貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第一章

繋ぐ穴

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 リルには珍しく時間も忘れ、辺りが真っ暗になる頃、ようやく目の前に現れた穴を興味津々に見つめた。

「できた……かも」

 穴は漆黒で、大きさは握り拳程度。覗いてみても全く何も見えない。本当に現世と繋がっているのだろうか。

 そもそも、本当に現世は存在するのか。もしかしたら、ここは異世界ではなく、日本が滅びた何万年後にできた世界かもしれない。

「いや、それは無いな。人類が滅びた後にこんなに上手く魔法や魔物が発展することは極めて難しい」

 すぐに考えを改める。そうなると、やはりこの穴はこことは違う何かに繋がっているに違いない。

「すぐ試したいけど、手を入れて引き千切られたらたまったもんじゃない」

 横に来たチョコをおすわりさせ、リルは落ちていた小石を穴に放り投げた。

 聞き耳を立てていると、遠くでぽとんと小石が落ちる音がした。

「うん、どうやら中に入ったものを破壊する力は無さそう」

 しかし、まだ自分の体を穴に入れる勇気は無い。小石が問題無くても人体に影響があるかは分からない。

「そうだなぁ」

 今度は木の枝を持って差し込んでみた。特に破裂した様子はないので、ぐるぐる枝を回して引き抜いた。

「おっ」

 枝には草が巻き付いていた。リルが注意深く観察する。

「うう~ん、雑草かな……? でも、あっちのものを持ってこられることは分かった。かなりの収穫」

 そしてついに、リルは自分の手を穴に当てた。

「あ、いちおう防御魔法かけておこう」

 小石と枝が平気でも、人も平気だという証明にはならない。念には念を入れて、右腕に防御魔法をかけた。

「よし、せーのッ」

 勢いよく穴に入れたところで、耳を劈く破裂音がした。驚いて右腕を抜く。かけたはずの魔法がすっかり消えていた。

「うわ……防御魔法が発動して右腕の代わりに爆発したんだ。つまり、かけていなかったら今頃私の腕は」

 そこまで考えて、とんでもない代物を開発してしまったことに気が付いた。メリットは大きいが、それ以上にデメリットがある。きちんと理解して扱った方がよさそうだ。

「でも、新しい草ゲット」

 引き抜く際適当に掴んだ草を見遣る。先ほどとは違う。これはおそらくたんぽぽだ。この調子でいろいろ取り寄せてみれば、ここで食べられていない野菜も手に入れられるかもしれない。

 リルの興奮が一気に高まったところで、チョコにぺろりと舐められた。

「ごめんチョコ、放っておいて。そうだ、家か」

 開発に夢中になってしまい、家が途中だったことをすっかり忘れていた。とはいっても、雨風は凌げる程度に形にはなっているので、お風呂を作って今日はおしまいにした。

「ふぅ~」

 さっそく小さくしたチョコと一緒に風呂に浸かる。二日ぶりの風呂は気持ちが良い。

「チョコ、毎日ありがとう」
「ギャオ」

 チョコの体を洗うと、終わった途端風呂から浮き上がり、空中でブルブル体を振って水気を飛ばした。リルにそれが降りかかる。

「うわっぷ! 顔がびしゃびしゃだよ」

 近くにあったタオルを取って顔を拭いていたら、その間にチョコは窓から出ていってしまった。どうやら、風呂はあまり好きではないらしい。

 リルは改めて風呂に肩まで浸かり、大きく深呼吸する。

「明後日工事の人が来たら、あとはのんびり暮らせるね。人間が一人の広い山で自給自足のスローライフ。ああ、楽しみだな」
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