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第三十八話
しおりを挟む「氷鳥って、正式名称アイスバードだったのか……」
能力を確認してクライブが最初に呟いた言葉がこれだった。
「ピピピー(よろしくです)」
礼儀正しくアイスバードはクライブに向かって頭を下げると、今度はガルムとプルルのもとへと移動して挨拶をする。
二人ともアイスバードのことを快く受け入れて、ガルムは背中に乗ることを許容しているようだった。
「うんうん、仲良くできてるようで嬉しいよ。それで、まずは名前をつけてやらないとだな……」
大量にいるスライムたちはさすがに全員の名前を決めてはいないが、アイスバードは表立って一緒に活動することになるであろうため、名前を決めることにする。
どんな名前にするか、クライブは腕を組んでしばし考え込む。
時間にして数十秒。
「よし、決めた! お前の名前は……」
「ピー(ごくり)」
緊張した空気が漂う。名づけというのは魔物たちにとって特別なことだからだ。
ガルムもプルルも、同じ小部屋内にいる他のアイスバードたちもどことなく緊張した面持ちでクライブの言葉を待っている。
「ツララ……でどうかな?」
クライブは雪が降るような寒冷地帯では、垂れ落ちる水が棒状に凍り付いて氷柱を形成するという話を思い出していた。
この命名する瞬間はクライブも緊張する。
名前を気に入られないかもしれない、嫌な反応をされるかもしれない、契約を解除してほしいとまで思うかもしれない――そんな不安は毎回付きまとう。
「ピピー(ツララー)!」
名前を決めてもらったアイスバードこと、ツララは嬉しそうにさえずりながらクライブの頭の周りをパタパタと飛んでいる。
楽しそうな雰囲気から、喜んでくれていることがクライブにも伝わりホッとしていた。
しばらく喜んでいたツララだったが、落ち着くとガルムの上に乗っているプルルの上に着地した。
「ピピ、ピピピー(あらためて、よろしくです)」
足元にいる二人とクライブに挨拶をすると、ツララは満足そうにプルルの上に座る。
「よし、名前も決まったし、目的のものも手に入れたから……街に戻ろうか」
「ガウ!」
「きゅー!」
「ピー!」
クライブの声かけに三人が元気よく返事をするが、クライブは一つ気がかりなことがあった。
「あー、こいつ、ツララのことを連れていくけど……いいのか?」
契約をしたし、ツララ自身も乗り気であり、クライブも契約できたことを嬉しく思っている。
だが、ツララの仲間のアイスバードたちの考えも聞いておきたかった。
その質問に大きなアイスバードも、小さなアイスバード二羽も首を傾げる。
やりたいことを止める理由がどこにあるのか? そんな表情だった。
「ガウ」
ガルムがそう一言だけ口にして頷く。
気にしなくて大丈夫そうだ、とクライブに伝えていた。
それを確認したクライブも頷いて返し、残ったアイスバードたちに軽く会釈をするとこの場を後にした。
帰りももちろんガルムに乗っての移動となる。
「ツララ、悪いんだけどさ俺が冒険者ギルドへ報告にいっている間自由行動でいいかな? 俺と契約しているから問題はないと思うんだけど、それでも羽根を集めてこいって依頼で当の魔物を一緒に連れているのもどうかなって思うから」
「ピピー(了解ー)」
ツララは完全にクライブの指示を理解しており、街が近づいてきたら街の周囲を見て回ろうと決めていた。
そして、予定通りに別れて行動していく。
クライブからツララのいる方向は把握できており、反対にツララからもクライブの場所が把握できている。
「これなら大丈夫だな。俺たちは早速報告に行こう」
「ガウ!」
「キュー!」
二人を伴って街の中を歩いていくクライブ。
その姿はまだまだ当たり前の光景ではないため、すれ違う人々の視線がクライブたちに集まっている。
「……こればかりは徐々に街に溶け込んでいくしかないよなあ」
これだけ大きな街でも魔物使いの姿はほとんどないため、クライブの存在は周囲から浮いてしまっていた。
前の街でも同じ状況は経験しているため、クライブは仕方ないと飲み込んでそのまま冒険者ギルドを目指す。
冒険者ギルドに到着すると、今回も受付にユミナの姿を発見したためクライブは真っすぐその受付に進む。
「あっ、よかったにゃ! 無事だったんですにゃ。連続して依頼に向かうから心配だったんですよ?」
ユミナは心から心配してくれていたらしく、ホッとした表情を見せる。
「これは心配をかけて申し訳ないです。無事に帰って来られました。それで、羽根を取って来たんですけどここで出せばいいですか?」
ただ羽根を持ってきたわけではなく、例の上位個体の羽根も持っているためそのことも確認したいため、少し含みを持たせた様子で質問をする。
「……えっと、もしかして魔石のように数が多いとかですかにゃ?」
少し声をひそめてユミナが質問する。魔石の時は100を超える数を持ってきたため、それを思い出していた。
「いや、数はそんなに多くないんですけど……ちょっと」
ちょっと、何かがある。そんな言葉を聞いては、ここでそれを出してもらうわけにはいかないとユミナは頷いた。
「……わかりましたにゃ、今回も裏にお願いしますにゃ」
そう言うと、前回同様裏手へと案内されていく。
案内するユミナの表情はやや硬く、一体何事かと冒険者たちはクライブに注目していた。
正面から出て、裏に回ったところでユミナが振り返る。
「それでは、品物の提示をお願いします。確か氷鳥の羽根でしたね。納品枚数によって報酬が変わります」
「はい、それじゃあ……」
一羽あたり三枚ずつもらった羽根をクライブはテーブルに並べていく。
「……九枚ですにゃ。うん、どれも良い状態だと思いますにゃ。これで依頼達成ですにゃ!」
そう宣言したユミナだったが、それじゃあ本題をお願いします。といった表情でクライブのことを見ている。
「ありがとうございます。それでは、こちらを……」
テーブルの上に出されたのは羽根。しかし、先ほど並べられた数枚とは異なりひと回り大きい。
「大きい、それに光ってますにゃ。まだ冷たいですにゃ……」
珍しいものを見るかのように見入った様子のユミナがゆっくりと手に取って確認すると、羽根から冷気を感じる。
いくらクライブの移動速度が速いとはいえ、ここまで冷たさを維持するのは考えられない。
「えっと、一つ先に言っておくと俺たちが氷鳥って呼んでる魔物の正式名称はアイスバードらしいです。で、そのアイスバードの中でも一羽だけ大きな個体がいたんですけど、そいつの羽根がこれになります」
それが聞こえたため、他の職員たちも集まってくる。
「アイスバードだって?」
「それの上位個体?」
「光ってる……」
「初めて見たぞ!」
「私、話にはきいたことがあります!」
羽根が載っているテーブルを囲んで職員たちが口々に意見を述べている。
「み、みんな、ちょっと待つにゃ! う、う、うるさいにゃ!」
クライブとユミナのことを置いて、職員たちだけで盛り上がり始めたためユミナが大きな声をあげて職員たちを怒鳴りつけた。
職員たちはハッとなって自分たちの対応に気づくと、そそくさとそれぞれの作業に戻って行った。
戻って行ったが、それでも視線は羽根に向けられていた。
「コホン。みんなが失礼しましたにゃ。それより、これはどこで……というのは愚問だし、聞いちゃいけないですにゃ。それより、これをどうするつもりですにゃ?」
どうする、と聞かれてクライブは何も考えていなかったことに気づく。
「どう、したらいいですかね?」
そのため、問いかけに質問で返すことになる。
「と、とりあえず、すぐにギルドで買取というのは難しいのでお持ちくださいにゃ。もし、それでもうちで買い取ってほしいということであれば、またご相談いただくのがいいかと思いますにゃ」
それを聞いたクライブは静かに頷く。なるほど、それが一番いいな、そう思っていた。
「それでは、依頼の完了のほうだけ手続きをしますにゃ」
そこからは魔石の時と同様に、冒険者ギルドカードを提示して完了登録と報酬をもって帰路につく。
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