徳を積みたい鬼が俺を溺愛してくる

餡玉(あんたま)

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14、甘くて甘い

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「い、いや……俺はいいって」
「ようないやろ。ここ、苦しいやんな?」
「ぁっ……!」

 つぅ……とパンツの上から膨らんだペニスを指先で撫で上げられ、俺はびくんと腰を跳ねさせた。だが、恐ろしいことに、黒波の爪は人間のそれとは比べ物にならないほど尖っているのだ。触られて嬉しいものの、若干腰が引けてしまうのもまた事実で……。

「あ、あのっ……黒波!」
「なんや」
「つ、爪……どうなってんの?」
「爪? ああ……」

 黒波は俺が言わんとしていることを理解したらしく、手を自分の目線の高さに持ち上げた。

「安心せぇ。お前を傷つけたりはせぇへんよ」
「そっ……そうかもだけど」
「怖いか?」

 そっと頬に触れてくる黒波の表情はやはりどこか不安げだ。昼間、初めて俺に触れようとしてきたときと全く同じ顔をしていて、見ていられなかった。

 俺は小さくかぶりを振り、頬に添えられた黒波の手を取る。尖った爪先にそっと唇を寄せ……黒波の指先を、口内に含んだ。

「っ……陽太郎、なんてことを」
「ん、ふ……」

 鬼の鉤爪だ。本来、それはとても禍々しいものでもある。だけど、黒波の優しいところをたくさん目の当たりにしてしまった俺にとって、それはもう恐るべきものではなくなっている。

「俺を守ってくれた爪だもん。……もう平気だ」
「……ん」

 黒波を見上げながら指をしゃぶり、柔らかな舌の腹で、鉤爪の硬さを確かめるように味わった。ちゅぷ、ちゅぅ……とかすかな水音が響くなか、冷静さを取り戻したかに見えていた黒波の頬に再び赤みがさし始める。そして、「はぁ~~……っ」と何かを押し殺すようなため息を吐いた。

 ちゅぷん、と指が口から抜かれてしまい、物足りない思いを抱えつつ黒波を見上げる。

「お前はほんまに……なんと淫らな」
「そう……かな」
「あの男にもこんなことをしていたのか?」
「あの男?」
「昼間、お前の尻を撫で回していたあの優男だ」
「あー……いや、指しゃぶったりはしてない、けど」

 だが、何度もセックスはした。キスもしたし、フェラもさせられた。あの頃の俺は悦んで零士に奉仕していたけれど、今となっては全く無駄な頑張りだったなと思う。

 ……と、なんとなく当時のことを振り返って無言になっている俺を、黒波がめちゃくちゃ不機嫌な顔で見下ろしている。俺はハッとして、「あ、だから! こんなことしてないから」と取り繕った。

 だが、変な間を置いたのが悪かったかもしれない。黒波は眉間に皺を寄せて唇を引き結び、完全に怒った顔だ。

「……許されへんな、ほんっまに」
「え、ええ……でも、過去のことだし」
「今もあの男を愛しているのか? さっき俺にしたみたいなことをしたいと思うんか?」
「思わないよ! だから、あいつとはもう終わってて……!」
「……悔しい」

 枕元に置かれた手が、硬く拳を握りしめる。ヒッとなって見上げてみるも、黒波の表情は怒っているようでもありながらも悲しげだった。なんだか今にも悔し泣きを始めてしまいそうにも見えて、俺はうろたえた。こうことに関する情緒は、子どもの姿の時とあまり変わらないのかもしれない……。

「お、おい、黒波……」
「めっちゃ悔しい。陽太郎は、俺だけのものであってほしいのに」
「お、俺はお前だけのものだよ! 今更あいつとどうこうしようなんて思ってないって!」

 泣き出しそうな黒波を宥めたくて勢い込んでそう言ったものの、なんだか言わなくてもいいことまで口走ってしまったような気がしなくもない……。

 だかその甲斐あってか、黒波の瞳がきらりと明るく輝いた。

「俺だけのもの……?」
「あっ……ええと……うん」
「言うたな。俺以外の人間にその身体を触らせへんな? 俺とだけやな?」
「ああ、お前だけだよ! だからそんな、泣きそうな顔すんなって……」

 きっぱりとそう言い切ると、黒波はほっとしたように眉を下げた。腕を伸ばし、一喜一憂がわかりやすい黒波の頭をそっと撫でると、黒波は甘えるように俺の頬に唇を寄せてきた。

「ちょ、黒波……」
「陽太郎。……陽太郎」
「んんっ……ん」

 頬から首筋、鎖骨へと唇が降りてゆく。熱くて濡れたやわらかなもので肌のそこここを愛撫され、俺はびく、びくっと肌を震わせた。

「ぁ、っ……ん……」
「お前の肌は柔らかい。ええ匂いがする」
「っ……ふっ……黒波っ……」
「愛らしい。……いくらでも触れていたい」

 Tシャツをたくし上げられ、ちゅぅっ……と乳首にキスが降ってきた。敏感なところを甘々と舐め転がしながら、黒波の手は俺の腰のほうへと降りていく。

「ここが好いようやな。合うてるか?」
「んっ……ぁ……ん、うんっ……、好き……っ」
「そうか……ほな、ここは……?」
「アっ……ぁ、っ……すき、すき……っ」

 胸の尖りを吸われ、弄ばれながら双丘を揉みしだかれ、俺は迫り上がってくる甘い予感に腰をくねらせた。

 ひとつひとつ俺の好きなところを尋ねては、ぎこちなく愛撫する。その仕草がなんだか無性に愛おしく、快感がより鋭敏になってゆく。

「この布邪魔やな……破いてもええ?」
「や、破くな! 脱ぐから……」

 ぴったりフィットしたボクサーブリーフをもどかしげに脱がそうとする黒波の動きに応じるように、脚と腰をもぞつかせて下を脱ぐ。
 自ら下着を脱ぐ俺の姿、そして、そこからあらわになってゆくちょっと恥ずかしいところをしげしげと見つめていた黒波が「……なるほど、これも一興やな」と楽しそうに呟くのを、俺はしかとこの耳で聞いた……。

 めくり上げられたTシャツ一枚という格好になってしまった俺を、黒波がうっそりと目を細めて眺めまわしている。
 
 先走りの溢れた屹立も、さっき散々舐められた乳首も、夜の空気で少しひんやりする。だが、全身を火照らせている俺にとっては、そんな冷たさも性感をくすぐる甘い刺激だ。

 黒波の眼差しにさえ、こんなにも感じさせられてしまうのだ。見られているだけでゾクゾクと腹の奥から昂って、息が勝手に上がってしまう。はぁ、はぁ……と胸を浅く上下させながら、俺は黒波の首に腕を回した。

「黒波……」
「その顔……淫らで愛らしいな」
「黒波、触って……さわってよ」
「どこに触れてほしい? お前が喜ぶことを俺はしたい」
「ぜんぶ、……さわって、舐めて……っ」

 かぷ、とひとりで興奮しまくっている俺の唇に、黒波の唇が重なる。真上から舌を差し込まれ、俺は夢中でそれをしゃぶった。
 
 なぜだか黒波の唾液を甘く感じて、いくらでも流し込んでほしくて、淫らな水音を立てながら黒波にキスを繰り返す。すると、反り返っていた俺のペニスが、大きな手で包み込まれた。

「ぁ! ァっ……ぁ、あっ……」
「可愛い、お前は、可愛すぎる」
「んっ……やぁっ、あんっ……ンっ……ぁ!」
「こんなに感じて……気持ちええ?」

 ちゅくちゅく、と溢れんばかりに滴ったものでとろみを帯び、少し強めに扱かれるのが気持ちよかった。すっかり濡れそぼった舌先で乳首を押し転がされ、甘噛みされ、そのたびに腰が跳ね上がってしまう。

「ん、っん……きもちいい、きもちいいよぉっ……!」
「はぁ……たまらへんな、お前……」

 ちゅぷ……と音を立てて乳首から唇を離し、黒波は艶然とした笑みを浮かべている。匂い立つような色香に全身を支配され、俺はただただだらしなく身体をくねらせることしかできないでいた。

「んっ……ン、ンッ……!!」

 しかも、黒波は固くそり返った俺の屹立を口に含んだ。体液の一雫さえ逃したくないとでも言いたげに、先端を吸いながら竿に舌を絡め、根元を巧みに扱く。あまりの刺激に、俺は悶えた。

「ァっ……!! くろはぁ……っ、ンっ……!」
「甘露のようやな。お前の身体も、唾液も、なにもかも」
「ぁ、ぁん……すごい……スゴイよぉ……っ、はぁっ……」

 自ら脚を開いて黒波のフェラチオに溺れ、俺は涙をこぼしながら快楽に溺れた。フェラなんてされたことがなかったし、黒波がこうも情熱的に俺を求めてくれるのが嬉しくて、気持ちが良くて、俺はあっという間に絶頂まで追い詰められてしまった。

「いく、いくっ……ぁっ……んんん———っ……!!」

 黒波の喉奥に思い切り吐精してしまった。だが、黒波は俺の腰を掴んだまま手を離そうとはしない。しかも、管の中に残っている精液までも吸い出そうとするものだから、ビクビクと腰がのけぞる。

「アっ……や、っ……ぁ、あ!」

 こんなにも甘く痺れるような絶頂は初めてで、目の奥がチカチカする。

 これまで経験したことのないほどの高みから一気に弾させられたせいだろうか。余韻さえもあまりに甘美で、俺はそのまま意識を手放してしまった。
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