貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第二章

男魔法士

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 山も小さくなり、知らない町の上空を過ぎる。状況が分からないので、ひとまず王宮軍が進軍している場所を目指すことにした。いきなり隣国を攻撃して問題になったら責任が取れない。

 先ほど王都から出発したことは把握している。キース軍がいる場所と王都を線で結んだ場所をうろついていると、王宮軍らしきものが見えた。軍から見えないよう姿を消す。

「魔力を使うと、魔力感知できる人間からは見えちゃうから気を付けないと」

 今回、王宮軍の手助けをすることはアミル以外誰も知らない。このまま人知れず戦いを終えて無事帰宅したいものだ。

「これが王宮軍か。千、いるかいないかかな。五番隊まではあるのは知ってるけど、全員で進軍していないにしても、ちょっと少ないかも」

 歴史の授業で習った戦いしか知識としてないので、国同士の争いとなると何万の兵が出陣するものと思っていた。この世界では兵士は少ないことが当たり前なのかもしれないが、それでも不安に感じる人数だ。魔法士だけでなく、普段平和だけあって兵士志願者も少ないのかもしれない。ルッツたちが厳しいと言っていたのも頷ける。

「キース軍も見ておこう」

 魔力を最小限にして、のろのろと飛行する。一時間近くかかってキース軍を発見した。ぱっと見ただけで、オトラ軍の倍はいた。

「数だけでまず負けている。これは厳しい」

 たとえ技量がやや優勢だとしても、この数の差は策略がないと勝機を見出すことは難しいと言える。

 距離を保ったまま、軍の様子を観察する。鎧を着ていない者が等間隔でいる。彼らが魔法士なのだろう。軍自体に薄い結界が覆われており、移動するたび結界も移動している。優秀な魔法士がいることが分かる。

 戦闘になれば結界は剥がれるかもしれないが、結界を張る専門の魔法士がいるかもしれない。いよいよ、最悪の未来が色濃くなってきた。

「私が入らないとまずそうだけど、私がやったってことはバレたくない」

 手助けをするには魔法を使う。つまり、今は消えているリルの姿も周りから見えてしまうということだ。

「そうだ」

 軍から離れた荒野で、リルは自身に変身魔法をかけた。

 体は男性に、服は全て黒の、シックな魔法士の恰好にした。念のためフードも被っておく。これで地上からは黒い何かにしか見えない。

「おお、なかなか格好良い」

 黒髪短髪に黒のローブ。自分の好みを完全に再現している。前世でゲームをしていた時強い男性キャラを使用していたので、男性に変身するにしてもそういう系を目指しがちになる。

 ひとしきり鏡で自身の姿を確認した後、改めてオトラ軍の近くまで戻った。変化中で微量の魔力が漏れているため、今は森の中に身を隠している。

「ロンズさんだ」

 軍の前方にいるルッツはすぐに分かったが、ロンズもその近くにいた。身なりからして、やはり隊長あたりの身分なのだろう。軍人なのに、お世話係のようなことまでさせられて大変だ。

 間もなくして夜が来た。無理はしないようで、野営の準備がされる。オトラ国の地形を熟知していない相手軍も、そろそろ進軍を中断している頃だろう。

 万が一キース軍に動きがあっても分かるよう、魔力感知のアラートを設置しておく。リルも森の中で寝転がり、体力を温存すべく目を閉じた。
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