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姉とエアラハールさんの初対面

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「ふぅ……取り乱したわね。それじゃ、皆揃って用意もできているようだし、昼食にしましょう」
「はーいなのー!」
「キューを貪るのだわー!」
「……あの、リクさんの頬が腫れているような気がするのですが……?」
「「……」」
「あははははは、モニカさん。気にしないで……」
「そうよ、失礼なりっくんには、これくらいしても足りないわ。気にしないでね、モニカちゃん?」
「は、はぁ……」

 モニカさん達が戻って来て、昼食の準備が終わり皆でテーブルを囲む。
 姉さんが、先程の怒りがなかったかのように晴れやかな表情で仕切り、昼食を頂く。
 ユノと一緒に離れていたから、ここで何が行われたのかわからないモニカさんは、俺の顔を見て不思議そうにしているが、俺や姉さんに言われて追及を止めたようだ。
 ソフィーとエアラハールさんは、無言を通して何も言わないようにしている……俺の二の舞にはなりたくないだろうからね。

 この世界で初めて、はっきりと見える形で外傷をを負わせたのが姉さんだなんて……。
 頬が腫れているのを外傷とは呼ばないだろうけど、まぁ、似たようなものだ。
 はぁ……泣き止ませるためとはいえ、我ながら無謀な事を……あぁ、お肉を噛むのが辛い……これ、口の中が切れてるんじゃないかな? 少しだけ血の味がするし。

「そういえば、初対面だったわね。私はマルグレーテ・メアリー・アテトリア。一応、女王なんてやっているわ」
「一応ではありません。先代王から国を任された、由緒正しき女王陛下です」
「そのようなものね」
「お初にお目にかかります、女王陛下。ワシ……いえ私はエアラハールと申す者でございます。この度は国の英雄、リク殿の指導を仰せつかりました……女王様におかれましては、聞きしに勝る美貌で、このエアラハール、驚愕しきりにございます。挨拶が遅れました事、誠に申し訳なく……」
「堅苦しい挨拶は不要よ。話は聞いているわ。りっく……リクの事、よろしくお願いね」
「はい……」

 頬や口の中の痛みに耐えながら、ぼんやりと姉さんとエアラハールさんが紹介し合っているのを見る。
 ヒルダさんが、姉さんの言った一応という言葉に反応し、訂正しているけど、姉さんの方は気楽に返すだけだ。
 エアラハールさんは、食事の手を止めて立ち上がり、膝を付いて礼をしているけど……こんなちゃんとした挨拶ができる人だったんだなぁ……元Aランクだったんだから、貴族の人と関わりがあって覚えたのかもしれない。
 まぁ、そもそも俺自身がちゃんとした礼について、よくわかっていない事も多いんだから、本当に正しいのかわからないけどね。

「ごめんなさいね、リクと話していて自己紹介が遅れたわ」
「いえいえ、お気になさらず。むしろ、こちらからお話しせねばならぬところを、申し訳ございません」

 姉さんはエアラハールさんの存在に気付いていなかったという事はなく、俺の事で頭がいっぱいだったんだろう。
 今更ながらに謝ると、逆にエアラハールさんに謝られていた。
 女王様と元冒険者となると、確かにエアラハールさんから言わないといけない事だったのかも?
 俺が姉さんを怒らせたから、それに気圧されて遅れたというのが、一番大きいか。

 とういうか姉さん、さっきまで散々俺に対してりっくんって呼んでいたのに、今更リクと呼び方を変えても……エアラハールさんも何かを察したように触れないし……。
 細かい事は気にせず、このまま押し切っちゃえばいいか、うん。
 説明、面倒だしね……というより喋るのが少し億劫だ……口は禍の門とはよく言ったものだなぁ。

「そう言えばリク、昨夜の事だけれど……」
「ん? あぁ、エルサに乗って空を飛んだ事だね」
「そうよ。私も乗りたかったわぁ……」

 エアラハールさんとの会話が終わり、思い出したように昨夜の事に触れる姉さん。
 腫れや口の中の痛みで、少し喋りにくいけど……なんとか応じる。
 姉さんは以前、ジェットコースターとか好きなタイプだったから、特にエルサに乗ってみたいと思うんだろう。

「昨日乗った限りだと、ちゃんと結界を張ればあんまり問題はなさそうだったけど……姉さん、高い所は大丈夫だったっけ?」
「平気よ。そうね……ここの人達だと、そういう問題もあるわね。まぁ、とにかく私は平気だから、今度乗せて欲しいわね」
「うん、余裕があればだけど。エルサも空を全力で飛ぶのはストレス解消にいいみたいだし、機会があればね」
「きっとよ?」

 ジェットコースターが好きなだけあって、高い所も平気なようだ。
 高いところと聞いた姉さんは、この世界の人達が飛ぶ手段を持っていないため、高所に慣れていないという事に思い至ったようで、俺がユノ以外を乗せなかった事に納得した様子だね。
 念を押す姉さんに、いずれエルサに乗せる事を約束した。
 ……まぁ、乗れるかどうかはヒルダさんを始めとした、姉さんの周囲にいる偉い人達次第のような気がしなくもないけど……ヒルダさん、こっちをジッと見ているし……。

 昼食を終えて、少しだけ休んでお腹を落ち着けた後は、エアラハールさんによる訓練だ。
 俺達がどんな事をしているのか見たいと言い出した姉さんは、以前見た事のあるような形でヒルダさんに連れて行かれた。
 時間に余裕があるんなら、見るのも構わないと思ったけど……女王様は忙しいね。
 姉さん達を見送り、全員で訓練場へ移動するかたわら、エアラハールさんへ明日以降の予定を伝える。

 明日は一日移動に費やす事になるからね。
 モニカさん達を依頼のあった街へ送り届けた後は、俺とソフィーは鉱山へ。
 数日おきにモニカさんの方へ、エルサに乗って様子見をする……という事になっている。
 エアラハールさんはどうするのかと思ったけど、基本的には俺について来る事にしたようだ。

 時折モニカさん達の方も様子を見るために同行するつもりのようだけど、本来は俺に対する指導をするために来たのだから……と言っていた。
 元とはいえAランク冒険者、鉱山の中に入るのは初めてだから、知識が深い人がいてくれるのはありがたい。
 助言はするけど手出しはしない……とエアラハールさんは言っていたけどね。
 本来俺達が受けた依頼なのだから、助言をしてくれるだけでも十分だ。
 そんな事を話しながら、訓練場に到着したので、エルサをユノに預けて俺やモニカさん達は昨日に引き続き訓練を開始した。


「せやぁ!」
「はいっ!」
「っ! おっと……!」

 モニカさん達二人に対して、俺一人での手合わせを開始してしばらく。
 何度かエアラハールさんによる指導や、小休憩を挟んで繰り返し二人からの攻撃を受け続ける。
 段々と二人はお互いの連携に慣れてきたようで、ほぼ同時に攻撃を繰り出すだけでなく、片方が攻撃して俺が避けた所にもう片方が追撃……という事も混ぜていた。
 避けづらいけど……こっちも二人の攻撃に慣れてきているから、始めの時よりは多少余裕が出てきたかな?

 今も、俺の左斜め上から袈裟斬りをするソフィーの木剣を避け、その先で待っていたモニカさんから槍で胴を払われるのに対し、体をしゃがませて避けたところだ。
 ただ、緊張と緩みの切り替えというのはまだあまりよくわからない。
 というより、二人からの連続攻撃で、緩んでいる余裕がないんだけどね……これ、本当に練習になるのかな?
 なんて考えが頭の片隅をよぎるけど、今はとにかくエアラハールさんを信じて訓練に集中しよう――。


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