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22 帰りました
しおりを挟むしっかりと抱き込まれてドスンと床に落ちたのが分かった。
金の泰子のおかげで全く痛くない。
ガバッと金の泰子が身体を離して私の身体を確認した。
「怪我はないか?」
「あ、はい、おかげさまで。」
コロンと床に転がったまま辺りを見回すと、落人として落ちた時のままのメンバーが揃っていた。
向こうにいた時間も短かったし、こっちも大した時間が経っていないのかもしれない。
金の泰子が手を出してくるので掴まると、軽々と抱き上げられた。
「ジオーネル!!!」
涙でびしょ濡れのジェセーゼ兄上が抱きついて来た。
「金の泰子が黒髪抱き締めてたから、まだ黒の巫女を選んだのかと思ってびっくりしたぞ!?」
「え?黒髪のままですか?」
てっきりこちらに来たら元通り白髪に戻っているものと思い込んでいた。
「一度落ちて向こうの理に染まった人間を連れて来たから、そのままの姿になるのじゃ。」
金の精霊王が説明したが、未だに緑の蔓でぐるぐる巻きにされていた。
緑の精霊王は床に刺さっていた金属の杭をスポッと引き抜いていた。金の縄も回収し、しっかりと招霊門を閉める。
緑の精霊王の袂から細い銀の蛇がスルスルと出てくる。
うーんと身体をめいいっぱい伸ばして何とか此方に来ようとする姿が可愛くて、笑って手を差し出した。
手に乗りスルスルと上がって腕に巻きついて落ち着いた。
もしかして銀の精霊王?
「銀の精霊王はしばらく精霊力を溜めないと人型に戻れなさそうなんだ。また歌を聞かせてやってくれよ。」
霊薬紫の腐花を浴びて精霊力が落ちたのかもしれない。
頑張って毎夜歌ってはいたが、三本も翼が渡してきたので、銀の精霊王に負担が掛かったのだろうと申し訳なく思った。
「我の髪をあげるのにぃ~~。」
情けなく金の精霊王が踠くが、緑の蔓は容赦なく締め上げていた。
金と銀の関係って………。いや、緑の精霊王との力関係が分からない。
「すまねーが暫く銀は預かっておいてくれ。愁寧湖に戻すと金がちょっかい掛けかねねぇ。」
そう言って先程回収した金の縄をくれた。
何だろうこれ?
さっき帰ってくる時に金の泰子が握ってはいたけど。
「はい、それは構いませんが、青の泰子は大丈夫でしょうか?」
翼がかなり危ないセリフを吐いていた。
「青の精霊王が見てる。回復は~~まぁ、分からん。」
私が金の泰子にやったように精霊の力を借りて出来ないだろうか?
聞いてみたがダメらしい。
霊薬の効果が抜けても精霊力と精神力、体力全てが低下して、生きる力が無くなっているそうだ。
金の泰子はまだ初期段階で霊薬を抜けば後は自力回復するくらいだったから良かったらしい。
青の泰子は青泰家で精霊の力を借りて眠っているそうだ。
「青の精霊王も青泰家が潰れれば困るんだ。必ず助けるだろうよ。」
それよりも、と緑の精霊王はニヤリと笑った。
「お前たちは選霊の儀の途中だろう。金が邪魔して悪かったな。お前達に祝福をやろう。」
緑の精霊王が右手を広げると、鮮やかな緑の低木が出来た。花を咲かせ実をつけると一人一人にその実を与えた。
「ま、産まれる子の色が良くなるっていうだけの簡単な祝福だけどな。銀玲、お前は今から白の巫女ではなく黒髪黒眼の黒の巫女になった。頑張れよっ。」
そう言って縛った金の精霊王を連れたまま消えてしまった。
風の様に爽やかな方だ。
金の精霊王様も人外の王者然として敬っていたけど、最近分からなくなってきた。
「すまない、ジオーネル。少し話しを良いだろうか。」
ジェセーゼ兄上が猫目を釣り上げて睨みつけていたが、緑の泰子がどうどうと止めていた。
「はい。私もぜひお話しをさせて下さい。」
手を振る緑の泰子とジェセーゼ兄上に見送られ、帰り出す人々の波から外れて、いつか金の泰子が歌っていた談話室に辿り着いた。
畳敷の部屋で窓の外に格子が付いた部屋だ。部屋の外には池があり、草むらの中で私はメソメソと泣いていた。
まさか私に見られているとは思わないだろう。
「他にいい場所が思い付かず此処に来たが、良かっただろうか?」
昔覗き見しましたとは言えないので、黙って頷いた。
金の泰子としては普段から使い慣れた部屋に来ただけなんだろう。
こんな時に気の利いた場所へ案内出来るような人なら、翼にいい様に騙されるとは思えない。
金の泰子は私の手を引いて窓辺に有る座布団へ座らせた。
いつもこの座布団を使ってるのかな……。ちょっと興奮。
「まず謝らせて欲しい。ジオーネルの言い分を信じず、嘘に騙されて酷い事を言ってしまった。申し訳ない。」
金の泰子は私の手を握ったまま目を伏せた。
「いいえ、私も早く自分が銀玲だと伝えてれば良かったのです。ジオーネルとしての印象とか制約とか色々言い訳ぜずに正直に伝えれば、もっと早く解決出来た事もあったはずです。私もそれを謝ろうと思っていました。」
私は金の泰子の金銀の眼を真っ直ぐに見て言った。
ずっと銀玲と気付いて欲しいと思いながら、気付いて貰えるよう動いていなかったのは自分だ。
ジェセーゼ兄上には甘いと言われそうだが、金の泰子ばかりが悪かったと思っていない。
「そうか、君は優しいな。ありがとう。」
金の泰子はお礼を言って一度目を閉じてから、視線を上げた。
左の金眼と右の銀眼が瞬く様に輝き、私の黒眼をじっと見つめる。
「いえ、そんな……。」
あまりにもじっと見つめられるので、気恥ずかしさに視線を逸らしてはチラチラと見てしまう。
チラリと見ては眼が合うので、ずっと見られているのが分かった。
何やら恥ずかしくて誤魔化す様に笑うと、金の泰子も微笑んでくれた。
そんな可愛い顔でも無いのに、そんな笑顔で見つめないで欲しい。
恥ずかしすぎる。
恥ずかしそうに頬を染めて笑うジオーネルを金の泰子はずっと見つめていた。
何故もっと早く気付けなかったのかと後悔ばかりだ。
髪が黒髪になったせいか、肌の色白さが更に際立ち、耳から首元まで晒された素肌から眼が離せずにいる。
よく手入れしていたのが分かるほど、きめ細かい肌は月の光に映えて美しい。
早く触りたい。
黒髪を梳いて、頭を押さえ込んでその瞳に私しか映さないよう縛り付けてしまいたい。
服を脱がし、白い肌を早く堪能したい。
口付けを………、と思ったが翼との情事を思い出し止めておいた。
まずはこの身を清めなければ……。
ジオーネルが少しでも穢れてはいけない。
だが、これだけはやっておかねば安心出来ない。
本当は直ぐにでも金泰家に連れ帰ってしまいたいのだが。
嫌われたく無いのでそこは抑えて、約束を取り付けて離れない様にしなければ。
「緑の精霊王も言っていたが選霊の儀はまだ続いている。選霊の儀ではジオーネルを選びたい。」
ジオーネルは眼を見開いて、かあぁ~と真っ赤な顔をした。
モジモジと眼が潤み出す。
眼の奥に銀の光がフワフワと浮いて、感情の昂りが見てわかる。
好感触に内心ニヤけながら、どうか受けて欲しいと握った手に力を入れる。
「は、はい、よろしくお願いします。」
細い目と眉毛をふにゃりと垂れ下げて、嬉しそうに了承してくれた。
……………うん、いい。
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