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第二章
リルの覚悟
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しばらくして、リルがあることを思い出した。
「あ、そういえば、だいぶ遠方ですけど、複数の魔力を感知しました。オトラ国の魔法士って今王都から離れていたりしますか?」
すると、ルッツが鍛錬を止め、表情を無くしてリルを見つめた。
「いや、魔法士が王都を離れることはまずない。あったとしても、王族に数人付いていく程度だ」
「なら、違う国の魔法士ですね」
「違う国……」
ルッツが腕組みをしたまま黙り込む。彼が静かになることはめったになく、リルがアミルに目を向けると、アミルもこちらを向いていた。
「アミル様。隣国とオトラ国は陸続きですか?」
「ええ、でも、魔法士を多数連れていらっしゃるなら、事前に連絡があるはずです」
「なるほど。じゃあ、オトラ国に近いところにいるか、もしくはどこかの国が向かってきているか……」
「それはない……と思いたい」
剣を地面に刺し、ルッツが王都を見つめた。
山は相変わらず静かで、王都から大きな音がすることもない。何も問題事が起きているような雰囲気は感じ取れなかった、リルの魔力感知を除いて。
「万が一何かあれば、ロンズがすぐに知らせてくれる。それが無いということは何も無いということだ」
「そうですね」
ようやく和やかな雰囲気に戻ったところで、ロンズが駆け上がってきた。三人の視線がロンズに集まる。ロンズは呼吸を整えることもせず、ルッツに伝えた。
「ルッツ様、隣国キースがオトラに向かって進軍しているとの報告を受けました。確認のため、王宮軍五番隊を向かわせてもよろしいでしょうか」
今度はリルが二人の視線を請け負うことになった。まだ推測の域を超えていなかったから他人事でいられたのに、さっそく当事者になってしまった。
「リル。君は本当に素晴らしい」
「……進軍しているのは十中八九間違いありません。ルッツ様はどうされるんですか」
「もちろん、確認が取れ次第、私も進軍する」
言いながら、ルッツはロンズとともに身の回りの荷物を片付け始めた。まだ進軍の決定はされていないが、時間の問題である。
「リル、世話になった。美味しい料理をありがとう」
「いえ、あの、ご武運をお祈りします」
「ありがとう。テントはここに置いたままでよいか? 必ずここに戻る」
「はい」
ルッツが眉を下げて見上げるアミルに向き直る。
「アミル。キース軍は王都を狙ってのことだろう。どうかここにいて、私たちの無事を祈っていてくれ」
「兄様……」
兄妹の別れの時間の合間に、リルは大急ぎで作れるだけの料理を作った。採れたて野菜も袋に沢山詰めて、それらをロンズに手渡した。
「こんなに頂いてしまい、恐縮です」
「いくらでもありますから。もしまた必要な時は教えてください」
「有難う御座います」
結局、ルッツは夕食を食べる間もなく、ロンズとともに山を下りることとなった。二人と一匹で手を振って見送る。アミルはここに来たばかりでこんなことになってしまい、さぞかし辛い想いだろう。
──ルッツ様、私のこと無理に誘わなかったな。
ルッツはリルがどれだけ優秀かこの目で見てきた。そもそもここに来た目的が勧誘であった。しかし、魔法士が緊急で必要であろう事態になっても、王宮魔法士として働いていないリルを連れていこうとはしなかった。
ルッツの優しさにリルが目を伏せる。
「アミル様。夕食が終わったら隣国の進軍についてお話があります。よろしいですか?」
「はい、何でも」
その日は久々の静かな夕食となった。アミルはいつでも上品で、言葉数も少なかった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、食器をシンクに置き水魔法で手早く洗った。椅子に座り直したリルが、アミルに尋ねた。
「ルッツ様が進軍することになったら、ここにいても分かりますか?」
「はい。進軍の際は花火が上がりますので」
「そうですか。では、花火が鳴ったら、私も向かいます」
「リルさん……」
アミルが両手で顔を覆い、小さな声で礼を言った。
「あ、そういえば、だいぶ遠方ですけど、複数の魔力を感知しました。オトラ国の魔法士って今王都から離れていたりしますか?」
すると、ルッツが鍛錬を止め、表情を無くしてリルを見つめた。
「いや、魔法士が王都を離れることはまずない。あったとしても、王族に数人付いていく程度だ」
「なら、違う国の魔法士ですね」
「違う国……」
ルッツが腕組みをしたまま黙り込む。彼が静かになることはめったになく、リルがアミルに目を向けると、アミルもこちらを向いていた。
「アミル様。隣国とオトラ国は陸続きですか?」
「ええ、でも、魔法士を多数連れていらっしゃるなら、事前に連絡があるはずです」
「なるほど。じゃあ、オトラ国に近いところにいるか、もしくはどこかの国が向かってきているか……」
「それはない……と思いたい」
剣を地面に刺し、ルッツが王都を見つめた。
山は相変わらず静かで、王都から大きな音がすることもない。何も問題事が起きているような雰囲気は感じ取れなかった、リルの魔力感知を除いて。
「万が一何かあれば、ロンズがすぐに知らせてくれる。それが無いということは何も無いということだ」
「そうですね」
ようやく和やかな雰囲気に戻ったところで、ロンズが駆け上がってきた。三人の視線がロンズに集まる。ロンズは呼吸を整えることもせず、ルッツに伝えた。
「ルッツ様、隣国キースがオトラに向かって進軍しているとの報告を受けました。確認のため、王宮軍五番隊を向かわせてもよろしいでしょうか」
今度はリルが二人の視線を請け負うことになった。まだ推測の域を超えていなかったから他人事でいられたのに、さっそく当事者になってしまった。
「リル。君は本当に素晴らしい」
「……進軍しているのは十中八九間違いありません。ルッツ様はどうされるんですか」
「もちろん、確認が取れ次第、私も進軍する」
言いながら、ルッツはロンズとともに身の回りの荷物を片付け始めた。まだ進軍の決定はされていないが、時間の問題である。
「リル、世話になった。美味しい料理をありがとう」
「いえ、あの、ご武運をお祈りします」
「ありがとう。テントはここに置いたままでよいか? 必ずここに戻る」
「はい」
ルッツが眉を下げて見上げるアミルに向き直る。
「アミル。キース軍は王都を狙ってのことだろう。どうかここにいて、私たちの無事を祈っていてくれ」
「兄様……」
兄妹の別れの時間の合間に、リルは大急ぎで作れるだけの料理を作った。採れたて野菜も袋に沢山詰めて、それらをロンズに手渡した。
「こんなに頂いてしまい、恐縮です」
「いくらでもありますから。もしまた必要な時は教えてください」
「有難う御座います」
結局、ルッツは夕食を食べる間もなく、ロンズとともに山を下りることとなった。二人と一匹で手を振って見送る。アミルはここに来たばかりでこんなことになってしまい、さぞかし辛い想いだろう。
──ルッツ様、私のこと無理に誘わなかったな。
ルッツはリルがどれだけ優秀かこの目で見てきた。そもそもここに来た目的が勧誘であった。しかし、魔法士が緊急で必要であろう事態になっても、王宮魔法士として働いていないリルを連れていこうとはしなかった。
ルッツの優しさにリルが目を伏せる。
「アミル様。夕食が終わったら隣国の進軍についてお話があります。よろしいですか?」
「はい、何でも」
その日は久々の静かな夕食となった。アミルはいつでも上品で、言葉数も少なかった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、食器をシンクに置き水魔法で手早く洗った。椅子に座り直したリルが、アミルに尋ねた。
「ルッツ様が進軍することになったら、ここにいても分かりますか?」
「はい。進軍の際は花火が上がりますので」
「そうですか。では、花火が鳴ったら、私も向かいます」
「リルさん……」
アミルが両手で顔を覆い、小さな声で礼を言った。
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