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ヒロインよ、王太子ルートを選べ!~結婚編~
王太子は多忙を極める③ ※王太子視点
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悪阻で寝込んでいた母上の体調も徐々に良くなり、陛下も少しずつだが公務に復帰している。
誕生日パーティーで、母上の懐妊のことを発表するつもりだ。コレットとの結婚も発表するのかと陛下に聞かれたが、そもそもまだ正式にプロポーズもしていない。
……そんな時間が無かったからだ!
本当は今日にでも結婚したいくらいの気持ちだ。しかし落ち着けよ、俺。まずはプロポーズだろ。
しかし大量の決済書にサインをしながらプロポーズの言葉を考えると言うハイブリッドな時間は、業務報告にきたアランにぶち壊された。
「……ちょっと待て。なんで事後報告なんだ? コレットは無事なのか?」
執務室にやって来たアランに、大声で詰め寄る。グランジュール東部のエアトンで、コレットがディラン=エバンスに襲われたというじゃないか。何のためにアランを護衛に付けたんだ! ふざけるな!
「エアトンへの旅行にディラン=エバンスが同行していることに気付いて、そのまま急いで追いかけたから事後報告になった。済まない」
「だから、コレットは無事なのか?!」
「大丈夫だよ。ケガもないし元気でピンピンしている。喋り方がちょっと機械みたいというか……少しおかしくなってるけど」
「そうか……無事なら良かった。喋り方の件は、よくある話だから気にしなくていいと思う。多分コレットの頭の中で、何かの妄想劇場が始まっているだけだ」
……それにしても、ディラン=エバンス。
四年前に失脚したエバンス宰相の一人息子だ。宰相の息子ということで各方面から期待されていたが、学園の成績もパッとせず、確か途中から外国留学したと記憶している。
同級生にはあの優秀なジェレミー=リードもいたから、ディランはさぞや肩身が狭かっただろう。それで卑屈になってジェレミーの妹であるコレットを狙ったのか。
「……ディランは、コレットに結婚を申し込んでたぞ」
「なっ……なんだと?! 俺という婚約者がいるのにか?!」
「お前、全然コレットと会えてなかったじゃないか。いくら仕事が忙しかったとは言え、これだけ放置すれば他の男から言い寄られる隙だってできるさ……
あ、そう言えば今、コレットを王宮に連れて来て待たせているんだ。今から会ってくればいいよ。決済書、明日に回せる分は俺が仕分けしとくから」
「……おい、コレットが来ているなら早く言えよ! 決済書、頼む。ありがとう!」
あまりに急な話だが、五カ月ぶりにコレットに会える!
心の準備はできていなかったが、プロポーズは今日すべきだろう。忙しすぎてモタモタしていたら、また機会を逸してしまう。
いや……しかし、五カ月ぶりに会って突然プロポーズなんてされたら、コレットに気持ち悪いと思われないだろうか。
……気持ち悪いと思われるだけならまだマシかもしれない。
今の俺は痩せて顔色も悪いし、『あなた誰なの?』とか言われるかも。
コレットとイチャイチャしたいのはいつも俺の方で、コレットは恥ずかしがって嫌々するんだから。
プロポーズ用に甘いセリフを色々と考えていたが、ここはサラっとクールに伝えるのが良さそうだ。コレットが引かないようにサラっとな。ごく自然に会話の中で。
ディランはコレットに何と言ってプロポーズしたんだろう……先を越しやがって、この野郎。
ちょうど陛下が公務に復帰して少し時間ができたタイミングだったから、時間が取れて良かった。俺はコレットが待つという部屋に急いで向かう。
「……コレット!」
しまった、慌ててノックもせずに部屋に入ってしまった。
うわ……なんだこの可愛さは……! まぶしいっ!
いや、可愛いというより、すごく大人びて綺麗になった。たった五カ月会えなかっただけなのに。髪の毛も少しのびたのか?
でも、表情はゼロだな。無だ、無。
「ご無沙汰しています、殿下」
……やはりアランが言う通り、喋り方がおかしい。急に『殿下』とか呼んできた。多分コレットの頭の中で、何らかの妄想ステージが開幕している。今は深追いしちゃダメだ。
妙によそよそしい態度にいたたまれなくなり、とりあえず二人でテーブルに付いてみた。
「その態度は……もしかしてアランから聞いた事を気にしてる?」
「アランから話は聞きましたが、特に気にしておりません」
「……懐妊のことも知っているのか?」
「……はい、存じております」
ポーラが毎週母上の診察に来ているのを、誰かが目にして噂しているんだろうか。誰だ、情報を漏らしたのは。後からジョージに言って調べさせるか。
安定期までは懐妊に関することは内密にと思っていたのだが……今言っても仕方ないな。
しかしポーラが王宮に通っている噂とアランが毛糸店にいた事だけで、母上の懐妊のことまで察してしまうコレットは、やはり賢いな。うん、王太子妃として完璧だ。
俺に弟か妹ができる話を直接伝えられなかったことは俺の手落ちだ。
コレットからしてみれば、自分の家族になる人の懐妊を他人から聞くなんて、自分だけが蚊帳の外のように感じて腹が立つ話だろう。俺から直接言うべきだった。コレットがこんな態度になってしまうのも、致し方ない。
しかし今回の妄想劇場は厄介だな。笑顔は見せてくれるが、目は全然笑ってないぞコレット。
「コレット……怒っているのか?」
「怒っているか……ですって? 私に怒る権利などございません」
ほっ……とりあえず、怒っていなくて良かった。だって俺はこれからコレットにプロポーズしようとしているんだぞ。
陛下が公務に復帰して母上の体調も戻ってきた今、俺たちの結婚の障害になるものは何もないはずだよな。何なら今日にでも結婚したいくらいだ。神殿に行って司祭の前で誓ってくれば終わりだろ?
……さすがにそれは常識的にダメか。とりあえず何より先にプロポーズだ。
さあ、言うぞ。気持ち悪いと思われないように、空気のようにサラっと言うぞ。
「懐妊のことは、俺の誕生日パーティーで発表しようと思っている。それと……俺とコレットのことも……発表するけど、大丈夫か?」
……言った!
コレット、俺たちの結婚発表……していいよな? 断らないでくれ……! お願いします!
「……分かりました。私の、その後のことも考えて頂いているのですよね?」
「ちゃんと考えてる! コレット、本当に長い間婚約者のままで引き留めてしまってすまなかった。今まで本当にありがとう」
考えてる、考えてるよコレット! 俺たちのこれからのことを!
誕生日パーティーで結婚を発表するだろ? この後すぐにでも結婚式のスケジュールを確認するよ。大丈夫だ、どんな仕事の予定よりも結婚式を優先する。
十三年も待たせてすまなかった。
どれだけ長い間婚約者やらせてたんだよ、俺は。すぐにでも結婚してコレットのことを、俺のつ……つっ……妻だって、言ってやるんだ! 今まで根気よく待ってくれて、本当にありがとう、コレット。
誕生日パーティーは明後日だ。なぜかドレスもエスコートも断られてしまったけど、もしかして俺の誕生日に何かサプライズをしてくれるつもりかな? 楽しみだ!
パーティーではみんなの前で結婚することを発表して、すぐに結婚式の計画を立てよう。神殿で結婚の誓いをしてから、その後に王宮で披露パーティーだな。ドレスも新調しよう。コレットは首が重くて嫌がるかもしれないけど、ザミニ石のネックレスも磨いておかないとな。
……最高だ! 絶対に幸せにするから!
誕生日パーティーで、母上の懐妊のことを発表するつもりだ。コレットとの結婚も発表するのかと陛下に聞かれたが、そもそもまだ正式にプロポーズもしていない。
……そんな時間が無かったからだ!
本当は今日にでも結婚したいくらいの気持ちだ。しかし落ち着けよ、俺。まずはプロポーズだろ。
しかし大量の決済書にサインをしながらプロポーズの言葉を考えると言うハイブリッドな時間は、業務報告にきたアランにぶち壊された。
「……ちょっと待て。なんで事後報告なんだ? コレットは無事なのか?」
執務室にやって来たアランに、大声で詰め寄る。グランジュール東部のエアトンで、コレットがディラン=エバンスに襲われたというじゃないか。何のためにアランを護衛に付けたんだ! ふざけるな!
「エアトンへの旅行にディラン=エバンスが同行していることに気付いて、そのまま急いで追いかけたから事後報告になった。済まない」
「だから、コレットは無事なのか?!」
「大丈夫だよ。ケガもないし元気でピンピンしている。喋り方がちょっと機械みたいというか……少しおかしくなってるけど」
「そうか……無事なら良かった。喋り方の件は、よくある話だから気にしなくていいと思う。多分コレットの頭の中で、何かの妄想劇場が始まっているだけだ」
……それにしても、ディラン=エバンス。
四年前に失脚したエバンス宰相の一人息子だ。宰相の息子ということで各方面から期待されていたが、学園の成績もパッとせず、確か途中から外国留学したと記憶している。
同級生にはあの優秀なジェレミー=リードもいたから、ディランはさぞや肩身が狭かっただろう。それで卑屈になってジェレミーの妹であるコレットを狙ったのか。
「……ディランは、コレットに結婚を申し込んでたぞ」
「なっ……なんだと?! 俺という婚約者がいるのにか?!」
「お前、全然コレットと会えてなかったじゃないか。いくら仕事が忙しかったとは言え、これだけ放置すれば他の男から言い寄られる隙だってできるさ……
あ、そう言えば今、コレットを王宮に連れて来て待たせているんだ。今から会ってくればいいよ。決済書、明日に回せる分は俺が仕分けしとくから」
「……おい、コレットが来ているなら早く言えよ! 決済書、頼む。ありがとう!」
あまりに急な話だが、五カ月ぶりにコレットに会える!
心の準備はできていなかったが、プロポーズは今日すべきだろう。忙しすぎてモタモタしていたら、また機会を逸してしまう。
いや……しかし、五カ月ぶりに会って突然プロポーズなんてされたら、コレットに気持ち悪いと思われないだろうか。
……気持ち悪いと思われるだけならまだマシかもしれない。
今の俺は痩せて顔色も悪いし、『あなた誰なの?』とか言われるかも。
コレットとイチャイチャしたいのはいつも俺の方で、コレットは恥ずかしがって嫌々するんだから。
プロポーズ用に甘いセリフを色々と考えていたが、ここはサラっとクールに伝えるのが良さそうだ。コレットが引かないようにサラっとな。ごく自然に会話の中で。
ディランはコレットに何と言ってプロポーズしたんだろう……先を越しやがって、この野郎。
ちょうど陛下が公務に復帰して少し時間ができたタイミングだったから、時間が取れて良かった。俺はコレットが待つという部屋に急いで向かう。
「……コレット!」
しまった、慌ててノックもせずに部屋に入ってしまった。
うわ……なんだこの可愛さは……! まぶしいっ!
いや、可愛いというより、すごく大人びて綺麗になった。たった五カ月会えなかっただけなのに。髪の毛も少しのびたのか?
でも、表情はゼロだな。無だ、無。
「ご無沙汰しています、殿下」
……やはりアランが言う通り、喋り方がおかしい。急に『殿下』とか呼んできた。多分コレットの頭の中で、何らかの妄想ステージが開幕している。今は深追いしちゃダメだ。
妙によそよそしい態度にいたたまれなくなり、とりあえず二人でテーブルに付いてみた。
「その態度は……もしかしてアランから聞いた事を気にしてる?」
「アランから話は聞きましたが、特に気にしておりません」
「……懐妊のことも知っているのか?」
「……はい、存じております」
ポーラが毎週母上の診察に来ているのを、誰かが目にして噂しているんだろうか。誰だ、情報を漏らしたのは。後からジョージに言って調べさせるか。
安定期までは懐妊に関することは内密にと思っていたのだが……今言っても仕方ないな。
しかしポーラが王宮に通っている噂とアランが毛糸店にいた事だけで、母上の懐妊のことまで察してしまうコレットは、やはり賢いな。うん、王太子妃として完璧だ。
俺に弟か妹ができる話を直接伝えられなかったことは俺の手落ちだ。
コレットからしてみれば、自分の家族になる人の懐妊を他人から聞くなんて、自分だけが蚊帳の外のように感じて腹が立つ話だろう。俺から直接言うべきだった。コレットがこんな態度になってしまうのも、致し方ない。
しかし今回の妄想劇場は厄介だな。笑顔は見せてくれるが、目は全然笑ってないぞコレット。
「コレット……怒っているのか?」
「怒っているか……ですって? 私に怒る権利などございません」
ほっ……とりあえず、怒っていなくて良かった。だって俺はこれからコレットにプロポーズしようとしているんだぞ。
陛下が公務に復帰して母上の体調も戻ってきた今、俺たちの結婚の障害になるものは何もないはずだよな。何なら今日にでも結婚したいくらいだ。神殿に行って司祭の前で誓ってくれば終わりだろ?
……さすがにそれは常識的にダメか。とりあえず何より先にプロポーズだ。
さあ、言うぞ。気持ち悪いと思われないように、空気のようにサラっと言うぞ。
「懐妊のことは、俺の誕生日パーティーで発表しようと思っている。それと……俺とコレットのことも……発表するけど、大丈夫か?」
……言った!
コレット、俺たちの結婚発表……していいよな? 断らないでくれ……! お願いします!
「……分かりました。私の、その後のことも考えて頂いているのですよね?」
「ちゃんと考えてる! コレット、本当に長い間婚約者のままで引き留めてしまってすまなかった。今まで本当にありがとう」
考えてる、考えてるよコレット! 俺たちのこれからのことを!
誕生日パーティーで結婚を発表するだろ? この後すぐにでも結婚式のスケジュールを確認するよ。大丈夫だ、どんな仕事の予定よりも結婚式を優先する。
十三年も待たせてすまなかった。
どれだけ長い間婚約者やらせてたんだよ、俺は。すぐにでも結婚してコレットのことを、俺のつ……つっ……妻だって、言ってやるんだ! 今まで根気よく待ってくれて、本当にありがとう、コレット。
誕生日パーティーは明後日だ。なぜかドレスもエスコートも断られてしまったけど、もしかして俺の誕生日に何かサプライズをしてくれるつもりかな? 楽しみだ!
パーティーではみんなの前で結婚することを発表して、すぐに結婚式の計画を立てよう。神殿で結婚の誓いをしてから、その後に王宮で披露パーティーだな。ドレスも新調しよう。コレットは首が重くて嫌がるかもしれないけど、ザミニ石のネックレスも磨いておかないとな。
……最高だ! 絶対に幸せにするから!
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