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第十一章 愛する人を、救いたい
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その時ふと、私は次の文章に目を留めた。
『ですが、カロリーネ様はこう仰っています。もし自分と結婚するなら、グレゴールを無罪放免としてもいい、父の許可も得ている、と』
「助かるのね!?」
私は、思わず大声を出していた。あんな女性だが、カロリーネがグレゴールを愛しているのは確かだ。だから、彼を救おうというのだろう。ベネディクトも、娘可愛さに許した、というところだろうか。
(よかった……。グレゴール様が生き延びられるチャンス……)
安堵の涙が込み上げてくる。グレゴールとカロリーネが夫婦になるのは辛いが、彼が命を奪われることに比べれば、それくらい何でもない。私は深呼吸してから、手紙を読み進めた。
『カロリーネ様との結婚は、気が進むものではありません。ですがそれでグレゴールを救えるならと、私は彼には無断で、承諾のお返事をいたしました』
それはそうだろう、と私は頷いた。メルセデスの判断は、当然である。だが、次にはこう綴られていた。
『ところがカロリーネ様は、一つだけ条件があると言い出されたのです……。非常に言いづらいのだけれど、ハルカ、あなたを元の世界へ戻すことです』
「何で!?」
私は、眉をひそめた。なぜそこへ、私が出て来るのか。
『カロリーネ様は、あなたの存在が、我慢ならないらしいのです。ハルカならハイネマン邸から出し、グレゴールには近付けないようにしますと申し上げたのですが、納得していただけませんでした。どうしても、元の世界へ帰せと……』
私は、しゅんとうなだれた。この国でひっそりとグレゴールの姿を見守ることすら、私には許されないというのか。それほどカロリーネは、私を疎んでいるのだろう。
『ハルカとお別れするのは私も辛いけれど、愛する弟の命には替えられないの。わかってちょうだい』
「……ええ」
メルセデスがここにいるわけではないのに、私は声に出して返事をしていた。私だって、グレゴールが死ぬのは嫌だ。私が、日本へ戻るしかないだろう。
『というわけでハルカ、ひとまず王都へ戻って来てくれないかしら? それから、この件は使用人たちには内緒にしておいて欲しいの。彼らは本当にグレゴールに忠実だから、このことを知ったら王都へ駆け付けて、彼に報告するかもしれないわ。それでグレゴールが逆上したら、彼は何をしでかすかわかりません。脱獄などしたら、せっかくの極刑を免れるチャンスを、逃してしまうことでしょう』
確かに、と私は頷いた。メルセデスは、辻馬車を使ってはどうかと書いていた。
『王都へ着いたら、真っ直ぐハイネマン邸へ来てちょうだい。儀式に関して記した書物があるのでしょう? それを見ながら、一緒にやってみましょう』
私は、手紙を握りしめると、すぐに帰る支度をした。荷物を持って部屋を出ると、使用人たちが心配顔で待ち構えていた。
「メルセデス様からは、何と?」
「戦況について色々書かれていたけれど、まだわからなさそうね」
私は、曖昧に誤魔化した。その上で王都へ向かうと告げると、彼らは案の定血相を変えた。
「とんでもない。危険ですよ!」
「でも、メルセデス様からの、たってのお願いなのよ。異世界から来た私にしかできないことが、あるそうなの」
あなた方のご主人を救うためよ、と私は心の中で付け加えた。それに、理由はまんざら嘘でもない。
(ごめんなさい。お世話になったのに、こんな風に突然出て行くなんて……)
ハイジや従僕たちを見つめて、私は礼をした。
「今までありがとう。領民の人たちにも、よろしく伝えてちょうだいね」
それ以上追及される前に、私は急いで屋敷を飛び出したのだった。
『ですが、カロリーネ様はこう仰っています。もし自分と結婚するなら、グレゴールを無罪放免としてもいい、父の許可も得ている、と』
「助かるのね!?」
私は、思わず大声を出していた。あんな女性だが、カロリーネがグレゴールを愛しているのは確かだ。だから、彼を救おうというのだろう。ベネディクトも、娘可愛さに許した、というところだろうか。
(よかった……。グレゴール様が生き延びられるチャンス……)
安堵の涙が込み上げてくる。グレゴールとカロリーネが夫婦になるのは辛いが、彼が命を奪われることに比べれば、それくらい何でもない。私は深呼吸してから、手紙を読み進めた。
『カロリーネ様との結婚は、気が進むものではありません。ですがそれでグレゴールを救えるならと、私は彼には無断で、承諾のお返事をいたしました』
それはそうだろう、と私は頷いた。メルセデスの判断は、当然である。だが、次にはこう綴られていた。
『ところがカロリーネ様は、一つだけ条件があると言い出されたのです……。非常に言いづらいのだけれど、ハルカ、あなたを元の世界へ戻すことです』
「何で!?」
私は、眉をひそめた。なぜそこへ、私が出て来るのか。
『カロリーネ様は、あなたの存在が、我慢ならないらしいのです。ハルカならハイネマン邸から出し、グレゴールには近付けないようにしますと申し上げたのですが、納得していただけませんでした。どうしても、元の世界へ帰せと……』
私は、しゅんとうなだれた。この国でひっそりとグレゴールの姿を見守ることすら、私には許されないというのか。それほどカロリーネは、私を疎んでいるのだろう。
『ハルカとお別れするのは私も辛いけれど、愛する弟の命には替えられないの。わかってちょうだい』
「……ええ」
メルセデスがここにいるわけではないのに、私は声に出して返事をしていた。私だって、グレゴールが死ぬのは嫌だ。私が、日本へ戻るしかないだろう。
『というわけでハルカ、ひとまず王都へ戻って来てくれないかしら? それから、この件は使用人たちには内緒にしておいて欲しいの。彼らは本当にグレゴールに忠実だから、このことを知ったら王都へ駆け付けて、彼に報告するかもしれないわ。それでグレゴールが逆上したら、彼は何をしでかすかわかりません。脱獄などしたら、せっかくの極刑を免れるチャンスを、逃してしまうことでしょう』
確かに、と私は頷いた。メルセデスは、辻馬車を使ってはどうかと書いていた。
『王都へ着いたら、真っ直ぐハイネマン邸へ来てちょうだい。儀式に関して記した書物があるのでしょう? それを見ながら、一緒にやってみましょう』
私は、手紙を握りしめると、すぐに帰る支度をした。荷物を持って部屋を出ると、使用人たちが心配顔で待ち構えていた。
「メルセデス様からは、何と?」
「戦況について色々書かれていたけれど、まだわからなさそうね」
私は、曖昧に誤魔化した。その上で王都へ向かうと告げると、彼らは案の定血相を変えた。
「とんでもない。危険ですよ!」
「でも、メルセデス様からの、たってのお願いなのよ。異世界から来た私にしかできないことが、あるそうなの」
あなた方のご主人を救うためよ、と私は心の中で付け加えた。それに、理由はまんざら嘘でもない。
(ごめんなさい。お世話になったのに、こんな風に突然出て行くなんて……)
ハイジや従僕たちを見つめて、私は礼をした。
「今までありがとう。領民の人たちにも、よろしく伝えてちょうだいね」
それ以上追及される前に、私は急いで屋敷を飛び出したのだった。
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