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9 現実見てみろよ、こんなもんだろう?

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 ヴィンセントとアンネと私とで、緊急任務へと向かう。

 私の後ろで二人がゴニョゴニョ喋っていた。

「この平和なご時世に、魔物でも出たのかよ? まあ、魔物討伐なら俺の腕の見せどころだな。ジェニーに良いとこ見せられるってもんだ。おい、アンネ、団長から何か聞いてるか?」

「アンネは知らないですぅ♡」

「話が何かぐらい聞いておけよ……全く……」

 ヴィンセントが毒づいた。

「いいか、報連相は仕事の基本……」

「ヴィンセント先輩のお説教は聞き飽きましたぁ♡ 耳にタコが生えちゃうから止めてくださぁい♡ ウニョウニョって♡ 本当、ヴィンセント先輩が優しいのは――ああっ、いけなぁい♡」

「――アンネ! てめぇ、口滑らせんなよ! もっと先輩を立てろ!」

「ちゃんとぉ、ヴィンセント先輩はカッコいいですよねって伝えましたよぉ♡」

「そんなんじゃジェニーに効いてないだろうが……!」

「それはヴィンセント先輩のせいでしょう♡」

 騎士団長室に到着した。
 私は冷たく告げる。

「……漫才はもう良い? ついたわよ。あと――ヴィンセント、アンネと結婚してもらったら?」

「はあ? ジェニー、ふざけんなよ! お前だって知ってんだろう? こいつは……!」

 アンネがアイドルスマイルを浮かべた。

「誰が聞いてるか分からないんですから、それ以上言ったら、どうなるか分かってますよね、ヴィンセント先輩♡ 口の軽い男は信用できません♡ ジェニー先輩にあることないこと吹き込みますよ♡ この間の飲み会で……」

「あああ! 言うな!!」

「もう! 入るわよ!」

 ノックして部屋に入る。

(何度来ても慣れないわね……)

 部屋の中は雑然としていた。
 ゴミが散乱している。
 いや、うず高くゴミが積まれている。
 いわゆるゴミ屋敷だ。
 室内に踏み入った瞬間、何かガサガサ音が聞こえて、ビクリと体が震えた。

「ひっ……!」

 思わず声を上げたのは……。

 ……私ではない……。

「ちょっと、離れてくれないかしら……?」

 ……ヴィンセントが私の体にしがみついていた。

 あげくガタガタ震えている。

「虫が苦手なのは治らないのね……」

「ちげえよ! 別に虫が怖いんじゃねえよ! 俺が嫌いなのは――」

「誰も『怖いの?』とは聞いてないんだけど?」

 そもそも貴族の坊ちゃんだから仕方がない。

 ふと前を見ると、目の前に蜘蛛の巣があった。

「邪魔ね」

 がっと手で掴んで、ポイッと捨てる。

「ジェニー、相変わらず、てめぇは強い女だ……!」

「どういたしまして……」

 そうして中に向かって声を上げる。

「団長? 指令を受けに参りました! 団長? どちらにいらっしゃいます?」

 だが、姿が見えない。

「団長!?」

 その時、ゴミの山からガバリと何かが出没したのだった――。

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