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元令嬢、ギルド支部長と対峙する
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「っ!」
ダークウルフの姿をした魔獣の爪がテミスの身体を擦り、もう数えられない程ついた切り傷がさらに増える。
そしてその新しく出来た傷が、鋭い痛みを訴える。
だが、テミスはその痛みを無視して身体を横に移動する。
「シャァッ!」
そして次の瞬間テミスがいた場所の土を鳥型の魔物の爪が抉る。
それは一瞬でも躊躇すれば回避できなかっただろうタイミング。
「くそっ!」
だがその紙一重の回避を成功させた後でもテミスには気を休める時間は存在しなかった。
回避した次の瞬間には次の魔獣が、とテミスに襲いかかる。
そしてその魔獣の攻撃をテミスは身軽な動きで避ける。
テミス達に襲いかかる魔獣達の全ては高位魔獣で、さらに初歩的なものだとはいえ魔法を扱っている。
そんな相手に対し、1人エミリ達を守りきっているテミスの腕は流石ラミス直々に訓練されたというだけのものだった。
だが流石のテミスも後ろに守らなければならない対象がいて行動が抑制される状況で全ての魔獣の攻撃を避けきることが出来るわけがなく、完璧に避けられなかった行動が増え、身体にはどんどん傷が増えて行く。
魔獣達がそこまでの知能を有していないことで数の利を活かしきれておらず、さらに注意が全てテミスに集められていることでテミスは何とかエミリ達を守りきっている。
だが、テミスはこんな状況がいつまでも続くとは一切思っていなかった。
今は確かに軽傷で済んで入るが、だがそれはただ今までが運が良かっただけ。
疲労は身体に溜まってきており、いつ行動不能になるような傷を受けるか、それは時間の問題だ。
せめて、自由に動ければとテミスは唇を噛みしめる。
「がっ!」
「ケシャァッ!」
そしてそんな思考で開いた一瞬の空白を狙うかのように人型の魔獣の錆びたナイフが足を抉る。
今までとは違う、灼熱のような痛みが頭に走り、思考が一瞬停滞する。
それはほんの一瞬のこと。
1秒、いや、その半分にも満たないそんな時間。
「キシャァァア!」
ーーー だがそれは今の状況ではあまりにも致命的な隙だった。
魔獣の中でも最も身体の大きな蛇の魔獣がテミスへと襲いかかる。
「くっ!」
普通の人間、いや、D級以上の冒険者であったとしても避けられないようなそんな動き。
だがそれを反応が遅れた状態からでもテミスは避けてみせる。
「ひっ!」
「しまった!」
しかしそのせいで後ろに庇っていたはずのエミリ達を魔獣に露わとする形になってしまって……
「ギヤァァ!」
そしてそのテミスが見せた隙に魔獣が唸り声を上げてエミリ達へと殺到して行く。
「いやぁ!」
魔獣のギラついた視線に晒され、エミリ達が悲鳴をあげる。
その声にテミスは覚悟を決めて、自身の身体を守ることを諦めてその身体を魔獣達の前へと身体を差し出し……
「アギャァァァ!」
「えっ?」
その時、だった。
テミスへと襲い掛かっていたはずの魔獣が突然吹き飛んだ。
それは一番重いはずのあの蛇の魔獣で、そんな強大な質量をもつ魔獣が宙を舞うあり得ない光景にエミリ達の目が驚愕に染まる。
だが次の瞬間その目は喜色に染まる。
「ラミスさん!」
その時、その場の空気が変わった。
◇◆◇
「えっ?」
エミリの声に衝撃に備えて目を閉じていたテミスは唖然と言葉を漏らす。
魔獣はラミスが放つ怒気に動きを止め、その中でラミスがぽつりと口を開いた。
「どういうつもりでして?」
決して小さくない、だが溢れんばかりの言葉が込められたその声は殺気と共にギルド支部長に向けられる。
「ひぃっ!」
殺気をまともに受けたのが初めてだったのか、ラミスの声にギルド支部長はそう悲鳴を漏らして退く。
だが、直ぐにラミスを囲むようにいる魔獣達の存在に自身の有利を確信してその顔に嗜虐的な優越感を浮かべる。
「はて?何のことでしょうか。私は受付嬢を拉致しようとした不埒者に罰を与えただけですが」
「そうですの?こんな醜悪な魔獣達を連れて?」
「ええ。本当に強力でしょう。実はこれは最新の生物兵器でしてね」
ああ言えばこう言う、そんなギルド支部長の態度にラミスは苛立ちげに支部長を睨む。
だが支部長の顔色は変わらない。
ラミスの視線を受けても平然と笑ってみせる。
「おや、もしかしてラミス殿はその犯罪者を庇うつもりですかな。………なんてことだ。それならばラミス殿も敵ということで私は貴女を手にかけなければならない」
そして突然ギルド長はさも本意ではないというようにそう辛そうな顔を作ってみせる。
最初から自分を殺す理由を作ろうとしていたことを知っていたテミスはその支部長の態度に何をぬけぬけとと吐き捨てそうになる。
「ふざけないで!」
それはテミスだけでなかった。
エミリ達も、そして未だ息を切らしているマイヤールも怒りの篭った視線で支部長を睨みつける。
だが支部長がその視線を気にすることはなかった。
ただ、ラミスだけを見て嘲笑を浮かべる。
そして次に支部長が告げた言葉はその場にいる全ての人間の言葉を失わせることとになる。
「兄と違って魔法保有者ですらない貴女が」
ダークウルフの姿をした魔獣の爪がテミスの身体を擦り、もう数えられない程ついた切り傷がさらに増える。
そしてその新しく出来た傷が、鋭い痛みを訴える。
だが、テミスはその痛みを無視して身体を横に移動する。
「シャァッ!」
そして次の瞬間テミスがいた場所の土を鳥型の魔物の爪が抉る。
それは一瞬でも躊躇すれば回避できなかっただろうタイミング。
「くそっ!」
だがその紙一重の回避を成功させた後でもテミスには気を休める時間は存在しなかった。
回避した次の瞬間には次の魔獣が、とテミスに襲いかかる。
そしてその魔獣の攻撃をテミスは身軽な動きで避ける。
テミス達に襲いかかる魔獣達の全ては高位魔獣で、さらに初歩的なものだとはいえ魔法を扱っている。
そんな相手に対し、1人エミリ達を守りきっているテミスの腕は流石ラミス直々に訓練されたというだけのものだった。
だが流石のテミスも後ろに守らなければならない対象がいて行動が抑制される状況で全ての魔獣の攻撃を避けきることが出来るわけがなく、完璧に避けられなかった行動が増え、身体にはどんどん傷が増えて行く。
魔獣達がそこまでの知能を有していないことで数の利を活かしきれておらず、さらに注意が全てテミスに集められていることでテミスは何とかエミリ達を守りきっている。
だが、テミスはこんな状況がいつまでも続くとは一切思っていなかった。
今は確かに軽傷で済んで入るが、だがそれはただ今までが運が良かっただけ。
疲労は身体に溜まってきており、いつ行動不能になるような傷を受けるか、それは時間の問題だ。
せめて、自由に動ければとテミスは唇を噛みしめる。
「がっ!」
「ケシャァッ!」
そしてそんな思考で開いた一瞬の空白を狙うかのように人型の魔獣の錆びたナイフが足を抉る。
今までとは違う、灼熱のような痛みが頭に走り、思考が一瞬停滞する。
それはほんの一瞬のこと。
1秒、いや、その半分にも満たないそんな時間。
「キシャァァア!」
ーーー だがそれは今の状況ではあまりにも致命的な隙だった。
魔獣の中でも最も身体の大きな蛇の魔獣がテミスへと襲いかかる。
「くっ!」
普通の人間、いや、D級以上の冒険者であったとしても避けられないようなそんな動き。
だがそれを反応が遅れた状態からでもテミスは避けてみせる。
「ひっ!」
「しまった!」
しかしそのせいで後ろに庇っていたはずのエミリ達を魔獣に露わとする形になってしまって……
「ギヤァァ!」
そしてそのテミスが見せた隙に魔獣が唸り声を上げてエミリ達へと殺到して行く。
「いやぁ!」
魔獣のギラついた視線に晒され、エミリ達が悲鳴をあげる。
その声にテミスは覚悟を決めて、自身の身体を守ることを諦めてその身体を魔獣達の前へと身体を差し出し……
「アギャァァァ!」
「えっ?」
その時、だった。
テミスへと襲い掛かっていたはずの魔獣が突然吹き飛んだ。
それは一番重いはずのあの蛇の魔獣で、そんな強大な質量をもつ魔獣が宙を舞うあり得ない光景にエミリ達の目が驚愕に染まる。
だが次の瞬間その目は喜色に染まる。
「ラミスさん!」
その時、その場の空気が変わった。
◇◆◇
「えっ?」
エミリの声に衝撃に備えて目を閉じていたテミスは唖然と言葉を漏らす。
魔獣はラミスが放つ怒気に動きを止め、その中でラミスがぽつりと口を開いた。
「どういうつもりでして?」
決して小さくない、だが溢れんばかりの言葉が込められたその声は殺気と共にギルド支部長に向けられる。
「ひぃっ!」
殺気をまともに受けたのが初めてだったのか、ラミスの声にギルド支部長はそう悲鳴を漏らして退く。
だが、直ぐにラミスを囲むようにいる魔獣達の存在に自身の有利を確信してその顔に嗜虐的な優越感を浮かべる。
「はて?何のことでしょうか。私は受付嬢を拉致しようとした不埒者に罰を与えただけですが」
「そうですの?こんな醜悪な魔獣達を連れて?」
「ええ。本当に強力でしょう。実はこれは最新の生物兵器でしてね」
ああ言えばこう言う、そんなギルド支部長の態度にラミスは苛立ちげに支部長を睨む。
だが支部長の顔色は変わらない。
ラミスの視線を受けても平然と笑ってみせる。
「おや、もしかしてラミス殿はその犯罪者を庇うつもりですかな。………なんてことだ。それならばラミス殿も敵ということで私は貴女を手にかけなければならない」
そして突然ギルド長はさも本意ではないというようにそう辛そうな顔を作ってみせる。
最初から自分を殺す理由を作ろうとしていたことを知っていたテミスはその支部長の態度に何をぬけぬけとと吐き捨てそうになる。
「ふざけないで!」
それはテミスだけでなかった。
エミリ達も、そして未だ息を切らしているマイヤールも怒りの篭った視線で支部長を睨みつける。
だが支部長がその視線を気にすることはなかった。
ただ、ラミスだけを見て嘲笑を浮かべる。
そして次に支部長が告げた言葉はその場にいる全ての人間の言葉を失わせることとになる。
「兄と違って魔法保有者ですらない貴女が」
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