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冒険者ギルド受付嬢 メアト・バトラの日常
メアト 待ち伏せされる
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「それではギルドカードをお返しいたします」
「ああ、ありがとう。それでメアトちゃん、よかったらこの後――」
「ちゃんはやめてください。本日のご利用ありがとうございました」
ピシリと淀みない一礼を披露し、今日4人目の面倒な冒険者を牽制します。私の明らかな業務態度に相対していた冒険者の男性は、先程私に見せていた笑顔を引き攣らせて半歩後ずさりました。
「あ、ああ……また来るよ」
「はい、冒険者ギルドは冒険者の方々のご来訪を心よりお待ちしております」
冒険者の男性はトボトボとした足取りでギルドを後にしました。
ふぅ、と小さく溜息を吐きます。最近、こんな風に私を口説こうとする冒険者の方々が増えています。というか、ギルドの受付嬢を口説く冒険者が増えたと言うべきでしょうか?
原因はやはりギルドの監視役たるギルドマスターと副ギルドマスターが不在だからでしょう。勢いでつい見送ってしまいましたが、やはり失敗だったかも……。
――でも、あのギルマスをギルドに置いておく方がよっぽど……。
……うん、仕方ないですね。早くお二人が帰ってくることを祈るばかりです。
**********
「よ、よう、メ、メアト。き、奇遇だな……」
「――カレット?」
日暮れ、仕事を終えギルドを出ると幼馴染のカレットがいました。カクカクとぎこちなく手を上げ、やたらと噛んでいます。日頃からテンパりやすい子だとは思ってたけど、今日は輪をかけて緊張してますね。
「どうしたの? こんなところで」
カレットがいる場所はギルドの職員通用口の前です。ギルドの裏側、つまり大通りとは反対側なので、『奇遇』も何もないと思うんですが……?
「い、いいい、一緒に帰ろうぜ。俺も仕事が終わったところだし!」
「――? それは構わないけど……今日は休みって言ってなかった?」
「そ、そ、そそそれは急に仕事が入ったんだよ! そ、それが終わったんだ!」
「そうなの? 分かった。一緒に帰りましょう」
「お、おう!」
「悪いんだけどこのまま屋台通りで買い物する予定だから、付き合ってくれる?」
「ま、任せとけ! いくらでも持ってやるよ!」
「いや、別に荷物持ちをしてほしいわけじゃないんだけど……ま、いいか」
今日は奮発して鶏肉をまるごと買おうと思ってたからちょうどいいわ。鶏肉をカレットに持ってもらえれば野菜とか他のものも買えそう。
「ふふ、カレットが偶然来てくれて助かっちゃった。ありがとう」
「……い、いいよ別に。………………偶然なわけねえじゃん。口説かれすぎだろ」
「――? 何か言った?」
「べ、別に! ほら、行こうぜ!」
「えっ! あ、ちょっと待ってよ!」
先に駆け出したカレットを私は急いで追いかけました。
ホント、今日のカレットはどうしたのかしら?
……この日以来、仕事終わりにカレットと出くわす機会が増えました。
カレット、洋裁工房の修行はいいのかしら? そんな話を店主のシェリーンさんに伝えたら「なんて可哀相なカレットちゃん!」と叫ばれてしまいました。
どの辺が可哀相なのかしら?
ついでにこの話を受付嬢の先輩方に相談したところ、なぜかまた「なんて可哀相なカレット君!」と言われました。……解せません。カレットの何が可哀相なの?
「ああ、ありがとう。それでメアトちゃん、よかったらこの後――」
「ちゃんはやめてください。本日のご利用ありがとうございました」
ピシリと淀みない一礼を披露し、今日4人目の面倒な冒険者を牽制します。私の明らかな業務態度に相対していた冒険者の男性は、先程私に見せていた笑顔を引き攣らせて半歩後ずさりました。
「あ、ああ……また来るよ」
「はい、冒険者ギルドは冒険者の方々のご来訪を心よりお待ちしております」
冒険者の男性はトボトボとした足取りでギルドを後にしました。
ふぅ、と小さく溜息を吐きます。最近、こんな風に私を口説こうとする冒険者の方々が増えています。というか、ギルドの受付嬢を口説く冒険者が増えたと言うべきでしょうか?
原因はやはりギルドの監視役たるギルドマスターと副ギルドマスターが不在だからでしょう。勢いでつい見送ってしまいましたが、やはり失敗だったかも……。
――でも、あのギルマスをギルドに置いておく方がよっぽど……。
……うん、仕方ないですね。早くお二人が帰ってくることを祈るばかりです。
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「よ、よう、メ、メアト。き、奇遇だな……」
「――カレット?」
日暮れ、仕事を終えギルドを出ると幼馴染のカレットがいました。カクカクとぎこちなく手を上げ、やたらと噛んでいます。日頃からテンパりやすい子だとは思ってたけど、今日は輪をかけて緊張してますね。
「どうしたの? こんなところで」
カレットがいる場所はギルドの職員通用口の前です。ギルドの裏側、つまり大通りとは反対側なので、『奇遇』も何もないと思うんですが……?
「い、いいい、一緒に帰ろうぜ。俺も仕事が終わったところだし!」
「――? それは構わないけど……今日は休みって言ってなかった?」
「そ、そ、そそそれは急に仕事が入ったんだよ! そ、それが終わったんだ!」
「そうなの? 分かった。一緒に帰りましょう」
「お、おう!」
「悪いんだけどこのまま屋台通りで買い物する予定だから、付き合ってくれる?」
「ま、任せとけ! いくらでも持ってやるよ!」
「いや、別に荷物持ちをしてほしいわけじゃないんだけど……ま、いいか」
今日は奮発して鶏肉をまるごと買おうと思ってたからちょうどいいわ。鶏肉をカレットに持ってもらえれば野菜とか他のものも買えそう。
「ふふ、カレットが偶然来てくれて助かっちゃった。ありがとう」
「……い、いいよ別に。………………偶然なわけねえじゃん。口説かれすぎだろ」
「――? 何か言った?」
「べ、別に! ほら、行こうぜ!」
「えっ! あ、ちょっと待ってよ!」
先に駆け出したカレットを私は急いで追いかけました。
ホント、今日のカレットはどうしたのかしら?
……この日以来、仕事終わりにカレットと出くわす機会が増えました。
カレット、洋裁工房の修行はいいのかしら? そんな話を店主のシェリーンさんに伝えたら「なんて可哀相なカレットちゃん!」と叫ばれてしまいました。
どの辺が可哀相なのかしら?
ついでにこの話を受付嬢の先輩方に相談したところ、なぜかまた「なんて可哀相なカレット君!」と言われました。……解せません。カレットの何が可哀相なの?
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