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1日目
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しおりを挟む突然大声で名前を当てられてしまい、ヒルダは素っ頓狂な声を上げる。
武器屋の顔をまじまじと見つめる。
(こんな特徴的な髭の男性、忘れるはずがないような……?)
確かに小さな頃、亡き父親に連れられて何度か訪れたことのある村だ。
父が武器屋と馴染になっていても、おかしくはない。
だが、ヒルダには全く見当もつかなかった。
「いやあ、奥方様によく似て、美人さんになったね……って、おや失敬、小さい頃だったから、おじさんの顔なんて忘れてしまっているよな、すまない、すまない」
武器屋に向かって、ヒルダは深々とお辞儀をする。
「いいえ、こちらこそ、忘れてしまっているようで申し訳ない」
「いいや、良いってことだよ」
朗らかな雰囲気が店内に流れる。
父親のことを知っている人物がいて話が弾んだ。
(嬉しいな、やはり)
胸がぽかぽかすると思っていた途中、武器屋の顔が陰る。
「いやあ、伯爵様もさ、災難だったよな……あの時……」
「え?」
武器屋の表情が急に陰ったのでヒルダは気になってしまう。
「ああ、いやあ、今のは言葉の綾だ、気にしないでほしい」
途中まで話されたら気になってしまう。
だが、武器屋はそれ以上は語ってはくれず、気を取り直したのか明るい調子に戻った。
「そうだ、ヒルダちゃん、武器がほしいのかい?」
「はい、壊れてしまいまして……」
臨時報酬で買った剣が壊れたのも、もちろんショックだ。
だが、それ以上に愛剣だったので悲しくて仕方がない。
「壊れた?」
「ええ」
武器屋が怪訝な表情で見てくるため、どうしたのだろうかと疑問がよぎる。
すると、思いがけない発言をされてしまった。
「せっかく良い剣を持っているのにかい?」
「え?」
今、店主はなんと言った?
(良い剣だと……?)
ドクンドクンドクン。
心臓が嫌な音を立てた。
鍜治場からくる熱気のせいか、夏の蒸し暑さか、やけに汗をかいてしまう。
溢れた汗がぽたぽたと落ちていく。
「今の私に武器など……」
「ほら、腰に下げてるじゃないか」
「これは鞘だけで……」
ドクンドクンドクンドクン。
さらに嫌な予感が背筋を這い上ってくる。
恐る恐る自身の腰へと視線を向けた。
そこにあったのは――
「きゃあっ……!!」
思わず悲鳴を上げてしまった。
「な、なぜだ……!? どうして剣がここに……!?」
腰に下げた鞘の中に、山で見つけた金の聖剣がおさまっていたのだ。
『みいつけた』
恥も外聞も忘れてヒルダは叫んでしまった。
「ひっ……!」
どうして?
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