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368.美羽の未来

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 大作の家を出てからの帰り道。

 美羽は義昭との離婚について、考えていた。



 もし義昭さんと離婚して、類とふたりきりで生活したら……どうなるだろう。



 今の家にそのまま暮らせば、夫と離婚して姉弟だけで暮らしていることを、周囲は不審に思わないだろうか。年老いた姉弟ならまだしも、自分たちは若く、しかも類は誰もが惹きつけられる魅力を持っている。

 そのうち様々な憶測や噂が飛び交い、やがては……秘密の関係に気付かれてしまう、なんてことになりはしないだろうか。

 引越しするとしても、デタントで仕事を続けたいなら、それほど遠くで暮らすことはできない。

 ふたり同じ職場で、恋人であることを隠しながら姉弟の演技をずっと続けていかなければならなくなる。
 香織も萌も浩平も……隼斗も、そこにいるのだ。

 彼らをずっと欺き続けることなど、できるのだろうか。

 それに、香織は……類に好意を寄せている。香織を裏切り、嘘をついたまま同じ職場で働き続けることなど、自分には無理だ。

 類と美羽がふたりで暮らしていることを母親に突き止められたらという、恐怖もあった。

 そう考えると、やはり何もかも捨てて、類とふたりきり、誰もいない場所で暮らしていくことになる。

 居場所を知られないために、住民票を移すことはできない。そうなると、まともな仕事に就くことはできないだろう。

 まるで犯罪者のように、ひっそりと身を潜め、いつ近親相姦関係だと気付かれはしないかと周囲の視線に怯えながら生きていかなくてはならない。

 そんな生活……できるのだろうか。
 全てを失うことが、怖い。

 美羽は、琴子が羨ましかった。自分は未だ、自由になれない。

 もし類と再会するのがあと5年……いや3年でも早かったら、義昭と離婚し、ふたりで生きていく覚悟が出来ただろうか。

 そんな可能性を考えてみたが、答えはノーだった。

 類と意識の中で繋がり、お互いを感じ合えることが、美羽にとっては最良の選択だった。

 あの時美羽は、絶頂の幸福を感じていた。たとえ現実世界で結ばれなくても、意識の中で類の声を、匂いを、感触を、魂の結びつきを感じることができた。誰にも、気づかれないままに。

 それなのに、類はその先を望んだ。意識ではなく、肌と肌の触れ合いを求めてきた。現実での恋人関係となることを、訴えた。

 それは、耐え難い誘惑だった。美羽にとっても、心の奥底で渦巻いていた欲望だったのだから。

 けれど、美羽には彼の腕の中に堕ちることは出来なかった。常識が、道徳が、後ろめたさが、過去のトラウマが、美羽をがんじがらめにし、羽ばたこうとする翼を引き千切る。

 このまま……もがき続けるだけ。
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