貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第一章

対ウォルフ

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「さてと」

 家から歩いてしばらく経ったところで立ち止まる。特に道具は持ってきていない。あるのは本のみだ。

「炎と水、風は出せる。あとは雷と……複数混ぜることも可能なんだ。明日からお湯を出して顔を洗おう」

 試しに水に炎を混ぜてみると、お湯が出来上がった。触れてみたら少し熱い。

「温度調節は必要、と」

 本にあとで見直す事項を書き込む。

 次のページを開いてみるが、そこでリルの手が止まった。

「そろそろ休もうかな」

 草むらに寝転がったところで、遠くから足音が聞こえた。グルルと鳴る喉の音とともに。

──あれ、前にもこんな声を聞いたことが。

 顔をそちらに向けると、体長二メートル程のウォルフと目が合った。

「わあ」

 異世界に来たばかりのリルでも理解できる。これは生命のピンチだ。

「どうしたものか」

 のんびり生きる以外望むことは無いが、かといって早く死にたいわけではない。痛いのも嫌だ。リルは起き上がり、魔法書を開いた。

「試してみよう」

 右人差し指を縦に振る。

「イェン」

 炎が真っすぐ伸び、ウォルフに襲いかかった。ウォルフが横に飛びのく。

「あれ、動物は火が苦手だから逃げると思ったのに」

 計算が狂ってしまった。これではやられてしまう。リルは体勢を立て直した。

「じゃあ、一気にいかせてもらうね」

 両手を動かし、水と風を起こす。そして両手を絡ませて魔法を融合させた。ごうごうと大きな音を立てて水が回転する。ウォルフがリルに向かって牙を向けた。

「勝負」

 風により狂暴化した水をウォルフに撃つ。

「ギャォッ!」

 恐ろしい唸り声を上げてウォルフが後方に飛ばされた。地面に倒れたウォルフを遠目に確認して、リルが汗を拭う。

「よし、やったか」

 近づいてウォルフの状態を確認することはなくその場を離れた。

「この山って意外と危ないのかも。そういえば、魔物が出るとか言っていたような」

 そうと分かれば、今後のために攻撃魔法を覚えておいた方がよさそうだ。そんなことを考えていたら、遠目にサイが見えた。どうやら心配で見に来たらしい。

 ひらひら手を振ってみせると、サイが帰っていった。自分でも予想外だったが、これでひとまずの信頼を得られただろう。これで一人ゆっくり進められる。

「ん?」

 何かの気配がして振り向く。先ほどのウォルフがいた。

「何、どうしたの。また戦う?」

 じっと見つめる。ウォルフがゆっくり近づいてきた。

──敵意は感じない。

 何をしたいのか観察していると、あと五メートル程のところでウォルフがごろんと腹を見せて寝転がった。

「わっ」

 思わず声を上げる。

 腹を向けたということは、こちらに服従したと捉えていいのだろうか。うずうずする気持ちを抑えられず、リルはウォルフに近寄った。

「あの~……もふってしてもよろしいでしょうか」

 ウォルフがこちらを見るばかりで特に返事は無い。それはそうだ。人とウォルフでは言語が違う。

 リルはそっとウォルフに触れた。

「もし、嫌だったら嫌がって。すぐ止めるから」

 両手をウォルフの腹に乗せ、顔をそこに少しだけ埋める。意外な柔らかさに驚き、リルは大いに喜んだ。

「自分が乗れるくらいの大型犬と遊ぶの夢だったんだ。こんなところで叶うなんて」

 リルは思いがけない癒しにしばし浸った。
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