貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第一章

家出その二

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「はぁ、危なかった」

 リルは元いた家の庭にいた。チョコを収納魔法で小さくさせて自室に入る。そして、大慌てで鞄に自分の服などを詰め始めた。

「空間魔法は行ったことがある場所にしか行かれないのが不便だな」

 鞄を持ち、自室を出る。そして、リビングのテーブルに紙を置いて外に出た。紙には「お世話になりました。一人立ちします」と書かれている。

「うーん、見える範囲にはいないけど、いつ戻ってくるか分からないし行こう」

 辺りを見回してみるが、人がいる気配はない。リルはチョコを肩に乗せたまま、風魔法を体にかけて自身を宙に浮かせた。

「師匠、お世話になりました。この御恩は一生忘れません。でも、王宮魔法士は勘弁!」

 サイがいるであろう方向にお辞儀をし、リルは一目散に飛んでいった。

「さて、どこに行こう。山を出たことがないから、どこに行けばいいのかさっぱり」

 四年前まで住んでいた方角と反対方向に逃げる。山を越えると、森が見えた。集落らしきものは無い。この辺りは辺境で、人が住んでいないのかもしれない。

「どうせなら、次住むところも辺境の山がいいな」

 しばらく行くと、街が見えてきた。地上に下りようかと一瞬頭をよぎったが、結局そのまま通り過ぎた。

「誰かと関わり合いになったら、せっかくの一人と一匹暮らしに水を差されるかもしれない」
『グゥ』
「何、お腹空いた?」

 チョコが一声鳴いたので、リルが右手を差し出して魔力を分ける。人間のように肉や野菜も食べられるが、大食らいなため、こうして手っ取り早く魔力を分け与えた方が都合がいいのだ。

「とにかく、あの山からできる限り遠くに行こう」

 リルは速度を上げた。

「う~~ん」

 いくつかの山を越えたが、しっくりくるものがなかなか無い。森だらけや逆に砂漠上になっているところ、できれば今まで住んでいた山と似たところがいい。

「自給自足したいから、畑が作りやすいところにしたいなぁ」

 しばらく空中を彷徨っていたら、好ましい山を発見した。ちょうど腹も空いたので山に下りてみる。

「元のところよりだいぶ離れたから、場所的には大丈夫。あとは──」

 開けた場所の土を触って確認する。やや乾燥しているが、雨が降れば問題無い。降らなければ降らせればいい。草も生えているので、植物が生えない場所ではなさそうだ。

「お、やった」

 近くに小川もあった。これで生活するには十分だ。リルはここを生活の拠点にすることに決めた。

「人がいないし近々で人が入った様子も無い。さすがに誰かの土地ってことはなさそう。まずは家を建てようか」

 リルは風魔法で出した風を細長くして、木を切って回った。風で軽くさせた木を一か所に集める。チョコも木を加えて運ぶ。一人と一匹で家作りが始まった。

「水回りは難しいなぁ。お風呂はどうにか作れそうだけど、それ以外はさすがに誰かに頼んだ方がいいかな」

 大変気が進まないが、一度町に行った方がよさそうだ。しかし、リルは肝心なことに気が付いてしまった。

「まずい。頼むだけのお金が無い」

 サイの仕事の手伝いをした時はたまに小遣いをもらっていたが、山を下りる予定が無かったため、沢山もらえるよう頑張ることもせず、最低限だけもらって貯めていた。食べ物を買うくらいはできるが、水回りの工事を頼めるような金額ではない。

「うう……」

 リルが徹夜した顔に猫背で歩き出す。大変気が進まないが、頼めるだけの金を稼がなければならない。

「この世界でも働くのか……数日だけにしよ……」

 チョコがいるのがせめてもの救いだ。一人きりだったら、水栓トイレは諦めて穴を深く掘るだけという超絶原始的なものにしただろう。

 町でどのような仕事があるのか分からないため、とりあえず山から一番近い町へ行くことにした。山を下りるまでは風で飛び、それからは徒歩で向かった。
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