貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第二章

秘密の石

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「有難う御座います。この御恩は一生忘れません」
「そんなにかしこまらないでください。それに、私がどれくらい役に立つか分かりませんし」
「分かります!」

 アミルが顔を上げた。瞳には強い意志が感じられた。

「実は、私も少しだけですが魔法の心得がありまして。魔力検知ならできるのです。貴方の魔力は、今まで出会ったどの魔法士よりも素晴らしい」

「それは、有難う御座います」
「あと、そちらにも素晴らしいものが」

 指差された先に目を向ける。そこにはいつだったか拾った石があった。

「ああ、あれは山の頂上で見つけたものです。確かに、魔力を感じますね」
「あれをご存知ではないのですか?」
「たまたま見つけただけなので。そんなにすごいものなんですか?」

 石を手に取り、アミルに差し出す。アミルが両手を振って断った。

「私にはとても持てません。この石は周りの魔力を吸い取り蓄積できる石です。魔力の少ない私が触ったら、たちまち全魔力を吸い取られてしまいます」

「へえ、そんなすごい能力が」

 だから人気のない山で封印されていたのだ。あそこに放置しておかなくて本当によかった。悪用されたらたまったものではない。

「ということは、この蓄積された魔法石を一気に放出させれば特大魔法弾が撃てるということですね」
「はい。ただ、石を使用するのにも魔力と魔法陣が必要です」

「なるほど。じゃあ、これはとりあえず奥の手ということで、私が管理しておきます。また王都に平穏が戻ったら王宮に差し上げます」

「何から何までお世話になります」

 お辞儀の角度が九十度を超えてしまった。これ以上恐縮されたらこちらが悪いことをしている気分になる。

 石は元の場所に置いておく。これが使う日が来なければいい。

──のんびりスローライフはちょっとだけおあずけか。

 この山は気に入っている。王都の人たちも皆良い人ばかりだった。王族はぐいぐい来るけれども、悪い人たちではない。リルは未来のスローライフを守るため、覚悟を決めた。

「さて、とりあえず常に魔力感知できるようにしておきましょう」

 部屋の隅に魔法陣を描く。リルがそこに魔力を込めた。

「これで、大きな魔力を感知したら知らせてくれます。魔法士が移動するくらいでは分かりませんが、何か魔力を使えばすぐ分かります」

「これは良いですね」

 大きな魔力が王都に向かっていると仮定する。今どの位置にいるのか分かれば、いつ頃軍と衝突するのかが良そうできていい。

「この程度なら王宮魔法士もやっていると思います。あ、私が手助けするのはルッツ様に内緒にしておいてください」
「分かりました」

 テントに戻るというアミルを庭まで見送る。念のため、テントの周りに結界を張ってみた。

「これでアミル様以外は入れません」
「リルさんもですか?」
「はい」
「まあ、お優しいこと。私はリルさんのことルッツ兄様より信頼していますよ」

 ルッツと違って女性なので念には念を入れておいた方がいい。この山は散策した限り安全だが、最悪の状況を予想して対策を立てるべきだ。

「これで大丈夫です。おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 アミルがテントに入ると、山に静寂が訪れた。見上げれば綺麗な星々が光り輝いていて、夜まで続けられる暑苦しい鍛錬の声も無い。

 まるで、元の日常に戻ったようだ。

「いや、全然元の、じゃないな」

 王都が平和でなければ、リルの望む日常ではない。

 魔法陣を見遣る。何も反応が無いので、魔法を使っていないのだろう。

「ただの遠征っていうオチならいいけど、オトラ国に入国申請していないからそれはないか」

 寝るため風呂に入ると、外からかすかに歌声が聞こえてきた。リルは目を瞑り、一人きりの観客になった。
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