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『親父がオレの母にしたように、お前を屋敷の奥深くに閉じ込めておくつもりはない。外に出て働きたいというなら止めないさ』
微かに笑い、また車窓に眼を向ける横顔がどこか切ない。
そう感じる己の心に、奏は愕然とした。
(どうして僕は……こんなヒドイ男に同調しているんだ!? )
奏は訳が分からず、再び下を向く。
『あ、ありがとう……ございます……』
『――――それに、番持ちになったオメガにはもう悪い虫も寄って来ないだろうしな。ああ、しかし……』
そこで言葉を切ると、チラリと奏を横目で見る。
『オレ個人に恨みを持っている輩が、お前に危害を加えないとも限らない。ボディーガードは付けるとしよう』
『いりませんよ、そんなの』
『いいや、これは決定事項だ。嫌なら、外出は認められない。研究も諦めてもらう』
ムッとして、奏は反論する。
『僕には使命があるんです! 先輩の研究を引き継ぐという使命が! だから……』
『だったら、ボディーガードは受け入れるんだな。通常時は姿を見せないようにさせるから、気にはならないだろう』
『そんな、強引な……』
『従ってもらう』
そう言うと、会話はこれで終わりというように、正嘉は腕を組んで目を閉じてしまった。
仕方なしに、奏は口を噤む。
(ボディーガードだなんて……ようするに監視じゃないか。アルファって、何を考えているのか分からない……)
このまま、流されるように生きるだなんて真っ平だ。
まずは自分が、新しいオメガとして人生を切り拓いていきたい。
(この子の存在を知られる前に、どうにかして自立できるように根回しをしないと)
そっとお腹を擦りながら、奏は思う。
(現行では、番のアルファの権力は絶大だ。それは法律で、番となったアルファは『弱者であるオメガを庇護する義務が生じる為』と制定されているからだ。ならば、オメガが独りでも……番などいなくても充分に自立できるのだと証明しなければ)
ならば、何がなんでも新薬を完成させなければならない。
七海と検証してみたが、どうやら発情に伴う意識症状は、新薬によって劇的に緩和するのは間違いないようだ。
奏も、七海に発情のデータを指摘されて、そこで初めて自分が発情期なのだと自覚したくらいだ。
しかし、問題のオメガフェロモンの放出を抑えるまでには至らず、アルファやベータを刺激してしまうのは変わらないようである。
だが、これさえどうにかすれば、100%完璧な新薬が誕生するだろう。
(そうすれば……本当にもう、正嘉さまも僕なんかを相手にする気は無くなるんだろうな)
フェロモンの消えた男体のオメガなどに、劣情を催すアルファなどいるワケがない。
今はこんなに――――ある意味、情熱的に奏へとアプローチしている正嘉も、まるで悪い夢を見ていたかのようにスッと正気に戻るのだろう。
そうしてまた、さっさと出て行けと言って、冷たく屋敷から放り出すに決まっている。
(だから、もう二度と、期待なんかしちゃあダメだ)
愛される事を夢見て、信じて。
…………そして裏切られ、惨めに捨てられる。
もう二度と、そんな目には遭いたくない。
(――――僕は、この人にとっては、本来なら相手にもしたくない破廉恥なオメガなんだから)
だけど、栄太は……と考えたところで、奏はまた軽く頭を振った。
(バカだな、僕は……)
栄太には、どうしても譲れない事があっただけの話だ。
奏の事を愛してないとか、嫌いになったとか、そういう事じゃない。
――――でも、結局、選ばれずに捨てられたことには変わりないけれど。
その自虐的な考えに、奏はフッと苦笑した。
しかし、これがリアルなのだから目を背けてはダメだ。
直視して受け入れなければ。
微かに笑い、また車窓に眼を向ける横顔がどこか切ない。
そう感じる己の心に、奏は愕然とした。
(どうして僕は……こんなヒドイ男に同調しているんだ!? )
奏は訳が分からず、再び下を向く。
『あ、ありがとう……ございます……』
『――――それに、番持ちになったオメガにはもう悪い虫も寄って来ないだろうしな。ああ、しかし……』
そこで言葉を切ると、チラリと奏を横目で見る。
『オレ個人に恨みを持っている輩が、お前に危害を加えないとも限らない。ボディーガードは付けるとしよう』
『いりませんよ、そんなの』
『いいや、これは決定事項だ。嫌なら、外出は認められない。研究も諦めてもらう』
ムッとして、奏は反論する。
『僕には使命があるんです! 先輩の研究を引き継ぐという使命が! だから……』
『だったら、ボディーガードは受け入れるんだな。通常時は姿を見せないようにさせるから、気にはならないだろう』
『そんな、強引な……』
『従ってもらう』
そう言うと、会話はこれで終わりというように、正嘉は腕を組んで目を閉じてしまった。
仕方なしに、奏は口を噤む。
(ボディーガードだなんて……ようするに監視じゃないか。アルファって、何を考えているのか分からない……)
このまま、流されるように生きるだなんて真っ平だ。
まずは自分が、新しいオメガとして人生を切り拓いていきたい。
(この子の存在を知られる前に、どうにかして自立できるように根回しをしないと)
そっとお腹を擦りながら、奏は思う。
(現行では、番のアルファの権力は絶大だ。それは法律で、番となったアルファは『弱者であるオメガを庇護する義務が生じる為』と制定されているからだ。ならば、オメガが独りでも……番などいなくても充分に自立できるのだと証明しなければ)
ならば、何がなんでも新薬を完成させなければならない。
七海と検証してみたが、どうやら発情に伴う意識症状は、新薬によって劇的に緩和するのは間違いないようだ。
奏も、七海に発情のデータを指摘されて、そこで初めて自分が発情期なのだと自覚したくらいだ。
しかし、問題のオメガフェロモンの放出を抑えるまでには至らず、アルファやベータを刺激してしまうのは変わらないようである。
だが、これさえどうにかすれば、100%完璧な新薬が誕生するだろう。
(そうすれば……本当にもう、正嘉さまも僕なんかを相手にする気は無くなるんだろうな)
フェロモンの消えた男体のオメガなどに、劣情を催すアルファなどいるワケがない。
今はこんなに――――ある意味、情熱的に奏へとアプローチしている正嘉も、まるで悪い夢を見ていたかのようにスッと正気に戻るのだろう。
そうしてまた、さっさと出て行けと言って、冷たく屋敷から放り出すに決まっている。
(だから、もう二度と、期待なんかしちゃあダメだ)
愛される事を夢見て、信じて。
…………そして裏切られ、惨めに捨てられる。
もう二度と、そんな目には遭いたくない。
(――――僕は、この人にとっては、本来なら相手にもしたくない破廉恥なオメガなんだから)
だけど、栄太は……と考えたところで、奏はまた軽く頭を振った。
(バカだな、僕は……)
栄太には、どうしても譲れない事があっただけの話だ。
奏の事を愛してないとか、嫌いになったとか、そういう事じゃない。
――――でも、結局、選ばれずに捨てられたことには変わりないけれど。
その自虐的な考えに、奏はフッと苦笑した。
しかし、これがリアルなのだから目を背けてはダメだ。
直視して受け入れなければ。
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