黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第一章 迷子と子猫とアガサ村

私の魔法薬

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「これはすごい! 本当にミーナちゃんが?」

 私が作った魔法薬を見てホーマーさんは目を丸くした。
 ビンには「ミーナ」と書いたタグが付いている。

「使い残しの溶剤で、試しにやらせてみたらこの通りさ!」
「おばあちゃんがつきっきりで教えてくれたの。それ1つ作るのに1時間近くかかって、後はもうグッタリ」
「ははは。それでも作れるんなら大したもんだ」
「あたしもビックリしたよ。魔素を操ってたら、普通の顔して『光がキレイ』なんて言うんだからね」
「婆さんの魔力が強いとは言え、俺なんかコレっぽっちも見えないからなぁ」

 アニメやゲームの魔法は光ってるから、そういうのが普通なのかと思ってたら違うようだ。
 攻撃魔法の炎や氷・雷なんかは見えるけど、魔法を構成する魔素の配列は、素質がない人には全然見えないらしい。
 素質があるのかな?、私。
 色々な魔法が使えるようになる?
 せっかく魔法のある世界に住むんだから、魔法、使いたいよね?

「じゃ、これも買い取りでいいかな?」
「え? 買い取り?」

 ビンに手を伸ばすホーマーさんに思わず聞き直す。

「初めて作った魔法薬は記念に取っておくかい?」
「ううん。でも、私が作ったヤツだよ?」
「アン婆さんのレシピで、アン婆さんの監修で、さらに鑑定済み。うん、問題なし」

 ホーマーさんは、おばあちゃんの薬を入れた木箱の端に私の薬も並べて入れた。

「溶剤の作り方も教えなきゃね」

 おばあちゃんが準備してくれた液体はただの水ではなく、アルコールや薬草のエキスなどを混ぜて特別な処理を加えたものだそうだ。
 けれどもそれは魔力持ちでなくても大鍋で一度に大量に作れるらしい。
 重要なのは魔素を注入する工程で、どんなに練習してもできない人もいるのだとか。

「まず簡単な調合薬から教えようと思ってたんだがね」
「葛根湯もミーナちゃん作か。いつもの倍。こりゃ助かる」
「葛根湯なら量って混ぜて包むだけだからたくさん作れるけど、そんなに風邪が流行ってるの?」
「例の洞窟ダンジョンの調査が本格的に始まるそうだ。これから魔法薬だけでなく葛根湯の需要もグンと増える」
「葛根湯も?」
「葛根湯は、風邪だけじゃなく筋肉痛にも効くんだよ」
「へええええ~~っ!?」
「魔法薬は使用量の制限があるからね。戦闘中以外の体の不調は普通の調合薬に頼る冒険者が多い。だから、風邪でも筋肉痛でも肩こりでも、葛根湯は人気なんだよ。冒険者にも、普通の村人にも」
「だけど体や内臓が弱ってる人には売るんじゃないよ。大酒飲みにもね」
「風邪の症状が進んだ人にも、だろ? こちらも薬屋だからな。それは大丈夫」

 薬というのは、飲みさえすれば効くと思ってたけど、そうでもないらしい。
 どんな薬にも副作用はあるし、症状によっては薬を変えなければならない。
 ホーマーさんは自分では薬を作らないが、ドラッグストアに居る薬剤師さんの様にお客の相談にも乗るそうだ。

「というわけで、葛根湯も魔法薬も大歓迎だ。ドンドン作ってくれ。ミーナちゃんも水銀堂うちと取引の契約をしよう」
「ミーナ、魔法薬を売った代金で葛根湯の材料を仕入れてみたら? 空いた時間にたくさん作って売ればいい。任せるから、仕入れから何から自分でやってごらん。もちろん売り上げはお前の収入さ」
「え? いいの?」
「お前は服すらろくに持ってないじゃないか。買いたい物もあるだろう? だけど売り上げからまた次の材料や薬包紙の代金も出すんだよ? 葛根かっこんはこの辺りでも採れるから安いけど、高い材料もあるからね」

 薬の材料は、主にホーマーさんから仕入れているそうだ。
 自分で材料を集めて作ることもできるし、何種類かの薬草は畑で育てているけど、大量に作るにはやっぱり材料を仕入れた方が品質が安定して早いらしい。
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