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第四章

69 第四の復讐の始まり

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「何故だっ、なぜお前がここにいるのだ!?」
「さて、何故でしょうね。まぁ、その答えはすぐに分かると思いますよ」

 突然現れたアメリアに対してヴィクトルは今現在自分の頭の中を埋め尽くしているその疑問を口にする。だが、当のアメリアはその答えをはぐらかすばかりで、明確に答えようとはしない。

「はぐらかさずに答えろっ、アメリアっ!!」

 答えをはぐらかされた事で、ヴィクトルの中では苛立ちが募っていき、その叫び声の大きさも段々と高くなっていく。

「ヴィクトル伯爵、一体何が起きているのですか?」

 そんなヴィクトルの何度も繰り返された叫び声が気になったのだろう。その声と共に馬車に乗っていた護衛の騎士達が次々とその馬車から降りてきた。
 だが、その騎士達の殆どは外で起きているこの状況を見て、困惑を露わにしていた。それも当然だろう。ヴィクトルが叫び声を上げている先にいたのは、こんな時間にこの場所に、いるとは到底思えない、何処かの貴族の令嬢としか思えない見目麗しい女性だったのだから。

「な、何が……?」
「お前達っ、私を守れ!! 奴は私を追っている敵だ!!」
「なっ!?」

 ヴィクトルのその言葉に騎士達は慌てた様子で各々が持つ武器を構えて彼を守る様に取り囲んだ。
 その直後、この場には完全に一触即発の空気が流れ始める。アメリアから向けられる殺気と騎士達が彼女に向ける威圧感がぶつかり合っていたのだ。これから、何かの拍子に戦いが始まってもおかしい事は無いだろうとヴィクトルは感じていた。
 だが、その時、彼にとって予想だにしない出来事が起きる。ヴィクトルの後方、馬車が待機している場所から女性のものと思われる聞き慣れた声が聞こえてきたのだ。

「お父様、一体何があったのですか?」

 それは、ヴィクトルとは別の馬車に乗っていた筈のマルティナの声だった。マルティナは馬車が一切動く気配がない事と、先程のヴィクトルの大きな叫び声、馬車の外が騒がしくなった事、その三つから馬車の進路上に何かが起きたのだろうと考え、一体外で何があったのか、と気になった彼女が馬車から降りてきたのだ。

「先程の叫び声といい、馬車が動かない事といい、外が騒がしくなった事といい、一体何が……?」
「マルティナっ、早く馬車に戻れっ!!」

 ヴィクトルは、当然マルティナを制止しようとするがそれは少しだけ遅かった。彼のその言葉がマルティナの耳に届くよりも先に、彼女はその視線をヴィクトルが見つめていた先へと向けてしまったのだ。その直後、彼女の表情は一変する事になる。

「えっ……?」
「あら、久しぶりね、ティナ。こうして向かい合うのはあの時の夜会以来かしら」
「どう、して……、どうして貴女がここにいるの……?」

 満面の笑みを浮かべながら、マルティナに再開の言葉を告げるアメリアとは対照的に、マルティナ本人の表情は困惑一色に染まっていた。何故この場所にアメリアがいるのか、そんな疑問だけがマルティナの頭の中を埋め尽くしていく。

「どう、して…… どうしてここに……?」

 そんな事を呟きながら、マルティナの表情は次第に呆然としたものへと変わっていく。だが、アメリアは笑顔のままだ。しかし、マルティナにとってその笑顔は一周回って逆に不気味なものにしか見えなかった。
 そして、アメリアはゆっくりとした口調でマルティナに話しかけた。

「久しぶりの再会という事もあるので、貴女には色々と含む事も気になる事も言いたいことも、沢山あるのだけれども……」

 そこで一度、彼女は言葉を区切った。そして、アメリアはおもむろに指を鳴らす。すると次の瞬間、彼女はマルティナの目の前まで移動していたのだ。

「なっ……」

 一瞬の内に、自分の目の前にアメリアが現れた事で呆然とした声を上げる事しか出来ないマルティナ。そんな彼女の様子を気にする事無く、アメリアはマルティナの頭部に手の平を当てた。

「貴女の出番はもう少し先なの。今はまだ前奏曲プレリュードの時間。だから、貴女の出番が来る時まではゆっくりと眠りなさい」

 そして、アメリアがそう言った直後、マルティナの体は脱力したかのように一気に崩れ落ち、バタリという音と共に地面へと倒れ込んでしまった。

「なっ……、なっ……」

 それを見て呆然と怒りが混じった様な表情を浮かべるのは、その光景を見ている事しかできなかったヴィクトルだった。

「アメリア、きっ、貴様っ、娘に一体何をした!?」
「そう怒鳴らないでください。別に殺したりはしていませんよ。その点に関してだけは安心してください。彼女の出番はまだ先なので一旦眠ってもらっただけです」
「出番、だと……?」
「まぁ、そこは気にしないでください。どうせ、貴方には一切関係が無くなる話になりますので」

 アメリアが一体何を言っているのか、アメリアが言う出番とやらが何を指しているのか、ヴィクトルには全く分からない。それでも、彼にはアメリアの言う出番とやらがろくでもない事を差しているという事だけは分かっていた。
 だからこそ、その表情には苛立ちが募っていく。そんなヴィクトルを無視し、アメリアは早速と言わんばかりに復讐の始まりを宣言した。

「さて、と。これで全ての準備が終わりました。これより、今宵の復讐劇、その前奏曲プレリュードを始めましょうか!!」

 アメリアのその宣言にヴィクトルは思わず息を飲む。すると、アメリアは何故か復讐対象であるヴィクトルから視線を外して、彼を取り囲んでいる護衛の騎士達へと目を向けた。

「では皆さん、事前の打ち合わせ通り、よろしくお願いいたしますね」
「「「はっ!!」」」

 アメリアのその言葉に、何故かアルティエル王国より派遣されて来た騎士達が答える。
 その直後、ヴィクトルを護衛していた筈の騎士達は、なんと自らの持っている武器を護衛対象である筈のヴィクトルへと向けたのだ。
 当然、ヴィクトルはこの意味不明の光景に困惑するしかない。

「こっ、これは一体何がどうなって……」
「あはははっ、この状況が一体どういう事か全く分かっていらっしゃらない様ですね」

 そういう反応をしてしまうのも当然だ。ヴィクトルにしてみれば、つい先程まで味方だと思っていた護衛の騎士達が突如として自分に武器を向けたのだから。

 だが、アメリアが騎士達になんらかの指示を騎士達に出していた事、騎士達がその指示に従う様に自分に武器を向けた事、その二つから一体何が起きたのかをヴィクトルには否応がなしにこの状況が何を意味しているのかを理解させられてしまう。

「まっ、まさか、まさかっ……!!」
「ええ、その通り。貴方の推測通りですよ」

 そう、この場にいるアルティエル王国から派遣されて来たという護衛の騎士達全員が最初からアメリアの指示に従っている者達なのであったのだ。
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