貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第二章

戦闘開始

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「七時か、早……」

 翌朝、七時に進軍が再開された。八時間たっぷり寝たがまだ眠い。リルは男魔法士の恰好のまま、オトラ軍の後方を歩いていく。一瞬、最後尾にいた魔法士が振り返ったが、リルには気付くことなく前を向き直した。恐らく微量の魔力を感じ取って不思議に思ったのだろう。

「優秀そうな人いるじゃん」

 変化している以外は極力魔力を抑えている。しかし、彼は気が付いた。ルッツも魔法士が足りないとは言っても、魔法士の能力が低いとは言っていなかった。

 昔、サイが王宮魔法士をしていた際教育していた魔法士が残っているのかもしれない。

「師匠はなんで王宮魔法士を辞めたんだろう」

 サイが言うには、十年以上前に王宮を去り、それからはあの山に一人で住んでいるらしい。もう過ぎ去った過去なのだから、わざわざ弟子を元の職場に送り込もうとしなくてもいいだろうに。

 通常のサイクルと異なるため、緊迫した雰囲気の中でも欠伸が出てしまう。姿が見えていたらきっと間抜けに映るだろう。

「ルッツ様、そろそろキース軍が見えてくる頃です」
「うむ」

 大将らしき男がルッツに話しかける。いよいよ決戦の時が来たのだ。リルも大量の魔力を感じ取っている。どうやら、相手方はすでに臨戦態勢らしい。

──とりあえずは様子見かな。

 もともとリルは軍の手助けをする予定はなかった。いきなり入って邪魔になってはいけない。

「一番は見学で終わることだけど、さすがに難しそう」

 それから間もなくして、キース軍からの魔法弾が発射された。オトラ軍が構えたが、単なる威嚇だったらしい。

「余裕があるということか」

 魔力を制御して奇襲攻撃をかけることはせず、実に正々堂々だ。単純に舐められているともとれる。

「さて、どうくる」

 キース軍から今度は実弾の音がした。オトラ軍の前に薄い結界を張る。魔力があちこちから発せられているので、誰かに勘付づかれた様子はなかった。

「来るぞ! 結界!」

 王宮魔法士たちも一斉に結界を張る。軍は陣を形成し、キース軍の次の手を待った。リルが腕を組んで唸る。

「ううん……攻めないのか」

 守りに徹底するところから察するに、アミルの言う非常時に慣れていないというのは本当のことらしい。攻撃は最大の防御という言葉がある通り、守りだけでは勝つことはできない。

 そうしているうちに、キースの大群が押し寄せてきた。一気に辺りの空気がピンと張り詰める。

「オトラ軍、覚悟!」

 敵の大将の合図とともに、キース軍が三つに分かれて攻め始めた。まさに戦場だ。初めての光景に、リルも足踏みしてしまう。しかし、ここで怯んでいてはオトラ国を救うことは叶わない。

「オトラは平和な国なのに、わざわざ攻め入るなんてどういう意図なんだろう」

 リルはまだ悠長なことを考えていた。その答えを教えてくれる者はいないし、答えが出たとしても目の前の戦いが一瞬で解決することはない。

 キースの軍勢が乗り込んできたことで、ついにオトラ軍も応酬した。互いの魔法士が兵士の防御力を上げているため、剣で切られてもたいした怪我はしていないが、それも数をこなせば倒れる者が出てくる。

「駄目だ、見てられない」

 もう姿を現しても誰も気にしないだろう。それより、オトラ軍が心配だ。

 リルは魔力を両手に集め、後ろに控えている軍勢に向かって撃った。結界を突き抜けたいくつかが兵士を襲う。

「魔法士! 結界を強めよ!」
「はッ」

 誰かを傷つけるために魔法士をしているわけではないので、相手軍と言えども怪我をさせることに少なからず戸惑いが生まれる。しかし、ためらっては最悪な結果になってしまう。自分の心の中でで何を優先するのか見極めながら、深呼吸して再度魔力を溜める。

「そこか!」
「おっと」

 目ざとくリルを見つけた兵士が攻撃を仕掛ける。すかさず宙に浮かび、軍から距離を取った。

「あれは……?」

 オトラ軍からも困惑の声が上がる。目立ちすぎてしまった。リルは魔力を制御し、再度姿を消した。

「やばいやばい、目立ちすぎた」

 目の前の敵に集中しているルッツは気付いていないようだが、オトラ軍の面々も数人リルの存在を認識してしまった。

 一番後方に立ち、オトラ軍に死者が出ないよう軍の防御力をあげることに集中する。これならばあまり魔力を使わずに済む。

 しかし、防御力が上がったのはいいが、予想以上にオトラ軍の戦力が弱い。やはり人数差がありすぎる。

「うう~ん……」

 こんな非常時に、自分の生活を守るため目立たないことに固執している場合ではないかもしれない。リルは悩みに悩んで、オトラ軍の頭上で姿を現した。

「おい、先ほどの魔法士だ!」

 ざわざわとオトラ軍が沸き立つ。

「どうせ私だってバレやしないんだ。こうなったら思い切りやってやる」
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