上 下
208 / 214

210話 最後の戦い

しおりを挟む



 俺は階段を降りていく。

 その時に、何故かあの二人の気配を感じた様な気がした。

 あの2人がこの近くにいると思うと俺の気持ちはどんどんと明るいものになっていく。

 俺のめざしていたみんなとの幸せな未来、それが今ここで果たされる。

 そう思うとなんだか嬉しかった。

 俺は2人がこっちに登っているように思えたため、急がずに階段を降りていく。

 すると、いきなり俺の目が閉じられたこの能力は…………。


「…………君は、晴輝君はのかな? それとも…………盟友?」

「!?」


 この声は、コナーの声だ。


「…………晴輝。」


 陽夏の声も聞こえてくる。


「俺は、俺はみんなだ。そしてみんなが俺だ。」


 俺もモルフィスも、ゆうちゃんも、レアもガイアもみんなが今の俺になっている。

 そして、俺もみんな何だ。

 そしてこれから2人も俺になるんだ。

 こんなに嬉しいことは無い。


「晴輝君…………一緒に帰ろう? 盟友もさ、こんな事君が本当に望んだことじゃ無いだろう?」

「そうよ、晴輝、正気に戻って! まだ間に合うはずよ!」

「正気に…………戻る?」


 今の俺のどこがおかしいんだ?

 どこもおかしくないだろう。

 俺は自分の手を見てみるそこからは常に謎の液体が滴っており、手は少し崩れていたが、少なくとも俺の体だ。

 そうか、2人とも俺の中に現人神が居るということが許せないんだな?


「わかったよ、今現人神は追い出すからさ。」


 俺は体の中に居る現人神を取り出すために、胸に手を入れる。

 胸からは赤黒い液体が吹き出す。

 そして俺はふたつの肉塊を取り出した。


「これで現人神はもう居ないよ、さぁ、一緒になろうよ。」

「「…………。」」


 2人は目を見開いてその肉塊を眺めている。

 それが俺たちを不幸せにした正体、諸悪の根源だ。

 それを見て陽夏とソルが口を抑えて泣き始めてしまった。


「…………晴輝君、それに盟友、やっぱりもう元の姿には戻れないのかい? 僕達を、取り込む事しか道は無いのかい?」

「…………何が嫌なんだ? こんなに嬉しくて、暖かくて、幸せな事なのに!」

「…………。」


 コナーは悲しそうに目を伏せる。


「君は…………約束したじゃないか。僕達の所に必ず帰ってくるって! 君は、約束を破るのかい?」


 その言葉に俺の心がどくりと揺れる。

 そうだ、俺は必ず帰るって…………けど、みんな一緒になった方が幸せで…………。


「君の言う幸せは化け物の姿になって、思考も何もかも出来なくなってでもみんなと一緒にいる事なのかい!? そんなの…………そんなの悲しすぎるじゃないか!」

「!?」


 俺の中の晴輝の部分が暴れ出す。

 俺は、ゆうちゃんとコナーと陽夏と一緒に暮らしたいんだ。

 みんなで街を守って、頑張って復興させて、そして、後世の人類を発展させていく。

 それが、俺の夢だったじゃないか。

 だが、今の俺の夢はなんだ?

 世界を滅ぼし、俺だけの敵対するものの無い世界に世界を作り替え、その中で俺の大切な人と一緒に暮らすというものになってしまっている。

 みんなと一緒に暮らす為には他のものは徹底的に排除してその中で俺は生きなければならない。

 そして、みんな一緒になって考えも、体も何もかもが一緒になってしまえば離れることも無い。

 そんな歪んだ世界を作り出そうと俺はしているんだ。


「…………コナー、陽夏。」

「っ!? 晴輝君!?」

「えっ、晴輝!?」

「…………逃げろ、早く! 俺が、耐えるから!」


 俺は最後のひとふんばりをする時だと思った。

 ここでこの体に任せてみんなを取り込んで世界を滅ぼすなど、俺がさせはしない!

 俺は体の動きをできる限り遅くする。

 俺の体は2人に手を伸ばしている。

 俺以外のみんなは、このふたりと一緒になる事を望んでいるのか…………!?

 分からないが、今ここである程度まで正気を保てているのは俺だけだ。

 それも常にみんな一緒になるのは間違えていると暗示をかけなければいけないほどまで俺の頭もおかしくなっている。


「けど、僕達が逃げたら君はどうするんだい!?」

「…………その時は、俺の意識と引き換えに俺をここに封じ込める。なぁに、簡単な事だ、土曜の現人神の知識は俺にある、ここの機械の使い方も分かっている。それで、どこか絶対に出られないところに転移して、お前らに被害が出ないところに行く、だから…………!」

「ダメに決まってるじゃない!」


 陽夏が叫んだ。


「晴輝だけがそんな思いするなんて絶対に間違ってる! そんな思いするくらいなら…………今ここで私が晴輝を殺す!」

「ちょ、ちょっと何言ってるの!? 今までそんな事成功した例は無いんだよ!?」

「いいから! 晴輝を救いたくは無いの!?」

「けど…………うん、やっぱり僕達が晴輝君を倒せる未来は見えない。」

「…………そうだ、だから早く逃げてくれ。」


 陽夏が俺の事を本当に思ってくれているのは分かる。

 本当に嬉しい事だ。

 だが、それだけじゃダメなんだ、陽夏の今の力では俺の事を殺せるようには見えない。

 それでも、陽夏は俺を救おうと刀を構える。


「…………分かった、そこまでの気概を見せるなら、僕だって賭けに出るよ。」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生チートは家族のために~ ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:23,827pt お気に入り:413

書捨て4コマ的SS集〜思いつきで書く話

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:2

星を旅するある兄弟の話

SF / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:0

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56,609pt お気に入り:6,916

音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ホラー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:3

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:209,415pt お気に入り:12,341

雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:228pt お気に入り:0

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:20,301pt お気に入り:1,494

処理中です...