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第二章 あざかわテクは全滅みたい

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(私、何かまずいこと言った……?)
 困惑していると、ヘルマンが取りなすように口を挟んだ。
「メルセデス様。グレゴール様によると、ハルカ様のいらした世界は、かなり風習が異なるようです。お気になさらない方が……」
「そう。だから本音を言ってしまったということなのね」
 はああ、とメルセデスがため息をつく。本音じゃなくてお世辞なんだけどなあ、と私は思った。とはいえ、訂正はしづらい。おろおろしていると、メルセデスは私をキッと見すえた。
「あなた、二十二歳と言ったわね。しかも、年より幼く見える。グレゴールは、あなたをお妃にふさわしい魅力的な女性に教育するようにと言ったわ。頑張って、年上に見られるように努力しましょうね!」
「――はい!? 年上に見られるように!?」
 私は仰天したのだが、メルセデスは当然といった様子で頷いている。
「年齢が上がれば上がるほど、女性としての価値が上がるのは常識よ。実年齢より上に見られれば、さらに言うことなし」
 何だそりゃ、と私は今度こそ口をあんぐり開けた。若い女性がちやほやされ、若く見られるよう努力する日本とは、真逆ではないか。
「あのー、もしや、こちらの世界での結婚適齢期って?」
「三十代後半ね」
 メルセデスは、きっぱり言ってのけた。それで彼女は、三十一で独身なのか。会社時代の独身の先輩女性が聞いたら、狂喜乱舞しそうな世界観だな、と私は思った。
「ロスキラのマルガレータ王女は、二十八歳よ。結婚するには若すぎるのだけれど、国同士の事情がありますからね。まあ、クリスティアン殿下よりは十以上年上ですし、辛抱していただくしかないわ……。それにしても、あなたはさらに若いのね」
 メルセデスは、困ったように私を見た。
「グレゴールも、なぜあなたを選んだのかしら……。まあいいわ。とにかく、徹底的に磨きましょう。まずは、その髪」
 メルセデスは、私の頭を指さした。私の髪は栗毛色のロングで、ゆるくウェーブしている。色は生まれつきだが、カールはパーマによるものだ。ふわふわした優しい印象を与えるためである。
「巻き毛はよろしくないわね。地毛かしら?」
「あ、これはパーマというものをかけたのです」
 だが、この世界にはパーマの概念が無いらしく、メルセデスは妙な顔をした。
「人工的、ということかしら? すぐに外せるの?」
「いえ、さすがにすぐには……」
 でも時間が経てば落ちます、と続けようとしたその時。信じられないことが起きた。メルセデスが、懐から小型のナイフを取り出したのだ。まさか、と私は思った。
「止めてくださ……」
 制止しようとしたが、遅かった。メルセデスは私の髪をつかむと、バッサリと切り落としたのだ。背中の真ん中付近まであった自慢のロングヘアは、あっという間に耳の下くらいの短さになった。
「うん、よくなったわ」
 メルセデスは、満足げに頷いている。床に散乱した髪の破片を見つめながら、私は呆然と立ち尽くしたのだった。

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