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【こぼれ話】それぞれの、あんなこと、こんなこと

3.【有川・社会人一年目/冬】二月の茶番劇 ③

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 ◇

 片手で七瀬を抱き寄せたまま俺のベッドに乗り上げながら、丈の長いトレーナーの背中側をめくり上げる。
 その隙間からブリーフの中に手を滑り込ませると、自分の首に当ててしっかり温めたはずの指先よりも、七瀬の尻の穴の方がずっと熱かった。まだれるつもりじゃなかったのに、そこに触れただけでぱくりとくわえられるように捕まってしまう。それどころか、具合を確かめるために入り口で小さくくるりと円をえがいたら、指を伝ってローションまで流れ出てきた。
 ……うわ、マジか。いつからこんなの仕込んでたんだよ。
 そう思った途端、全身の熱が一気にちんこに集中した。
 寝室は肌寒いけどどうせすぐに暑くなるし、ローションが乾きやすくなるからエアコンはつけない。それでも風邪をひかないように、ベッドにあおむけに寝かせた七瀬の上半身にだけは毛布をかけてさせておく。
 いつもより気持ちがはやるのを自覚しながらも、平静を装って七瀬のスウェットパンツとボクサーブリーフをまとめてつかんだ。シーリングライトに照らし出された七瀬のちんこは、濃いピンク色がさらに色づいて、新しく先走りをこぼしている。

「すごい七瀬。もうちんこびしょびしょ」
「……知らね」

 いつもは大胆に脱いでみせる七瀬が、脱がされた先を隠すように右手で毛布を引き下げた。そのしぐさは初々しくて、初めて井田にちんこを挿れられた時の七瀬みたいだ。
 俺は下を脱がせながら、腰骨や少しずつあらわになる白い内ももに順番に口づけて、右手の人さし指をそっと穴の中に差し入れた。毛布をめくってちんこの先っぽに舌先をわせると、形ばかりのかわいい抵抗が返ってくる。

「有川っ、それ駄目」
「ん、ちょっとだけ舐めさせて?」

 知ってる。七瀬は少し強引にされるのが好きだ。だからって、間違っても身体を傷つけるような乱暴なことなんてしないけど。
 たいしてあらがいもしない七瀬の右手に左手を絡めて、口に含んだちんこの先を丁寧に舐める。同時に二本三本と指を増やして中を撫でると、毛布で覆った口元から七瀬がくぐもったあえぎ声を漏らした。

「ん、んん」

 ワンフロアに二戸ずつのこのマンションは全戸角部屋で、隣と接しているのは俺の仕事部屋しかない。それに、この寝室にある窓は天井近くの小さな明かり取りが一つだけだから、声を我慢する必要なんて全然ないのに。
 充分にほぐれている穴の気持ちいい所だけを攻めてやると、逃れるように、すがりつくように、七瀬が腰をくねらせる。
 あー、駄目だ。七瀬の留守中にもっと抜いとけばよかった。いつもみたいに、ここで一回イかせてやれそうにない。
 そっと手と口を離すと七瀬の身体が弛緩しかんした。手早くティッシュで指を拭いて、毛布にくるまったままの上半身を囲うように両肘をつく。半開きの唇を軽くむだけのキスをして離れると、不満なのかライトがまぶしいのか、眉間にしわを寄せた七瀬が俺を見上げた。

「七瀬ごめん。もう挿れたい」

 意図したわけでもないのに、押し殺したように声がかすれる。と、七瀬は大きくまばたいて、俺の下で小さく吹き出した。

「七瀬?」
「わり。だって、お前が余裕ねえのって珍しいじゃん。……なんか嬉し」

 俺を見つめたままいたずらっぽく笑った後、最後は口の中でそっとつぶやく。
 いや、何だその誤解。こんな些細ささいなことで喜んでるのはかわいいけど、それじゃまるで、俺がいつもは七瀬に欲情してないみたいだろ。もしかして、身体への負担を考えて決めたことが裏目に出たのか。
 確かに、挿入ありの行為は週末限定、っていうのはさすがに少なすぎるのかもしれない。一緒に暮らしてるのに、ただの抜き合いですら毎日はしてないし。
 せっかく連結できるタイプのシングルベッドを買ったのに、つなげてキングサイズにするのは井田と宇山が4Pしに来る時だけだ。それだって、七瀬の仕事に支障が出ないように、睡眠の質に気を使った結果ではあるけど。

「……あー」
「有川?」
「余裕なんて、全然ねえよ」

 正直、俺がそんなんで足りるはずもない。平日は七瀬がいない時間に一回は抜いてるし、七瀬を抱く週末には風呂で少し多めに抜いたりもしてる。
 元々それは、井田と宇山に輪姦まわされてる七瀬の気を引きたくて、余裕ぶって気のないふりをするために始めた小細工、というか習慣みたいなもんだった。今は、どっちかっていうと七瀬の身体に負担をかけないための対策としてやってるだけで、もうそれを隠す必要なんてどこにもない。というか、変に誤解される方が困る。
 とはいえ、初めて明かした時には井田ですら絶句して苦笑いした案件だ。さすがに今は顔を見られたくなくて、隣に寝転がりながら、ごまかすように毛布ごと七瀬の頭を胸に抱き込んだ。

「言っとくけど、今日も昼間と夕方、あとさっき風呂場で、一回ずつ抜いてるから」
「は? いやいやいや……、え?」
「だから。いつも一人で抜いてる。じゃないと絶対抱きつぶす自信ある」
「……マジですか」
「マジです」
「……」

 ──ほんの少しの沈黙ですら痛い。
 だけど、七瀬はこの居たまれなさになんて気付く様子もなく、ぼんやりと独り言のようにつぶやいた。

「……すげ。つか、もったいねえ。全部中に欲しい」
「は? え、何?」
「いや、いい。何でもいいから早く挿れろって」

 男前すぎる。
 びっくりして毛布を剥がすと、七瀬は真っ赤になった顔で挑むように俺を見た。眉間のしわが深い深い。こんな時なのに、思わずそこを親指でぐりぐりと伸ばしてしまった。
 くそ。そんなこと言って、もうマジで知らねえからな。
 主導権を握って七瀬だけ何回もイかせてやるのは楽しい。それでも本当は、俺がどんなに七瀬に溺れてるのか、許されるなら毎日だってその身体に教え込みたかったくらいだ。
 俺は手早く黒の上下を脱ぎ捨てると、深く息を吸って七瀬の股の間に陣取った。

「七瀬、無理だったらちゃんと言って?」
「アホ。そんなん言わねえよ」

 ◇

「んっ、やぁ……っ、だめ無理、有川ぁっ」
「は……っ、ごめん七瀬……っ。七瀬、もうちょっとだから」
「んっ! んんっ!!」

 じらしもせず最初から七瀬のいい所だけを攻め続ける俺に、舌の根も乾かないうちに七瀬がを上げた。
 狭いシングルベッドからはいつの間にか毛布が滑り落ち、七瀬は自分でめくり上げたトレーナーの裾を胸の上で握りしめている。その腹の上では水たまりを作りながらピンク色のちんこが揺れて、際限なく俺をあおり立てる。

「あっあっ、早くイって、も、無理、だめ腰抜けそ」
「中、出してもいい?」
「んっ、いーから早く、早くありかわぁっ」
「は、かわいい。かわいい、七瀬」

 覆いかぶさって抱きしめると、七瀬が俺の脇の下から腕をまわして、震えるように小さく首を振りながら肩口にすがりついてくる。
 早々と中イキして敏感になっている七瀬の身体は、その熱い耳たぶを甘噛あまがみしながら低くささやくだけでも簡単にイってしまう。

「ん……っんん、なんで俺ばっかり。有川は? なあ有川は?」
「七瀬の中、すげー気持ちいいよ」

 慣れたキス、慣れたセックス。どこもかしこも性感帯で、こうなった過程を全部知ってるってことが俺の胸を満たす。
 七瀬の最初の相手が俺らで本当によかった。もしそれが知らないどこかの誰かだったとしたら、今頃俺はどうやって毎日を過ごしてたのか。考えたくもない。
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