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あの人の様に/テーマ:発見
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大好きな師匠が私の前から突然消えた。
身寄りもなく道端で蹲る私に手を差し伸べてくれたのが出会いだった。
まだ幼かった私を育て、身を守るための剣術を叩き込まれたが、師匠はとても優しくて、私はそんな師匠を本当の父親のように思っていた。
私が二十になった頃、いつものようにフラリと出かけた師匠。
ただ違ったのは、それからこの家に帰ってくることはなかったということ。
あれから二月経つが、どこを探しても師匠は見つからなかった。
幼き頃に連れて来てもらった茶屋。
手を繋ぎ歩いた町中。
心当たりは全て回ったが見つかることはなく、ある言葉が頭を過るが否定する。
「師匠は……師匠は絶対に帰ってくる」
手にぐっと力を入れ自分に言い聞かせるようにつぶやくも、それから更に一月。
今も師匠は見つかっていない。
周りの人達がコソコソと話しているのが聞こえてくる「可哀想にね」私は可哀想なんかじゃない。
身寄りのない私を師匠が救ってくれたんだ。
可哀想なはずがない。
師匠が姿を消して三月。
私は家に閉じこもり探すことをしなくなった。
部屋の隅で膝を抱え蹲っていると、戸を叩く音が聞こえてくる。
もしかして師匠が帰ってきたんじゃないかと慌てて戸を開けるも、そこにいたのは大家。
「そろそろ家賃を払ってもらわなきゃ出ていってもらうよ」
「もう少し待ってください」
「その言葉は何度目だい。あの男はあんたを捨てたんだ。もう三月待ったんだ、あんたが稼いで払いな」
そう言い残し出ていく大家に、今まで我慢していた涙が溢れだす。
頭には何度か過ぎっていた。
私は捨てられたんじゃないかって。
それでも認めたくなかったのに、もう私の心は限界だった。
今から働いたところで全額なんて支払えるはずもない。
師匠と暮らしたこの家を手放さなければいけなくなる。
この場所がなくなったら、師匠が帰ってこれなくなってしまう。
私は大家の家へと向かい頭を下げた。
あの家だけは、失うわけにはいかないから。
「そこまで言うなら、ある旦那のところに嫁ぎな」
大家の話によれば、そこの旦那はお金持ち。
前に私を見かけ興味を持ったらしく、嫁げば家賃は勿論今までとは比にならない裕福な生活がおくれると話されるが、そんなことはどうでもいい。
あの人の、帰ってくる場所さえ守れれば。
私が頷いたその時、誰かがやってきたらしく大家は其方へと行く。
部屋で待っていると、ある物が目に止まる。
近づいて手に取ると、私は言葉を失う。
何故これがここにあるのか。
「あー、見つかっちまったみたいだね」
振り返れば、背後には大家がいる。
私は手に持った物をぐっと握り締め、何故これがここにあるか尋ねる。
これは、師匠が持っていた煙管。
幼い私が付けてしまった傷までしっかり残ってる。
「全くあの男も、拾ってきた子供くらい差し出せばよかったものの」
「どういうこと。師匠はどこに居るの!」
「もうこの世にはいないよ」
大家は話す、あの日の事を。
散歩に出ていた師匠に話があると家へ招き、お金持ちの男が私をほしいと言ってきたと話す。
その男に頼まれ、私を譲るように師匠に話を持ちかける。
上手くいけば、自分にも師匠にも大金が入ると話すが「渡す気はない。あの子の相手はあの子自身が決めるべきだ」と言い残し帰ろうとする師匠を、大家は刺殺す。
死体は気づかれぬように土に埋め、あとは私が大家に泣きつくのを待つだけ。
だが私は、師匠のことを諦めず探し続けた。
そしてようやく探す事を諦めた今、大家は追い打ちをかけ私を追い込んだ。
あの家を手放せるわけがないと知っていたから。
「まあいいさ。知ったところで証拠もない以上俺は罪には問われないからね」
「よくも……よくも師匠を!」
涙を流し怒りを顕にする私の腕を掴んだ大家は、私を金持ちの男の元へ連れて行こうとするが、私は持っていた煙管を思い切り大家の腕に振り下ろす。
痛みで腕から手が離れた瞬間、私は懐から短剣を取り出し大家に振り下ろす。
師匠が護身用にと持たせてくれた短剣。
まさかこんな形で使うことになるとは思いもしなかった。
大家が恐怖で怯えこちらに視線を向けている。
「悪かった。もうあんたからは手を引く、だから命だけは──」
「師匠は……師匠はどこに埋めた!」
大家に案内させ掘り起こされた土の下には、既に誰かわからない死体が埋まっていた。
だが、着物を見ればすぐにわかる。
裕福でもないのに私の世話をしてくれた彼は、いつも同じ着物を着ていたから。
その後、大家を役人へと突き出し、私は師匠を埋葬する。
土の上には花を供え、煙管を握る手に力がこもる。
師匠を発見した私をあなたは褒めてくれるだろうか。
師匠がこうして帰ってきた今、もうあの家は必要ない。
私は師匠とともに過ごした家を出ると、一人町を出て旅をする。
自分一人の力で生きていく為に。
「私と来るかい」
とある町で見つけた、道端に蹲る少年に私は手を差し伸ばす。
私も師匠のような存在になれるだろうか。
《完》
身寄りもなく道端で蹲る私に手を差し伸べてくれたのが出会いだった。
まだ幼かった私を育て、身を守るための剣術を叩き込まれたが、師匠はとても優しくて、私はそんな師匠を本当の父親のように思っていた。
私が二十になった頃、いつものようにフラリと出かけた師匠。
ただ違ったのは、それからこの家に帰ってくることはなかったということ。
あれから二月経つが、どこを探しても師匠は見つからなかった。
幼き頃に連れて来てもらった茶屋。
手を繋ぎ歩いた町中。
心当たりは全て回ったが見つかることはなく、ある言葉が頭を過るが否定する。
「師匠は……師匠は絶対に帰ってくる」
手にぐっと力を入れ自分に言い聞かせるようにつぶやくも、それから更に一月。
今も師匠は見つかっていない。
周りの人達がコソコソと話しているのが聞こえてくる「可哀想にね」私は可哀想なんかじゃない。
身寄りのない私を師匠が救ってくれたんだ。
可哀想なはずがない。
師匠が姿を消して三月。
私は家に閉じこもり探すことをしなくなった。
部屋の隅で膝を抱え蹲っていると、戸を叩く音が聞こえてくる。
もしかして師匠が帰ってきたんじゃないかと慌てて戸を開けるも、そこにいたのは大家。
「そろそろ家賃を払ってもらわなきゃ出ていってもらうよ」
「もう少し待ってください」
「その言葉は何度目だい。あの男はあんたを捨てたんだ。もう三月待ったんだ、あんたが稼いで払いな」
そう言い残し出ていく大家に、今まで我慢していた涙が溢れだす。
頭には何度か過ぎっていた。
私は捨てられたんじゃないかって。
それでも認めたくなかったのに、もう私の心は限界だった。
今から働いたところで全額なんて支払えるはずもない。
師匠と暮らしたこの家を手放さなければいけなくなる。
この場所がなくなったら、師匠が帰ってこれなくなってしまう。
私は大家の家へと向かい頭を下げた。
あの家だけは、失うわけにはいかないから。
「そこまで言うなら、ある旦那のところに嫁ぎな」
大家の話によれば、そこの旦那はお金持ち。
前に私を見かけ興味を持ったらしく、嫁げば家賃は勿論今までとは比にならない裕福な生活がおくれると話されるが、そんなことはどうでもいい。
あの人の、帰ってくる場所さえ守れれば。
私が頷いたその時、誰かがやってきたらしく大家は其方へと行く。
部屋で待っていると、ある物が目に止まる。
近づいて手に取ると、私は言葉を失う。
何故これがここにあるのか。
「あー、見つかっちまったみたいだね」
振り返れば、背後には大家がいる。
私は手に持った物をぐっと握り締め、何故これがここにあるか尋ねる。
これは、師匠が持っていた煙管。
幼い私が付けてしまった傷までしっかり残ってる。
「全くあの男も、拾ってきた子供くらい差し出せばよかったものの」
「どういうこと。師匠はどこに居るの!」
「もうこの世にはいないよ」
大家は話す、あの日の事を。
散歩に出ていた師匠に話があると家へ招き、お金持ちの男が私をほしいと言ってきたと話す。
その男に頼まれ、私を譲るように師匠に話を持ちかける。
上手くいけば、自分にも師匠にも大金が入ると話すが「渡す気はない。あの子の相手はあの子自身が決めるべきだ」と言い残し帰ろうとする師匠を、大家は刺殺す。
死体は気づかれぬように土に埋め、あとは私が大家に泣きつくのを待つだけ。
だが私は、師匠のことを諦めず探し続けた。
そしてようやく探す事を諦めた今、大家は追い打ちをかけ私を追い込んだ。
あの家を手放せるわけがないと知っていたから。
「まあいいさ。知ったところで証拠もない以上俺は罪には問われないからね」
「よくも……よくも師匠を!」
涙を流し怒りを顕にする私の腕を掴んだ大家は、私を金持ちの男の元へ連れて行こうとするが、私は持っていた煙管を思い切り大家の腕に振り下ろす。
痛みで腕から手が離れた瞬間、私は懐から短剣を取り出し大家に振り下ろす。
師匠が護身用にと持たせてくれた短剣。
まさかこんな形で使うことになるとは思いもしなかった。
大家が恐怖で怯えこちらに視線を向けている。
「悪かった。もうあんたからは手を引く、だから命だけは──」
「師匠は……師匠はどこに埋めた!」
大家に案内させ掘り起こされた土の下には、既に誰かわからない死体が埋まっていた。
だが、着物を見ればすぐにわかる。
裕福でもないのに私の世話をしてくれた彼は、いつも同じ着物を着ていたから。
その後、大家を役人へと突き出し、私は師匠を埋葬する。
土の上には花を供え、煙管を握る手に力がこもる。
師匠を発見した私をあなたは褒めてくれるだろうか。
師匠がこうして帰ってきた今、もうあの家は必要ない。
私は師匠とともに過ごした家を出ると、一人町を出て旅をする。
自分一人の力で生きていく為に。
「私と来るかい」
とある町で見つけた、道端に蹲る少年に私は手を差し伸ばす。
私も師匠のような存在になれるだろうか。
《完》
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