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第5幕 ——夜顔の記憶、祓い人の足跡——
16、悩める人々
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その日珠生は、北崎悠一郎とともにいつもの喫茶店にいた。
四回生になった悠一郎には、卒業制作というものが課せられている。就職先へのアルバイトと授業、そして卒業制作で、悠一郎はすっかり疲れきっていた。
珠生は目の下にくまをこしらえた悠一郎を見つめながら、アイスコーヒーをすすった。
卒業制作にも、もちろん珠生は協力することになっている。今日はその打ち合わせのはずだったが、疲れ切った悠一郎からはなかなかアイディアが浮かんでこないのだ。
「……悠さん、ちょっと写真の話から離れない?」
「……え、あ……うん。せやな。ごめんな、気ぃ遣わせて」
「ううん、いいよ」
にっこりと微笑む珠生の笑顔に、悠一郎は心底癒される。悠一郎は苦笑して、ぬるくなったホットコーヒーを飲んだ。
「ちゃんと寝てるの?」
「うーん、まぁ、寝れる日はな」
「あんまり考えすぎるのも良くないんじゃないかなぁ?」
「せやなぁ。でも、テーマの締め切りも迫ってるし」
「じゃあさ、またどこか自然の多い所に行きませんか? そしたら、なにか浮かんでくるかもしれないし、気分転換にもなるかも」
「自然、か。せやなぁ、そうしよか」
悠一郎は少しばかり元気な顔になって、笑った。珠生の気配りが嬉しい。
珠生との付き合いもそろそろ丸二年が経とうとしているが、珠生は変わらずいつも優しい少年である。
スランプから救い上げ、こうしていつも自分の作品に協力してくれている珠生には、感謝してもしきれないくらいの恩があると悠一郎は思っていた。
「ちょっと遠出したいなぁ。うーん、せやなぁ……海とか……」
「海、山……」
「山もありやな。うーん、紅葉、紫陽花……はもう撮ったな……うーん」
全く思考の休まらない悠一郎に、珠生は苦笑いだ。見かねたマスターが、カウンターの向こうから声をかける。
「こらあかんな。ちょっと温泉でも行って、俗世の垢を落としてくるか?」
「温泉?」
「おお。俺の知り合いがやってる宿屋あるから、行って来ぃや。な、珠生くんも一緒にさ」
「いいですね、温泉」
と、珠生はマスターの気配りに乗っかった。
「温泉かぁ、たしかに何年も行ってないなぁ」
「どこにあるんですか?」
「兵庫県の山ん中やから、車がいるけどね。宿代くらいはただにしてくれるように頼めるで」
「すごいなぁ、マスター」
珠生が持ち上げると、マスターはふふんと得意げに笑った。悠一郎も落ちていた顔を上げる。
「よっしゃ、ちょっと行ってみよっか。いきなりやけど、珠生くんはこの週末は暇?」
「えーと……うん、大丈夫だよ」
「そっか! んなら、題材探しの旅に出るで!」
タイミング良く二人の休みが合ったことに悠一郎は励まされたのか、両手を伸ばして意気揚々とそう言った。
かくして二人は、一泊二日の温泉旅行へ行く事になったのである。
+ +
金曜日。
亜樹は珠生の家での勉強会に参加することになっている。朝からそわそわと落ち着かない亜樹であったが、それ以上にその時間が楽しみでもあった。
放課後になり、湊に連れられて地下鉄に乗り込むと、涼しく冷えた車内で一息つく。相変わらず淡々としている湊は、汗をかくでもなくいつも涼しげなのが不思議だ。
「百合はいいの?」
「あいつは部活や」
「あ、そっか」
大して言葉をかわすでもなく、二人は地下鉄松ヶ崎駅に到着した。亜樹はこんなに北の方まで来たことがなかったため、物珍しげにきょろきょろとあたりを見回している。
「京都にもこんな田舎があんねんなぁ」
「大概こんなもんやで。お前が街中にしか住んだことないだけや」
「柏木かて今出川やろ?」
「俺のばあちゃんちも京都やけど、こんな感じやで」
「そんなに田舎かなぁ?」
背後から、珠生の声がした。亜樹はどきりとして、ゆっくりと後ろを振り返る。
半袖の制服姿の珠生が、薄い鞄を肩に引っ掛けて立っている。ただそれだけの姿なのに、亜樹の心臓がどきりと跳ねた。
「あれ、天道さん」
「俺が誘ってん。先輩にも長いこと会ってへんやろってな」
「あ、そうだね」
二人が先に立って歩き出すのに、亜樹もついて歩き出す。二人の白いシャツの背中が異様に眩しい。
「どうしたの、なんか大人しいじゃん」
と、珠生が不意に振り返ってそう言った。湊は前を向いたままだ。
「え? 別に……」
「そんなに先輩に会うの緊張する?」
「そんなんちゃうわ」
亜樹はつんとして、「たまには挨拶しときたいやん」と言った。
「それもそうだね。あ、ここだよ」
小奇麗なマンションが、目の前に現れる。亜樹はそのエントランスに吸い込まれていく二人を慌てて追った。
思えば、男の子の家に上がり込むなど、亜樹にとっては初めての経験である。いくら湊や彰がいるとはいえ、亜樹はそれにもまた緊張し始めた。
そんなことに気づくはずもなく、珠生と湊はさっさと家に入っていった。亜樹も二人に続いて玄関をくぐる。
「……お邪魔します」
おずおずとそんな事を言う亜樹を振り返って、珠生が笑った。
「そんなのいいよ。ほら、入って入って。何飲む?」
「俺、アイスコーヒー。甘くしてくれ」
「はいはい。天道さんは?」
「あ、じゃあうちは、ブラックで」
「へぇ、天道さんもブラック飲めるんだ」
「珠生も勉強中はブラック派やもんな」
と、湊が定位置のようなダイニングの席に腰掛けながらそう言った。
亜樹は物珍しげに珠生の家の中を見回した。一軒家である柚子の家や、以前住んでいた錦織家の豪邸と比べてしまうと、マンションであるこの家は手狭に感じる。
しかし、家の中に満ちている珠生の柔らかい気や、ふんわりとした優しい匂い、てきぱきと二人のために飲み物を用意している珠生の姿を見ていると、不思議と心が和んでいく。
きれいに片付いた家の中には、ちゃんと隅々まで手が入っている様子が分かったし、平和な生活感が溢れている。こういう雰囲気を『家』というのだろうなぁと、今更ながらに亜樹は思った。
「何じろじろ見てんだよ」
ダイニングから珠生の声がする。振り返ると、すでに寛いでいる湊の向かいに座って、珠生も椅子に腰掛けていた。その隣に、亜樹用のグラスが置かれている。
「……マンションって、入ったことないねんもん」
「あ、そっか。俺はマンションしか住んだことないけどね。千葉でもマンション住まいだったし」
「ふうん」
無垢材のダイニングセットに近づき、グラスの置かれている珠生の隣に座る。久しぶりに近くで見る珠生は、いつもと変わらず美しい。
「……美味しい」
「そう? よかった」
コーヒーを一口飲んでそう言った亜樹に、珠生はにっこり笑った。亜樹はそれが気恥ずかしくて、ゆっくりと目をそらす。向かいでそんな様子を見ていた湊が、唇だけで少し笑った。
「そういや最近会ってなかったね。元気してんの?」
「え? 誰が?」
「天道さんに決まってんじゃん」
「あ、ああ、うん。元気やけど?」
「ふうん、深春は?」
「深春は最近、本格的に服飾科に移って勉強しとるよ。なんか楽しそうやで」
「へぇ~服飾科かぁ。深春に似合いそうだなぁ。良かった」
「でもたまに女友達連れてくるから、こっちは気まずくてしゃあないわ」
「なんか本当に兄弟みたいだね」
「まあ、そんなもんやな」
普通に会話ができていることに、湊は少し驚いていた。いつものごとく、なにかしら珠生に突っかかっていくかと思いきや、亜樹はえらく穏やかに会話をしている。
これは成長か、と湊は参考書に目を落とすふりをして二人の様子を観察していた。
この雰囲気なら、花火のことも言いやすそうやな……。そう思った湊は、顔を上げて二人に言った。
「なぁ珠生、今年は花火大会行かへんか?」
「え? 花火?」
「そう。百合に聞いたけど、お前花火大会って行ったことないんやろ?」
「うん……人ごみ苦手だから」
「背も伸びたし大丈夫やろ」
「どんな理屈だよ」
「京都やったら、宇治川の花火とかどうやろ。なぁ、一緒に行こうや」
「でも、二人の邪魔するのも駄目だしさ」
と、珠生は苦笑する。
「ときに、天道も花火行ったことないんやんな?」
「え? うん……」
突如花火の話題を持ち出し始めた湊に戸惑っていた亜樹であったが、ただ黙って流れに身を任せていた。
「ほんならさ、四人で行こうや。生で見るのは絶対いいで! こればっかりは保証する」
「四人で?」
と、珠生は亜樹を見た。珠生のくりくりとした大きな目に見つめられて、亜樹は思わず目を瞬かせる。
「天道さんもないの? 花火」
「そら、そんな空気でもなかったしな。今までは……」
「あ、そうか。行ってみたいもん?」
「え? ……うん、そりゃあ、一回くらいは」
「そっか。それなら……まぁ、いいかなぁ」
「えっ?」
珠生は笑顔を見せて、湊にそう言った。亜樹は驚いて目を丸くする。自分も一緒に行くといえば珠生はきっと渋ると思っていたからだ。
「お、まじか。よっしゃ、楽しみやな」
「うん。高校最後の夏だしね」
「人ごみはええの?」
と、亜樹は珠生にそう言った。
「まあ、年に一回くらいなら大丈夫だろ」
「テレビで見たけど、すごいねんで。花火大会の人ごみ、なめてたらあかんで?」
「大丈夫だろ。え、なに、天道さんも人ごみ駄目なの?」
「いやうちは平気やけど。あんたはエノキやから心配したってるんやろ」
「エノキだからってなんだよ。ていうかまだ俺エノキなの? 着痩せだって言ってるじゃん」
「いや普通に結構細いやん」
「あ、なに? 想像してるわけ?」
得たりとばかりににやにやと亜樹をからかう珠生の顔を見て、亜樹はみるみる顔を赤くして怒鳴った。
「うっさいな! 阿呆! もやし!」
「またもやし!?」
「あーもう、ええかげんにせぇ! エノキでももやしでもどっちでもええわい」
徐々にいつものペースに戻って喧嘩をし始めた二人に湊は声を上げる。二人はきっとなって湊を見る。
「いいよな湊は、ちょっと背が高いからって余裕で」
「ほんまやで、眼鏡のくせに」
「眼鏡のくせにってなんやねん」
「なんであんたと百合が付き合うてんのか不思議でしゃあないわ」
「そら、お前と違って百合はようできた女やから」
「うー、言い返せへんのが更にむかつく」
と、亜樹はぐいとアイスコーヒーを煽った。まるで中年のサラリーマンがビールをあおるがごとくである。
「湊だって細いのになんでエノキになんないわけ?」
と、珠生が文句を言う。
「柏木はあんたよりでかいやろ。それに眼鏡やから眼鏡でいいねん」
「なんだそりゃ」
「もうええやろ、天道。せめてエノキじゃなくてエリンギくらいにしといたれや」
「……湊、毎回言ってるけど、それ全然フォローになってないから」
「……すまん」
亜樹が二人を見て、楽しげに笑った。いつになく明るい笑顔の亜樹に少し驚いたものの、珠生はつられて微笑んだ。湊もふっと笑う。
その時、インターフォンが鳴って、彰の訪れが知らされた。
四回生になった悠一郎には、卒業制作というものが課せられている。就職先へのアルバイトと授業、そして卒業制作で、悠一郎はすっかり疲れきっていた。
珠生は目の下にくまをこしらえた悠一郎を見つめながら、アイスコーヒーをすすった。
卒業制作にも、もちろん珠生は協力することになっている。今日はその打ち合わせのはずだったが、疲れ切った悠一郎からはなかなかアイディアが浮かんでこないのだ。
「……悠さん、ちょっと写真の話から離れない?」
「……え、あ……うん。せやな。ごめんな、気ぃ遣わせて」
「ううん、いいよ」
にっこりと微笑む珠生の笑顔に、悠一郎は心底癒される。悠一郎は苦笑して、ぬるくなったホットコーヒーを飲んだ。
「ちゃんと寝てるの?」
「うーん、まぁ、寝れる日はな」
「あんまり考えすぎるのも良くないんじゃないかなぁ?」
「せやなぁ。でも、テーマの締め切りも迫ってるし」
「じゃあさ、またどこか自然の多い所に行きませんか? そしたら、なにか浮かんでくるかもしれないし、気分転換にもなるかも」
「自然、か。せやなぁ、そうしよか」
悠一郎は少しばかり元気な顔になって、笑った。珠生の気配りが嬉しい。
珠生との付き合いもそろそろ丸二年が経とうとしているが、珠生は変わらずいつも優しい少年である。
スランプから救い上げ、こうしていつも自分の作品に協力してくれている珠生には、感謝してもしきれないくらいの恩があると悠一郎は思っていた。
「ちょっと遠出したいなぁ。うーん、せやなぁ……海とか……」
「海、山……」
「山もありやな。うーん、紅葉、紫陽花……はもう撮ったな……うーん」
全く思考の休まらない悠一郎に、珠生は苦笑いだ。見かねたマスターが、カウンターの向こうから声をかける。
「こらあかんな。ちょっと温泉でも行って、俗世の垢を落としてくるか?」
「温泉?」
「おお。俺の知り合いがやってる宿屋あるから、行って来ぃや。な、珠生くんも一緒にさ」
「いいですね、温泉」
と、珠生はマスターの気配りに乗っかった。
「温泉かぁ、たしかに何年も行ってないなぁ」
「どこにあるんですか?」
「兵庫県の山ん中やから、車がいるけどね。宿代くらいはただにしてくれるように頼めるで」
「すごいなぁ、マスター」
珠生が持ち上げると、マスターはふふんと得意げに笑った。悠一郎も落ちていた顔を上げる。
「よっしゃ、ちょっと行ってみよっか。いきなりやけど、珠生くんはこの週末は暇?」
「えーと……うん、大丈夫だよ」
「そっか! んなら、題材探しの旅に出るで!」
タイミング良く二人の休みが合ったことに悠一郎は励まされたのか、両手を伸ばして意気揚々とそう言った。
かくして二人は、一泊二日の温泉旅行へ行く事になったのである。
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金曜日。
亜樹は珠生の家での勉強会に参加することになっている。朝からそわそわと落ち着かない亜樹であったが、それ以上にその時間が楽しみでもあった。
放課後になり、湊に連れられて地下鉄に乗り込むと、涼しく冷えた車内で一息つく。相変わらず淡々としている湊は、汗をかくでもなくいつも涼しげなのが不思議だ。
「百合はいいの?」
「あいつは部活や」
「あ、そっか」
大して言葉をかわすでもなく、二人は地下鉄松ヶ崎駅に到着した。亜樹はこんなに北の方まで来たことがなかったため、物珍しげにきょろきょろとあたりを見回している。
「京都にもこんな田舎があんねんなぁ」
「大概こんなもんやで。お前が街中にしか住んだことないだけや」
「柏木かて今出川やろ?」
「俺のばあちゃんちも京都やけど、こんな感じやで」
「そんなに田舎かなぁ?」
背後から、珠生の声がした。亜樹はどきりとして、ゆっくりと後ろを振り返る。
半袖の制服姿の珠生が、薄い鞄を肩に引っ掛けて立っている。ただそれだけの姿なのに、亜樹の心臓がどきりと跳ねた。
「あれ、天道さん」
「俺が誘ってん。先輩にも長いこと会ってへんやろってな」
「あ、そうだね」
二人が先に立って歩き出すのに、亜樹もついて歩き出す。二人の白いシャツの背中が異様に眩しい。
「どうしたの、なんか大人しいじゃん」
と、珠生が不意に振り返ってそう言った。湊は前を向いたままだ。
「え? 別に……」
「そんなに先輩に会うの緊張する?」
「そんなんちゃうわ」
亜樹はつんとして、「たまには挨拶しときたいやん」と言った。
「それもそうだね。あ、ここだよ」
小奇麗なマンションが、目の前に現れる。亜樹はそのエントランスに吸い込まれていく二人を慌てて追った。
思えば、男の子の家に上がり込むなど、亜樹にとっては初めての経験である。いくら湊や彰がいるとはいえ、亜樹はそれにもまた緊張し始めた。
そんなことに気づくはずもなく、珠生と湊はさっさと家に入っていった。亜樹も二人に続いて玄関をくぐる。
「……お邪魔します」
おずおずとそんな事を言う亜樹を振り返って、珠生が笑った。
「そんなのいいよ。ほら、入って入って。何飲む?」
「俺、アイスコーヒー。甘くしてくれ」
「はいはい。天道さんは?」
「あ、じゃあうちは、ブラックで」
「へぇ、天道さんもブラック飲めるんだ」
「珠生も勉強中はブラック派やもんな」
と、湊が定位置のようなダイニングの席に腰掛けながらそう言った。
亜樹は物珍しげに珠生の家の中を見回した。一軒家である柚子の家や、以前住んでいた錦織家の豪邸と比べてしまうと、マンションであるこの家は手狭に感じる。
しかし、家の中に満ちている珠生の柔らかい気や、ふんわりとした優しい匂い、てきぱきと二人のために飲み物を用意している珠生の姿を見ていると、不思議と心が和んでいく。
きれいに片付いた家の中には、ちゃんと隅々まで手が入っている様子が分かったし、平和な生活感が溢れている。こういう雰囲気を『家』というのだろうなぁと、今更ながらに亜樹は思った。
「何じろじろ見てんだよ」
ダイニングから珠生の声がする。振り返ると、すでに寛いでいる湊の向かいに座って、珠生も椅子に腰掛けていた。その隣に、亜樹用のグラスが置かれている。
「……マンションって、入ったことないねんもん」
「あ、そっか。俺はマンションしか住んだことないけどね。千葉でもマンション住まいだったし」
「ふうん」
無垢材のダイニングセットに近づき、グラスの置かれている珠生の隣に座る。久しぶりに近くで見る珠生は、いつもと変わらず美しい。
「……美味しい」
「そう? よかった」
コーヒーを一口飲んでそう言った亜樹に、珠生はにっこり笑った。亜樹はそれが気恥ずかしくて、ゆっくりと目をそらす。向かいでそんな様子を見ていた湊が、唇だけで少し笑った。
「そういや最近会ってなかったね。元気してんの?」
「え? 誰が?」
「天道さんに決まってんじゃん」
「あ、ああ、うん。元気やけど?」
「ふうん、深春は?」
「深春は最近、本格的に服飾科に移って勉強しとるよ。なんか楽しそうやで」
「へぇ~服飾科かぁ。深春に似合いそうだなぁ。良かった」
「でもたまに女友達連れてくるから、こっちは気まずくてしゃあないわ」
「なんか本当に兄弟みたいだね」
「まあ、そんなもんやな」
普通に会話ができていることに、湊は少し驚いていた。いつものごとく、なにかしら珠生に突っかかっていくかと思いきや、亜樹はえらく穏やかに会話をしている。
これは成長か、と湊は参考書に目を落とすふりをして二人の様子を観察していた。
この雰囲気なら、花火のことも言いやすそうやな……。そう思った湊は、顔を上げて二人に言った。
「なぁ珠生、今年は花火大会行かへんか?」
「え? 花火?」
「そう。百合に聞いたけど、お前花火大会って行ったことないんやろ?」
「うん……人ごみ苦手だから」
「背も伸びたし大丈夫やろ」
「どんな理屈だよ」
「京都やったら、宇治川の花火とかどうやろ。なぁ、一緒に行こうや」
「でも、二人の邪魔するのも駄目だしさ」
と、珠生は苦笑する。
「ときに、天道も花火行ったことないんやんな?」
「え? うん……」
突如花火の話題を持ち出し始めた湊に戸惑っていた亜樹であったが、ただ黙って流れに身を任せていた。
「ほんならさ、四人で行こうや。生で見るのは絶対いいで! こればっかりは保証する」
「四人で?」
と、珠生は亜樹を見た。珠生のくりくりとした大きな目に見つめられて、亜樹は思わず目を瞬かせる。
「天道さんもないの? 花火」
「そら、そんな空気でもなかったしな。今までは……」
「あ、そうか。行ってみたいもん?」
「え? ……うん、そりゃあ、一回くらいは」
「そっか。それなら……まぁ、いいかなぁ」
「えっ?」
珠生は笑顔を見せて、湊にそう言った。亜樹は驚いて目を丸くする。自分も一緒に行くといえば珠生はきっと渋ると思っていたからだ。
「お、まじか。よっしゃ、楽しみやな」
「うん。高校最後の夏だしね」
「人ごみはええの?」
と、亜樹は珠生にそう言った。
「まあ、年に一回くらいなら大丈夫だろ」
「テレビで見たけど、すごいねんで。花火大会の人ごみ、なめてたらあかんで?」
「大丈夫だろ。え、なに、天道さんも人ごみ駄目なの?」
「いやうちは平気やけど。あんたはエノキやから心配したってるんやろ」
「エノキだからってなんだよ。ていうかまだ俺エノキなの? 着痩せだって言ってるじゃん」
「いや普通に結構細いやん」
「あ、なに? 想像してるわけ?」
得たりとばかりににやにやと亜樹をからかう珠生の顔を見て、亜樹はみるみる顔を赤くして怒鳴った。
「うっさいな! 阿呆! もやし!」
「またもやし!?」
「あーもう、ええかげんにせぇ! エノキでももやしでもどっちでもええわい」
徐々にいつものペースに戻って喧嘩をし始めた二人に湊は声を上げる。二人はきっとなって湊を見る。
「いいよな湊は、ちょっと背が高いからって余裕で」
「ほんまやで、眼鏡のくせに」
「眼鏡のくせにってなんやねん」
「なんであんたと百合が付き合うてんのか不思議でしゃあないわ」
「そら、お前と違って百合はようできた女やから」
「うー、言い返せへんのが更にむかつく」
と、亜樹はぐいとアイスコーヒーを煽った。まるで中年のサラリーマンがビールをあおるがごとくである。
「湊だって細いのになんでエノキになんないわけ?」
と、珠生が文句を言う。
「柏木はあんたよりでかいやろ。それに眼鏡やから眼鏡でいいねん」
「なんだそりゃ」
「もうええやろ、天道。せめてエノキじゃなくてエリンギくらいにしといたれや」
「……湊、毎回言ってるけど、それ全然フォローになってないから」
「……すまん」
亜樹が二人を見て、楽しげに笑った。いつになく明るい笑顔の亜樹に少し驚いたものの、珠生はつられて微笑んだ。湊もふっと笑う。
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