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 ノックの音がする。

 アルベルト様が返事をしてトルーズ様が声を掛けられた。

 「旦那様、アビーの事でお話が…」

 「分かった。少し部屋を開けるが大丈夫か?」

 「アビーの事なら私もお話が聞きたいですわ。だって理由がさっぱりわからないんですから」

 アルベルトはそれもそうだとトルーズ様を部屋に入れた。

 私はベッドに横になったままで話を聞くことになった。

 だって起き上がったら寝間着だし、まだ横になっていなさいって彼が言うことを聞かないから…


 「シャルロット様がご無事で本当に良かったです。アビーから詳しく話を聞きました」

 「実はアビーとマリーは元マルグリット伯爵のお嬢様でして…」

 「マルグリット伯爵と言えば母の友人の嫁ぎ先だったはず」


 「はい、そうです。確かアルベルト様のお母様ビクトリア様とアビーのお母様のベアトリン様はコステラート皇王のお妃候補でした。ご承知の通りビクトリア様がお妃に選ばれベアトリン様はブランカスター領のマルグリット伯爵の元に嫁がれました。ですがコステラート皇王があのようなことになり、ランベラート皇王になってマルグリット伯爵もバーリントン伯爵同様に投資に失敗して救済措置を受けれず領地は借金の片に取られて爵位を返上ということになったそうです。お父様はショックから自殺されお母様もはやり病で亡くなりアビーとマリーは親戚をたらいまわしにされたそうです。アビーは17歳にもなるとひとり立ちするため働き口を探したそうで、その時我がルミドブール家の募集があったらしく。アビーはこの屋敷で働けることになって、それはアビーに取ったら願ってもなかった事だったようで…それと言うのもアビーの話によれば、ビクトリア様とベアトリン様はアビーが生まれた時アルベルト様と結婚させようとお話されていたそうなんです。実際にそのようなお話があったかは約束を交わした書面もありませんのでいささか信用に値するかは疑問ではありますが、彼女の話では自分がアルベルト様と結婚するはずだったという思いがくすぶり続けていたらしく、それがこの家で働くようになってから現実的になっって行って、今回のようなとんでもないことをしたと…」


 「待てトルーズ婚約だって?そんな話聞いたことがないが」

 「それはそうでしょう。アルベルト様はまだ3歳ほど、お母様もあのようなことがあってそんな話など思い出す余裕もなかったはずで、きっとうやむやになっていたのでしょう」

 「ああ、そうだろう。それでアビーはどうしてこんなことを?」

 「シャルロット様が現れて旦那様がシャルロット様を好いていらっしゃることはわかってはいたらしいんですが、シャルロット様と結婚するとは思っていなかったようです。なのに旦那様は昨日帰られてアビーに話されたのでしょう。シャルロット様に結婚を申し込むと」

 「ああ、そうだ。確かにアビーに昨夜、シャルロットとディナーを一緒に食べてから結婚を申し込むつもりだと言った。とにかく自分の気持ちを伝えようと…」


 「それでアビーは焦ったんです。まさかこんな急展開に事が運ぶとは思っていなかった。アビーには計画があったらしいんです。マリーが時期を見てこの屋敷に逃げて来てエリザベートの秘密を暴露すると。そしてランベラート皇王とエリザベートを失脚させてあなたが皇王になった時に、あの結婚の約束の事を言い出すつもりだったと、もし万が一シャルロットを好きでも皇王となれば貴族でもないシャルロットとの結婚はかなうはずもないと思っていた。でも自体は思わぬ方向に行ってしまってかなり焦ったようですがまさかこんなに早く結婚を申し込むなどと旦那様が言い出すとは思ってもいなかったようで…旦那様の事です。言い出したらてこでも動かない性格だとアビーもわかっていたのでしょう。だからシャルロットさえいなくなればと、唐突に毒を盛って殺してしまえばいいと思ったそうです」


 「浅はかな考えだ。そんな事をしても俺の心はアビーに向くことなどないのに…」

 「まあ、そうですが…彼女にしてみれば幼いころの夢が叶うかもしれないと思ってしまったんでしょう。ですがやったことは許される事ではありません。シャルロット様が助かったから良かったものの、もし…考えるのも恐ろしい」

 「ああ、もちろんだ。アビーにはそれなりの償いをしてもらわなくては示しがつかない。それにマリーもそのためにあんな事をしたのであれば…」

 「そうですが…マリーのおかげでシャルロット様を救うことも出来ましたし、エリザベートの嘘もはっきりした訳ですし…」


 トルーズ様は何とかしたいと思われているようで…

 「分かっている。だがシャルロットは死ぬところだったんだぞ!」

 「はぁ、お気持ちはわかります。ですが事情も事情ですし…」

 「アビーとマリーに話がしたい。なるべく良い結果になるように考えよう」

 「さすが旦那様。ありがとうございます」



 「トルーズ様アビーとマリーはどうしてます?」

 私はアビーが心配になった。



 「はい、もうここにはいません。何といっても毒を盛ったのですから。彼女が自分で毒を盛ったと白状しましたし、今お話した事情を聴いた後、昨夜遅く王城の牢に連れて行かせました。シャルロット様も気が付かれてアビーがいてはやはりいい気はしないでしょうし…やはり罪は罪ですので…マリーも一緒に事情を聴くためにここから連れ出しています。安心して下さい」



 「ええ、私もすぐに許す気にはなれませんが…アビーは本当にいい人だと知ってますし、アルベルト様、彼女たちには温情をお願いします」

 「シャルロット、でも君は殺されかけたんだぞ!」

 「でも…」

 「ああ、まったく…君は優しいからな。でも無罪というわけにはいかない。そこは勘弁してほしい」

 「ええ、もちろんです。それは彼女たちもわかってるはずでしょうから、ありがとうアルベルト様」

 あなたこそ優しい人だわ。



 「さあ、この話はもう終わりにしよう。シャルロット何か食べなくてはしっかり栄養を取らなくては回復も遅くなる」

 「まあ、そんなに急いで回復して何かあるんでしょうか?」

 「いや、それは…早く元気な姿が見たいだけで…」

 アルベルト様のお顔が真っ赤になってしまいました。

 はっきり言って彼の考えていることが分かりました。

 きっと私と…がしたいんですわ。

 「アルベルト様って意外とエッチなんですね」

 「シャルロット君は何を想像して…トルーズいいからシャルロットに何か食べるものを用意してくれ、私は着替えてコーヒーでも飲む」

 「旦那様、コーヒーはここにお持ちしましょうか?」

 「いや、犯人が分かってシャルロットに危険がないと分かれば私は忙しいんだ。王城に出向かねばならんし議会の続きに戴冠式も…だから、シャルロット君はしっかり休むこと。いいね?」

 「はい、だってまだまだ身体がふらついてとても無理は出来そうにありませんから…アルベルト様お仕事頑張ってください。お帰りを楽しみに待ってますわ」

 「ああ、行ってくるシャルロット」

 そう言うとアルベルト様がいきなり私の前にかがみこんで口づけをした。

 あっ!も、もぉぉぉ、トルーズ様もいらっしゃる前ですけど…

 今度は私が顔を真っ赤にする番だった。



 その日、私のところにバーリントン伯爵がお見舞いに見えた。

 「シャルロット様具合がいかがですか?倒れられたと聞いて心配しました」

 私は毒の事は知らされていないと思った。

 きっとアルベルト様が皆には言わなかったのだろう。良かったわ。

 「ええ、ご心配かけて申し訳ありません。少し羽目をはずし過ぎたようですわね…」

 私はクスリと笑って見せた。

 「ええ、そうでしょうともあなたは本当にいい方です。息子の病気の時は本当にありがとうございました。それに伯爵の称号を返していただけたのもシャルロット様あなたがいらっしゃったからこそで…」

 議会の場にいらしたバーリントン伯爵はすべて知っていらしゃるわね。



 「とんでもありませんわ」

 「それで、どうしてこちらのお屋敷に?私はてっきりジェルディオン家にいらっしゃるのかと思っていました」

 「ああ、そうでしたわね。ですがこれからはこちらのお屋敷にいることになると思いますわ」

 「そうですか…いえ、差し出がましいでしょうけどアルベルト様は皇王になられました。ですので若いお嬢様が同じ屋敷にいらっしゃるというのは…あなたの御名誉にもかかわりますし…いえ、皇王ともなればこれから…例えばどちらかの国の王女とかからいくらでもお話があるでしょうし…ですから…」

 「ああ…そうですわね。私としたことが…もっと早く気付くべきでした。すぐにこちらからお暇するようにします。バーリントン伯爵どうもありがとうございます」

 「ええ、それがよろしいかと…ではお大事にしてください」

 バーリントン伯爵はそう言って帰って行った。

 

 私の心はまた嵐の中に引き戻された。

 アルベルト様…やっぱり無理ですよ結婚なんて…

 私はコンステンサ帝国の王女。でも、それは死んだことになっている話で…

 さっきまでばら色だった目の前があっという間に暗闇に覆われる。

 部屋の空気までもがなくなったかのように、息をするのでさえ苦しくなった。

 もう、ここにはいられない…



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