の穴からサラシがわさわさ出てきて、びっくりした。 


 ジョエルの家に着いたら、シャルルをベッドに寝かせて、ジョエル母に託す。他に託せる人材がいない。女性メンバーの追加募集の必要性を感じた。ジョエル母は、喜んで引き受けてくれたが、喜びが大き過ぎて、不安になった。人材不足は深刻だ。
 ジョエル母が出て来た後は、タケルに託す。俺の係は、ジョエル兄の撃退任務だ。寝てる女の部屋に入るな、と言えば帰って行くが、定期的にもう起きたか聞きに来る。それが4人だ。クソうぜえ。兄弟間で情報共有してろよ、こっちに来るな。
 ジョエルが帰ってきたら、ジョエルがジョエル兄2人を連れて行った。阿呆の始末を押し付けるらしい。残りの兄も連れて行けばいいのに。もうそろそろ簀巻きにして黙らせてもいいだろうか。ジョエル母に頼めば案外OKしてくれるんじゃないか、という妄想が捗った。  

 タケルが部屋から出てきた。シャルルが起きたらしい。様子を見に行きたかったが、俺には大事な仕事がある。ジョエル兄の排除だ。
 本来なら、弟であるジョエルがやればいいと思う。だが、ヤツは、うっかり殴ると人を殺す。4人もいるから1人くらい死んでもバレない、とか言ってるバカには任せられない。1人くらいと言わず、全滅させる未来しか見えない。俺も頭の中では、何度か殺った。だからこそ、任せられない。
 タケルは、論外だ。あれは、そもそも人を殺す魔獣だ。話にならない。
 仕方がないから、シャルルをジョエルに譲って、兄の撃退任務に励む。そろそろ問答無用で、蹴り飛ばしてもいいだろうか。うざ兄どもめ。 

 部屋に入ったジョエルが、速攻出てきた。何を見たのか、顔が真っ赤だ。ジョエル母め、何をした。ジョエル兄など、死なせれば良かった。俺が入れば良かった!
 ジョエルが動かないから、タケルを派遣する。ジョエル兄がとうとう実力行使に出たので、全員殴り飛ばしてふん縛った。急所は外した分、思いっきり殴りつけた。ストレス発散だ。
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