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第六章 偽装恋人宅の訪問

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「――お前は、何を言ってるんだ!」

 一瞬絶句した後、アルベール様は怒鳴った。

「探偵ごっこのつもりか? これは、本物の殺人事件なんだぞ? そんなこと、手伝わせられるわけないだろう!」
「そうよ、危ないわ」

 アルベール様に同調しながら、私は慌ただしく記憶をたどっていた。この部屋に入ってから、私たちの仲が偽装だとバレるような会話は、交わしていない。取りあえず、そのことに安堵する。

「僕、行動力には自信がありますよ。それに、子供だからこそできることって、あると思うんです」

 めげもせずに、エミールが言う。

「だとしても、ダメだ」
「へええ。あくまで僕を、仲間はずれになさるおつもりですか?」

 エミールが、目をつり上げる。

「だったら僕、父様と母様に、こう申し上げますよ。アルベール兄様は、モニク様と部屋に入られてからというもの、殺人事件など無粋な話題ばかりなさって、モニク様を退屈させましたよーって」
「お前……」

 アルベール様が、エミールをにらみつける。

「父様も母様も、がっかりなさるだろうなあ。女っ気の無かった兄様に、やっと素敵な女性が現れたというのに、おじゃんになったりしたら。特に母様は、モニク様がお気に入りだというのにねー」

 それ以上見ていられず、私はお二人の間に割って入った。

「ねえ、アルベール様。少しくらいなら、手伝ってもらってもよいのじゃないかしら? 人手は、多い方がいいと思いますし」
「やっぱり、モニク様はお優しいなあ! 義姉ねえ様ってお呼びしてもいいですか?」

 エミールが、すかさずそう言い出す。アルベール様は、苦虫をかみつぶしたような顔をなさった。

「仕方ないな。どのみち、話は聞かれてしまったし……。だがエミール、決して危ない真似はするなよ?」
「了解!」

 エミールが、パッと顔を輝かせる。アルベール様は、仕方なさげに、書類を広げ始めたのだった。
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