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第六章 実はもふもふは苦手なんです

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「何をする!」
 エマヌエルは、グレゴールを振り払おうとしたが、グレゴールは彼の胸ぐらをつかんで放そうとしない。文官である彼の、どこにこんな腕力が潜んでいたのだろう、と私は目を見張った。しかもエマヌエルは、一応軍人だというのに。
「北山さん、こっちへ」
 男二人が揉み合っている隙に、榎本さんは私の腕を引っ張ると、離れた所へ避難させてくれた。エマヌエルが、わめく。
「何か心得違いをしているんじゃないのか、グレゴール! 僕の身分を忘れたか。いくら王太子殿下の信頼厚き宰相とはいえ、気軽に触れていい相手ではないぞ!」
 それでもグレゴールは、引き下がらなかった。
「乱暴な目に遭わされている女性を助けるのは、男として当然のことだ」
「乱暴? まさか。合意の上だよ」
 エマヌエルは、ぬけぬけと言い放った。
「君も、見ただろう。ハルカ嬢は抵抗していなかったじゃないか」
「それは、あなたが王弟の息子という立場だから……」
「セシリアを人質に取られたんです!」
 私は、思わず叫んでいた。
「今この離宮で、聖獣を扱えるのは、王族であるエマヌエル様だけだから……」
 すると、私の腕がぐいと引っ張られた。榎本さんだ。険しい顔をしている。
「どういうこと? エマヌエル殿下に、あの子たちは扱えないよ?」
 え、と私はきょとんとした。グレゴールが、忌々しげに舌打ちする。
「よくもまあ、ぬけぬけと大それた嘘を! ハルカ、聖獣を扱えるのは、聖女だけだ。王族とはいえ、エマヌエル様にその能力は無い!」
「ちょっ……、それじゃセシリアは!?」
 私は、愕然とした。ふてくされたように、エマヌエルが答える。
「白猫もどきなら、馬車の中だよ!」
 榎本さんが、馬車へとすっ飛んで行く。そんな彼女を見ながら、エマヌエルはなぜか薄笑いを浮かべた。
「聖獣を外へ逃がす聖女か。職務怠慢もいいところだ」
 私は、ぎょっとした。
「彼女のせいじゃありません! 私の不注意です」
「一般の人間、それも異世界から来たような君に、聖獣を任せたのは彼女だろ」
「それは、マキさんのせいじゃなくて……」
 私が、動物好きだなんて嘘をついていたせいだ。私は、必死に榎本さんを庇おうとしたが、エマヌエルはこう言い放った。
「いずれにせよ、聖獣を放ったらかしにしたのは事実。無責任な聖女と、そんな聖女を召喚した人間は、相応の処分を受けるべきだと僕は思うがねえ。そうは思わないかい、グレゴール?」
 勝ち誇ったように、エマヌエルがグレゴールを一瞥する。グレゴールは、ぐっと唇を噛むと、彼から手を放したのだった。
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