デコボコな僕ら

天渡清華

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その3

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 大沼が取材対応した記事も無事公開されたし、俺の方も仕事のペースがつかめて少し落ち着いてきたし、というわけで、俺と大沼はこの前大沼が電話で言ってた会社の近所の店に来ていた。
 がっつり食べたい俺にはちょうどいい、ハンバーグメインの店。ドラマなんかでよく見る、主人公達行きつけの小料理屋、みたいな雰囲気であんまり洋食屋っぽくない。メニューも五つぐらいしかなくて、壁に一つずつ短冊状の紙に縦書きに書かれて並んでる。そんな店内はデミグラスソースのにおいに満ちて、ハンバーグを焼く音や揚げ物を揚げる音が賑やかだ。
 店にはカウンター席と四人がけのテーブル席が二つだけで、俺達はカウンター席の隅に並んで座っていた。 
 デミグラスソースたっぷりのデカいハンバーグに、立派で身がプリッとしたエビフライ。たっぷり盛られた千切りのキャベツ。大盛りにされたピカピカのメシに、味噌汁。俺らの給料だと高くてたまにしかできない贅沢って感じだけど、胃の調子も戻ったし、最高にうまい。
「あの特集記事、評判いいな」
 今回取材に来たのはわりと軽いノリのサイトだったから、大沼のイケメンぶりとかキャラもいじられてたけど、伝えるべきことはしっかり書いてもらえたし商品のPRもできてると、部長達もほめていた。
「なんとかうまくできて、ホントよかった。事前に樹や三谷部長にアドバイスもらったおかげだよ」
 見ているこっちが幸せになるような、心底ほっとした明るい笑顔で、大沼がエビフライを食う。こうして二人で、うまいもん食ってたわいない話をしながら過ごす時間が、最高に幸せだ。
「俺なんか、そんな大したことしてねえだろ」
 ハンバーグの最後の一口を口に放りこむ。
「樹は、自分を卑下しすぎだよ」
 意外に厳しい声。びっくりして、もぐもぐしながら上目遣いに大沼を見上げる。
「もっと、自分に自信持って欲しい」
 まっすぐに俺を見て言う、視線の強さ。コンプレックスだらけなのは、当然バレてたか。
「俺は働いてる樹、かっこいいなと思ってるよ」
 恥ずかしいのか、急に視線を横に流して俺を見ない大沼。見られてないのをいいことに、俺はニヤニヤしながら大沼の言葉を味わう。俺にこんなことを言ってくれるのは、大沼だけだ。
「うん……、ありがとな」
 実は今日、俺は大沼に話があった。俺なりに考えた作戦で、サプライズだ。とは言えまずは、誘いに乗ってくれるか、だけど。
 厨房の鍋から立ちのぼる湯気を見ながら、そっと深呼吸。
「そうだあのさ、お前につきあって欲しいとこがあってさ」
 ドキドキしながら、なるべくさりげない感じで切り出す。
「え、どこ?」
 俺はホテルの名前を告げた。大沼んちからも近いはずだ。
「このホテルでやってる、期間限定のランチがすっげえうまそうでさ。土日しかやってないんだけど、それでもよければ」
 俺の言葉に、大沼はとまどってるような疑ってるような、そんな微妙な顔になった。
 もちろん、ホテルのランチ、それもコース料理なんて俺のガラじゃねえ。大沼を誘うために、わざわざ調べた。俺がそこまで食い物にこだわってないことは知ってるから、不審に思われたんだろうか。作戦は、しょっぱなから失敗か?
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