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第一章 迷子と子猫とアガサ村
光の文様と魔法の薬
しおりを挟む「素材の計量や調合をミーナがやってくれれば大助かりさ」
おばあちゃんはそう言いながら、別の道具と材料を取り出した。理科の実験で見たことあるガラスの器具に似ている。コーヒーをいれるサイフォンに似てるのもあるな。
「その間に、あたしゃ魔法薬を作ろうかね」
「魔法薬?」
「薬剤を魔力で練り上げて作る薬さ。効果が絶大で即効性がある。冒険者がダンジョンに潜る時に持っていくヤツだよ」
「へー。………魔法?」
「魔法とは少し違う。魔力を使うがね。集中するから、終わるまで静かにしてな」
そう言うと、おばあちゃんは目を閉じた。意識を集中しているらしい。
でも私が聞いたのは、そういう意味ではなかった。
(普通の薬じゃなくて、魔法薬? おばあちゃん、魔法の薬を作れるの?)
物語ではお約束だけど、ちょっとドキドキする。
おばあちゃんが目を開けて作業を開始したので私も静かに薬草を量り始めた。
作業の合間に目をやると、おばあちゃんは薬草と液体をガラス容器に入れ、アルコールランプで熱しながら、何かをやっている。指で空中をなぞり、手をかざす。手のひらから淡い光が降り注ぐ。
光はおばあちゃんの手の動きで複雑な文様となり、なめらかに変形を繰り返し、美しい立体図形となって沸騰する液体に吸収されてゆく。
(きれい……)
思わず見とれてしまいそうになる。
(いけない、いけない。えーと、次に量るのは…)
葛根湯をもう10個、作り終えても、おばあちゃんは魔法薬を作り続けていた。
さっきよりも複雑で繊細な文様が宙を舞っている。緑色の粉末に油のような物を加え、ヘラで練るたびにシャンシャンと音を立てながら光がうねる。
私は今度こそじっくりと、その美しい芸術のような光の文様を心ゆくまでながめた。
「ああ、疲れた」
作り終えた魔法薬をガラスの小ビンに注ぎ分けて封をすると、おばあちゃんはそう言って伸びをした。
「葛根湯はとっくに終わってたのかい。付き合わせて悪かったね」
「ううん。おばあちゃんが薬を作る光を見てたから全然平気。もっと見てたいくらい」
「なんだって!? あれが見えたのかい?」
「うん。光が集まって模様になったり形を変えたり……すごくキレイ」
「ふうむ」
何事か考え込むおばあちゃん。
「じゃあ、ミーナもやってみるかい?」
「私も?」
「あれが見えるなら、調合薬だけじゃなく魔法薬も教えてやろう」
そう言って、小さめのガラス機器を私の前にセットした。
おばあちゃんの使い残しの液体を容器に半分くらい注ぎ入れる。
「最初は簡単な体力回復剤からだね。両手を前に出してごらん」
「こう?」
「あたしがやってたように、魔素…あの淡い光を手のひらに集めるんだ」
「ん……んん~」
ずっと見ていたせいか、あの光が渦を巻いて集まるのを想像しやすい。ゆっくりと息を吸って集め、手のひらに乗せる。ほんのりと手のひらが光り始める。
「よし、それをこの中にブチ込む!」
「ええ~~!?」
なんて大雑把な!
意識の集中が切れると光は散り散りに消えてしまった。
「ほらほら、魔素が逃げるよ。やり直し」
「んぅ……んん~~っ!」
「力が入りすぎ!」
大気から集めた魔素は捕まえようとすると消えてしまう。
何度か試すうちに、塊として考えるから扱いにくいと気がついた。太陽が当たる大気の中でキラキラ舞うホコリと同じ。捕まえようとすると、手の動きで起こる風が軽いホコリを散らしてしまう。
だから魔素を捕まえようとするのではなく吸い込むように、魔素ではなく周りの流れを整えて、渦を巻いて流れ落ちる水の様にガラス容器の中に集めた光を注ぎ込む。
容器の中の液体が淡く水色に輝き始める。
成功だ!
「よし!」
おばあちゃんは身を乗り出して拳を握りしめた。
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