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◇分岐点のアラサー①

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***

 仕事を終え、傘を差しながら店の隣にある駐車場へと赴くと、そこには一台しか車は停まっていなかった。
 私に気づいた日下さんが、運転席のドアを開けてさっと外に出てくる。

「お待たせしてすみません」
「とりあえず乗って」
「はい」

 日下さんは雨が降っているのもいとわず、運転席側からくるりと周って助手席のドアを開けてくれた。
 そして私がおずおずとその高級車へ身体を滑り込ませたのを見届けたあと、今度は静かにドアを閉めた。
 革張りですごく座り心地の良いシートだ。
 外国の車ではないと思うけれど、この分野に疎い私は、これがなんという名の車なのかわからない。
 だけどとても高そうだということだけはわかる。
 冷静に考えたら、高級車に乗っているのもうなずける。日下さんはサンシャインホールディングスの副社長で、お金持ちご子息なのだから。
 運転席に戻った彼は静かに車を発進させた。

「あの……どこに向かってるんですか?」
「知人が教えてくれたんだが、わりと洒落たレストランがある。俺はまだ一度しか行ったことはないけど料理の味もうまい。そこにしようかと思ってるんだ」
「そうですか」

 無表情に淡々とそう告げられたら、私はとりあえず納得したように相槌を打つしかない。
 そのあと私たちはひとことも喋らないままだった。日下さんは車をしばらく走らせて、とあるレストランの駐車場に停めた。

 レストランに入ると、まずその天井の高さに圧倒された。
 二階席もあるようだが、一階のテーブル席の真上は吹き抜けになっていて、とても開放的で優雅な空間が造られている。
 内装は白を基調にしているため、清潔感があってとても綺麗だ。

 席に案内されてスタッフからメニューの説明を受けたが、慣れていない私はなにを注文すればいいのかよくわからない。

「あの、これって……」
「地中海料理だ。嫌いだった?」
「いえ! あ、なるほど。地中海料理はよくわからないので、私はどれでもかまいません」

 ギリシャやスペイン、ポルトガル……
 メニュー表の料理名の右端にそれぞれの国旗が載せられている。

 文字だけのメニュー表なので、どんな料理なのかまったく想像がつかない私は、日下さんにオーダーを丸投げをした。
 わかるのはパエリアやアクアパッツァくらいなのだから仕方がない。
 日下さんがディナーのコースと赤ワインをスマートにオーダーしてくれた。

「私、地中海料理のコースなんて食べたことないです」
「そう。体験できてよかった」
「はい。どんな料理が登場するのか楽しみです」

 エヘヘと笑いかけてみたけれど、それでも彼の無表情は崩れる様子がない。
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