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57・どうなってんの?この世界

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 私の問いかけは、思いのほか二人の妖精族を動揺させたみたいだった。
 でもね、もともとはエンデとグリア氏が口にしたのよ?それも私たちを出迎えた時の挨拶で。それなのに、今更なぜに顔色を変えるの?
 例えば妖精同士の会話を私がたまたま聞いていて、そこで耳にしたワードに関して質問してしまった、と言うなら「禁句だったのかしら?」と思うだけで、すぐにお詫びして話題を変える気になるけれど、元はごく普通に交わした会話の中にあったワードよ?一体全体なんだってーの!?

「あの……お聞きしてはいけなかったかしら?」

 リュースも会話を覚えていたらしく、相手の挙動に疑問を抱いて困惑していた。
 だよねー!?私の聞き違いじゃないわよね!?リュースもちゃんと聞いていたわよね!

「エンデファラ……エンデに聞いていまいか?」
「初対面のご挨拶で、お聞きしたのが初めてですが…人族側では、耳にしたこともなかったもので」

 なんだか罪悪感に似た感情がひたひたと湧き上がってくる中、二人はひそひそと小声で相談らしき会話を交わすと、メルディ氏だけが部屋を走り出て行った。息を呑んで、冷汗を背中に感じながら見送る私。
 まるきり緊急事態発生だわ!!もう、聞かなくていいからお詫びして帰りたい…。
 
「僕らは、別に無理やりお聞きしたいと思っている訳ではありません。重要な事柄になるのでしたら、返答拒否して下さって結構です」

 私の口が重くなったことに気づいてか、代わりにリュースがしっかり告げてくれた。それも重く取られないように笑顔で。
 ううう…ありがとう!さすがは有能な弟子だわっ。不甲斐ない師匠ですまん!

「いや…そうではないのだが……少しばかり待ってくれ」

 残されたグリア氏は、自分の失敗を思い出したのか、自嘲らしき笑みを浮かべながら視線を逸らした。
 しかし、なんだろう?この歯切れの悪い返しは。
 確かに質問したのは私だ。なんだか面白い呼び方だな?謂れはなに?と思っただけで、別に他意はなかった。本当に、種族間の情報雑談のついでに尋ねてみただけなのに。

 その後、バタバタと妖精が立てる音とは思えない足音を立ててメルディ氏が戻って来た。あのきっちり撫で上げられていたオールバックの髪も、今はあちこち乱れまくっている。

「大変お待たせしました!四族王より許可を頂いてまいりました」
「し…四族王…?」
「はい。妖精族全ての王たちです」

 なんでそんなに大事になるのよーーーーーーっ!!!
 たぶん、私はぽかーんと口を開けたまま茫然自失の態だったんだと思う。バシッ!とリュースが気付けの一発を背中にくれなかったら、そのまま固まっていただろう。
 師匠の背をいきなり叩いた弟子の行動に、相手も一瞬フリーズしたけれど、私が慌てて姿勢を正したことで見なかった振りをしてくれた。

 ごほんと一つ、メルディ氏が咳払い。
 そして、これから重要な説明が始まるのかと、覚悟を決めて聞く体制に持って行きかけた私たちの出鼻を、彼らは見事にくじいてくれた。
 黙って差し出された輪っかがひとつ。

「この《許しの輪》を持って、この大陸から真西にあるもう一つの大陸へ渡ってください。その中央に、一見すると壊れた神殿跡があります。その中へお入りになると……知りたいことの答えがみつかるはずです。ただし、魔女アズ貴方一人で」

 目の前に差し出された、赤と朱が入り混じった不思議な色合いの輪。腕輪にしては細く、指輪にしては大き過ぎる謎の輪。でも、その表面に刻まれた古代語は読めた。
 息を詰めて、そろそろと左手の中指をその輪の中に差し入れた。

 唐突に輪は縮んで、私の中指ぴったりに締まった。

「ア…アズ!」
「大丈夫。輪の外側に刻まれてあった指示に従っただけ。害はないわ」

 私の腕を思わず掴んだリュースの手を軽く叩きながら説明すると、彼の手から力が抜けた。

「古代語を読めるとは、さすがですな」

 その『さすが』の後に魔女が入る気がするのは、穿ち過ぎかしら?さすがと言いながら、始めは魔女に攻撃を仕掛けて来たくせにね?

「もう一つの大陸、ですね?」
「はい。そこは、神殿跡しかない不毛の地です。旅立つ際はしっかりとご準備を」
「魔力は使えますの?」
「それは分かりません。私たちは魔力を持っておりませんので。ただ、神殿跡以外の地で妖力を使うことが可能でした、と申しておきます」

 では、大丈夫かな?それとも妖精族しか認めてくれない土地とかかしら?

「色々とご配慮してくださり、ありがとうございます。では、そろそろ…」

 気づけば夜も更けて来た。夕食を頂いてから、すでに何刻も経っている。切りの良いところで立ち上がると、グリア氏たちも止めることなく立った。リュースが一礼してリリアを連れに行くのを見送り、私は彼らからの格別な好意に感謝を伝えた。
 最後は、大慌てさせられ謎を呈されたが、それが一番の好意だろう。
 まだ目を覚ます気配のないリリアを抱いたリュースに声をかけ、二人の案内で部屋を後にした。王城を一歩出ると、そこはなんとも言えず風情のある灯りの道ができていた。

「綺麗…」

 見上げると、王の樹の葉に明かりが反射し、見えない夜空かわりに素晴らしい光の乱舞を見せてもらえた。
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