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第2章 蜜月
第9話 蜜月の甘い落とし穴(中編)2※
しおりを挟む貴族街の裏手にある小さな森の奥――。
フィオーレは池のほとりにたたずんで、きらきらと光る水面をのぞいていた。
彼女の緩やかな亜麻色の髪は、朝陽に照らされてまるで金色のように輝いている。
彼女が身にまとうエメラルドグリーンのドレスは、朝露に濡れた葉を連想させた。
「デュランダル様には優しくしてもらっているわ……心配しないで大丈夫」
池をのぞきこみながら、フィオーレは呟く。
そこに――。
「フィオ!」
突然名を呼ばれた彼女は、びくんと身体を震わせた。
彼女は、声の主を振り返る。
「――デュランダル様……! どうしてこちらに?」
エスト・グランデ騎士団の黒いコートを見にまとった青年――額に汗を流し、息をきらした状態のデュランダルが、彼女の近くに現れた。
「お前が屋敷にいないから探しただろうが! なにやってんだよ!?」
デュランダルの大声に、フィオーレは身をすくませる。
「ご、ごめんなさい……」
びくびくと謝る彼女の顔を見て、デュランダルははっとなった。
「フィオ」
泣きはらした彼女の瞳は、真っ赤だ。
彼は彼女に近付くと、草の生えた地面に腰を落とす。
そうして――。
フィオーレは、いつの間にかデュランダルの腕の中にいた。
彼女の緩やかな亜麻色の髪がふわりと風に揺れる。
「デュランダル様――」
バツが悪そうにしながら、彼は彼女に話しかけ始めた。
「ああ……その……意地の悪いことばっかりしちまって悪かったよ――だから、自分から死んだりしようとか、考えないでくれ――」
真剣な声音で、デュランダルは彼女に訴えた。
「ふぇ……? 自分から、死ぬ……? 私が……?」
フィオーレはキョトンとしてしまう。
(どういうこと……?)
彼女の様子に気付かずに、デュランダルは続ける。
「もう、嘘ついたり嫌なことはしないから……だから、俺のそばから出て行こうとするな」
彼の、彼女を抱き締める強さが増す。
フィオーレの心臓がトクンと鳴った。
はっとした彼女は、慌てて彼に弁明する。
「あ、あの……デュランダル様……誤解です」
「誤解――?」
少しだけデュランダルが、フィオーレの身体から離れた。
「ちょっと用事があって、水辺に来ていたんです……!」
「用事……? 水辺に……」
「はい……絶対、泣いちゃうのは分かっていたから……デュランダル様にご心配をおかけしたくなかったので……」
フィオーレは瞼を伏せた。彼女の手には花の形のチャームのついたブレスレットが握られている。
「フィオーレ」
彼女の両肩に手を置いたデュランダルは、真剣な表情で彼女に告げる。
「……今までも何度かお前の泣き顔は見てるだろう……くだらないことを気にしてんじゃねぇよ。それよりも、何も言わずに勝手に出ていくな――」
「はい……ごめんなさい……」
デュランダルは、安堵したようにほっと息を吐き出す。
(汗びっしょり……私のこと、本当に心配して……)
フィオーレは彼に対して申し訳なく感じ、胸がぎゅっと苦しくなった。
「てっきり、俺はお前の嫌がることばかりしたせいで、嫌われたのかと思って――」
(私が心配をかけたのに、デュランダル様に謝らせちゃダメ――)
フィオーレは必死に想いを伝える。
「まだ……デュランダル様のこと、よく知らないから……嫌ったりはしない、です」
彼女の言葉に、デュランダルの紫色の瞳が揺れた。
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