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ちょっと息抜き

竜騎士ニヴェルス・エイルファイラスの追跡記2

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時は少し戻って

タケルとクレイがヴァノーネ地方アシュス村に赴いている頃…。





ベラキア大草原からドルト街道をひたすらに南下し、小さな村を幾つか過ぎた辺りで出てくる巨大な都市、ベルカイム。
アルツェリオ王国のあるグラン・リオ大陸では一番北のルセウヴァッハ領。巨大な城壁に囲まれた大きな街は正面を草原と森、背後を運河に栄え、冒険者が数多く集う商業都市として賑わっている。様々な人種が特に諍いもなく暮らしており、日常的に些細なトラブルはあるが至って平穏な街。

領主である若きルセウヴァッハ伯爵は公明正大な貴族として王都でも有名。ただ、野心溢れる者どもには鼻に付く存在でもあり、一部連中からは忌み嫌われている。田舎領主だと言われていたが、そんな陰口を叩くやつらはベルカイムを観てから言うべきだ。
立派な大門を見上げ、ニヴェルスはルセウヴァッハ伯爵の手腕に感心する。

「隊長、警備兵につなぎを取りました。こちらへどうぞ」
「ありがとう、トリロ」

ニヴェルスは副隊長に促されるまま入門待ちの長く連なる列を眺めながら、竜馬から降りた。
辺境偵察隊ではあるが立派な竜騎士ドラゴンナイト。手入れされた美しい甲冑に身を包んだ騎士一行は恐ろしく目立つ。勇ましい竜馬(りゅうば)は地方都市の住民には珍しく、誰もがニヴェルス達一行を凝視していた。

ニヴェルスが案内された先には警備隊の屯所があり、責任者であろう大柄な男が姿勢正しく直立。竜騎士の突然の訪問に緊張しているのだろう。額に汗をかいている。
上座に座るよう促され、ニヴェルスは頷いて簡素な木椅子に腰かけた。

「よぅっ、こそおいでくださいましぃタ!」

声が裏返りまくっている警備隊長はビシリと敬礼。

「わったくしは!ベルカイム第一警ビッ隊、タイッ、ちょうの!」
「そのように畏まらずとも良い。これはあくまでも非公式の訪問である。そなたらも楽にしろ」

副隊長のトリロ・リルディスが穏やかに微笑んだ。狭くはない部屋に居並んだ警備隊は戸惑いながらも少しだけ肩の力を抜く。

「こちらはアルツェリオ王国第十七騎士団第一竜騎士辺境偵察騎馬隊隊長ニヴェルス・エイルファイラス少尉であらせられる」

え?今なんて?
と、聞き返してしまいそうなほど長い肩書を違えることなく言うと、トリロは頭を少しだけ下げてニヴェルスの言葉を待った。
この都市の防御障壁として機能している魔道具(マジックアイテム)は特に普通のものらしい。トルミ村で見た異常なほどの結界が配備されているわけでもなく、これといって特に秀でた何かがあるようにも見受けられない。
しかし人の良さそうな村人は確かにこの街だと言っていた。温かく見送ってくれた彼らの言葉を疑いたくはない。
ニヴェルスは様子を窺いながら口を開いた。

「警備隊長、聞きたいのだが」
「はっ!」
「とある旅人について教えて欲しい」
「はっ!」
「そのものは背がとても高く、しかし巨人(タイタン)族ではなく、常に…眠たそうな顔で…もっさりしている、という」
「はあ」
「名をタケル、と申す旅人なのだ。貴殿は何か知っているか?」

美しい容姿をしていながらもニヴェルスの瞳は厳しい。
警備隊長は生唾を嚥下すると、部下に目配せ。居並ぶ警備兵の一人が恐る恐る手を挙げた。

「あのう、俺、いや、ワタクシ、知っております」

恰幅がよい男は自信なさそうに声を震わせ、深く頷いた。

「よい、そのまま続けろ」
「はい。ワタクシはレイドン・エナハシスと言います。大門の調査官をしております。ええと、そいつ…いや、その冒険者は確かにこのベルカイムに滞在しております」
「ほう。冒険者とな」

冒険者になる為ベルカイムを目指していたと聞いたが、無事に冒険者となったわけか。
ニヴェルスは口元をゆるめ、彼の存在が確かにこの街にあることに安堵する。

「そいつ、いや、タケルは確かにエウロパに所属してますが、今はいないですよ」
「何?」
「えーっと、なんだかわかりませんが、領主様の手伝いをするとかで栄誉の竜王と出かけて行きました」
「栄誉の竜王??ストルファス帝国の聖竜騎士サン・ドラゴンナイト殿がこの街におられるのか?!」

竜騎士達はまさかの名前を耳にし浮足立った。
西のエポルナ・ルト大陸を支配する大国ストルファス。軍事力に長けたかの国には名のある竜騎士が数多所属している。竜騎士を目指すものにとってあの帝国での過酷な訓練は憧れでもあり、また竜騎士専門の王立学院すら存在する。竜騎士の為の国と言っても過言ではない。
栄誉の竜王はその国で竜騎士最高位でもある聖竜騎士。武勲だけでは決して手に入れられない栄誉ある称号。

かくいうニヴェルスもストルファス帝国に数年留学していた身。その時にリザードマンで唯一聖竜騎士の位を頂いたという栄誉の竜王の噂を聞いたのだ。
何でも第一王位継承者の命を身をもって守ったという偉大なる御仁。志高いものは誰もが栄誉の竜王に憧れ、彼の後を追うために日々精進している。ニヴェルスにとっても栄誉の竜王は憧れの竜騎士。

「あ、ああ。クレイストンの旦那はタケルとチームを組んでいるからな。素材を集める会だっけか?」
「そりゃあタケルが名付けた間抜けな名前だろうが。蒼黒の団だよ」
「そうだそうだ、蒼黒の団」

警備隊員達は口々に言いあう。まるで彼の存在が誇りであるかのように。
しかし竜騎士達は耳を疑う。栄誉の竜王がチーム?

「すまない、栄誉の竜王は…もしや冒険者なのか?」
「ああそうさ。あの旦那もエウロパに所属しておりますぜ」

誇り高き竜騎士が、まさか冒険者などとは。
冒険者を馬鹿にしているわけではない。だが、国に仕え王に従う騎士が何故自由を愛する冒険者になったのか。

ともかくギルドで話を聞かなくてはならない。
ニヴェルスらは疑問を抱き部屋を後にしようとすると、先ほどの警備兵が遠慮がちに聞いてきた。

「あのう、竜騎士様たち」
「うん?なんだ」
「タケル、何かしたんですか?アイツは確かに変わったヤツですが、悪いことをするようなヤツじゃないですよ」

レイドンが口火を切ると、遠慮がちに話を聞いていた警備兵達が我先にと言い出した。

「そうですそうです!アイツはほんとに、ぬぼっとしていて何考えているかわかんねぇようなヤツなんですが、絶対に悪いことはしねぇです!」
「そうそうそう、むしろ素行の悪いヤツを黙らせてくれる、すげぇありがてぇヤツなんだ!」
「アイツのおかげでオーバン焼きが食えるようになったんですよ!」
「タケルが何をしたっていうんです?」

その勢いはすさまじいものだった。恐れ多いとさえされる竜騎士相手に必死になる様はトルミ村の住人と同じ。
他人のことなどどうでもいいと思っているものが多いこの世界で、ここまで他人に必死になるのは珍しい。それだけ慕われているということだろう。

「捕縛するために来たわけではない。落ち着いてくれ」
「ですが、王都からわざわざ竜騎士様がいらっしゃるなんて」

しかも、一介の冒険者に過ぎない男を訪ねるなど有り得ないこと。
事情を知らない警備隊員達は竜騎士が隊を率いて捕らえに来たとしか思えないだろう。ニヴェルスは必死になる彼らを懸命に宥め、それでも疑心を捨てない彼らに苦笑した。



警備隊の屯所から出たニヴェルス達は大門を出て中央通りを歩いた。
通り沿いにあるというギルドを目指すためだ。
目立つ竜騎士一行を遠巻きに眺める者が多い中、彼らは慣れたように姿勢正しく歩く。

「隊長、タケルなる男を追ってとんでもない情報を手に入れてしまいましたね」
「ああそうだな。まさか…栄誉の竜王殿がこの街に滞在なされているとは」

ストルファス帝国のどこかに滞在されていると思っていた。王子を命懸けで助けたさいに重傷を負ったという噂もあったのだが、ストルファス帝国内で養生しているものとばかり思っていたのだ。グラン・リオ・ドワーフの国でもあるヴォズラオでその姿が目撃されていたことは知っているが、同盟国であるアルツェリオ王国内で冒険者になっているなどと、誰も想像もしなかった。

「私もずっとずっと憧れていたのです」
「竜騎士であれば誰もが憧れる存在であるだろう」
「栄誉の竜王のおかげで屈強なリザードマンが竜騎士を目指すようになりましたよね」
「俺も~栄誉の竜王は格好いいと思うんだ~」

のんびりとした話し方をする鑑定士テユリア・ナンツは、グラン・リオ・ドワーフの王国ヴォズラオで観た巨大な石像を思い浮かべる。

「見た目は怖いけどね~」
「滅多なことを申すな、ナンツ二等軍曹」

無論、ヴォズラオの石像は本人を誇張したものだということは理解している。荒れ狂うドラゴンのような聖竜騎士が居てたまるかと思う反面、格好よいなとも思っていた。
竜騎士の憧れでもある栄誉の竜王と妙な人望があるタケル。この二人が何故かチームを組んで行動を共にしている。

ともあれギルドで情報を集めるべきだ。
広い大通りには様々な種族が日常を営んでいる。誰もが珍しい竜騎士に注目するが、囲んで騒ぐほどのことではない。皆関わり合いになりたくないのだろう。誰もが誰かを捕縛しにきたのだろうと思い、心当たりのある者たちはそそくさと逃げるようにその場を去って行った。

「隊長、あそこがギルドのようです」

通りに面した木造の三階建ての建物。看板にエウロパと記載されたそこには、入口に冒険者らしきものたちが集っていた。丁度依頼クエスト受注の時間帯なのか、随分と賑わいを見せている。王都のギルドよりも騒がしいようだ。

「おい、竜騎士だぜ!」
「ほんとうだ。何しにベルカイムまで来たんだ?」
「ケッ、ピンピカの鎧なんか着やがって」

素行の悪い冒険者たちはニヴェルスらの姿を見ると口々に囃し立てる。竜騎士は庶民にとって憧れの対象ではあるが、同時に嫌悪もされていた。特に下位冒険者からは嫌われている。

生まれも育ちも恵まれた者にしか門戸を開かない騎士。しかも王都を守る気高い竜騎士ともなれば、貴族か貴族の親類縁者にしかなることが許されていない。アルツェリオ王国はストルファス帝国に比べまだまだ遅れているとも言える。ストルファスで竜騎士になるには狭き門ではあるが、あの国では生まれも身分も種族さえも問わず、才能あるものを広く受け入れている。

金さえあれば誰でも竜騎士になれるのではと勘違いされているのだ。中には金にものを言わせて竜騎士になる貴族の末端もいるため、一概に勘違いとも言えないのが辛いところ。おまけに権力を笠に着て傲慢なふるまいをするものさえいる。しかし竜騎士が揃いも揃って愚かなわけではない。

高潔であれ。悪に染まるな。

栄誉の竜王が口癖のように言っていたというその言葉を胸に秘め、正しくありたいと願う竜騎士だってたくさん居るのだ。

「おうおう、テメェらなに絡んでやがんだ!ほれ、散れ、散れ、むさくるしい!」
「ウェイドさん、そりゃないっすよ~」
「申し訳ありません、竜騎士の方々。私はギルドエウロパ事務主任のウェイド・ベルアと申します」

混み合った受付に姿を現したのは、熊獣人。
真っ黒の毛皮を纏う彼はいかにも腕に覚えがありそうな風貌。

「アリアンナ、何をぼさっとしてやがる。早く応接室の準備をしろ」
「ほぁ?…あっ、はい!は、ただいま!」

竜騎士一行をぼんやりと眺めていたウサギ獣人がまさしく飛ぶように跳ねた。

「連絡は受けておりませんのでギルドマスターは不在でございますが」
「構わぬ。我らも非公式で訪れた身。突然の訪問、許してもらいたい」
「これはこれはご丁寧に。狭いところですが、ささ、こちらへ」

ウェイドは愛想よく微笑み、ニヴェルスらを案内した。
地方都市のギルドだから対応も乱雑になるのではと予想していた竜騎士たちは、思いのほか礼儀正しい対応を受けて驚く。
通された応接室はさして広くはないが、巨人(タイタン)族専用の巨大な椅子も用意されている。辺境偵察隊の全員が入っても窮屈では無かった。

「領主様に御一行の訪問を告げさせていただきますが、宜しいでしょうか」
「頼む。ルセウヴァッハ卿にも挨拶をさせていただきたいと思っていたところだ」
「おう、ミュゼリ、テメェもぼんやりしてんじゃねぇよ。ちょっとひとっ走りして貴族街の警備に伝えて来い」
「ぴゃいっ!」

人数分のお茶を用意したネズミ獣人に発破をかけると同時に、キツネ獣人が部屋に入って来た。
このギルドは獣人の雇用率が高いようだ。

「はじめまして、高潔なる竜騎士の方々。私はエウロパの受付主任、グリット・サーヴェラスと申します」

品の良さそうな喋り方で恭しく頭を下げたキツネ獣人は、熊獣人ウェイドの隣に腰掛ける。
ギルドマスターの不在時に対応するのがこの二人なのだろう。
ニヴェルスは暖かな茶色いお茶らしきものを一口飲み、恐ろしくその苦い味に眉を顰めた。吐きだしたい気持ちをひたすら堪え、素知らぬ顔で口を開いた。

「さて、警備隊員からの情報によると冒険者をお探しのようで」

流石ギルド。情報が早い。ウェイドは顔を顰め、竜騎士達を睨みつける。
数名とはいえ立派な小隊を組んだ竜騎士が訪れたのだ。どんな理由であれ警戒しないものなどいないだろう。
ニヴェルスは頷くと、

「警備のものたちにも言ったが、勘違いをしないでもらいたい。我らはそのものを捕縛しに来たわけではない。容疑をかけられているわけでも、ましてや捕縛命令を受けているわけでもない」

強い口調で言い放つ。
ウェイドとグリットは顔を見合わせ、肩の力をがくりと抜いた。

「はあああ~~~、なんだ、アイツを捕らえに来たわけじゃねぇのか」
「だから言ったでしょうウェイド、貴方はもっとタケルを信用しなさい」
「いや信用はしているさ!しているけどよ、なんか知らないところでとんでもねぇことをやらかしそうじゃねぇか、あのやろう」
「それはわかります。ええ、妙なことに首を突っ込みますからね、彼は」

長椅子にもたれ掛かるようにして安堵する二人に、ニヴェルスは微笑む。竜騎士が地方都市を訪れることは稀。しかも一人の冒険者を指名したのだから警戒するのは当然だろう。
それにしてもギルド職員すらこの反応。大勢の中の一人に過ぎない冒険者相手に一喜一憂するなどと。

「それで、何故タケルを探しているんです?」

すっかり安堵したウェイドは崩した口調のまま気楽に問うた。

「逢ってみたいのだ」
「はい?」
「私がただ逢ってみたいだけなのだ。その冒険者に」

予想だにしなかったニヴェルスの返答にウェイドとグリットは呆気にとられた。
彼らとしてはタケルの素材採取の腕を見込み、王都に引き抜いてしまうのでは、とまで考えたのだ。

竜騎士ドラゴンナイトさん、タケルと面識がおありで?」
「いいや。彼の人となりは…多少。彼はずいぶんと慕われているようだ」
「慕われている…ってぇか、なんだろうな。アイツはとにかく変わっているんですよ」

トルミ村の住人も声を揃えて言っていた。変わっているのだと。
生い立ちは謎。ある日ふらりとギルドを訪れた旅人。愛想のよい笑顔に丁寧な挨拶。高等教育を受けたような話し方で誰にでも優しく接する様は、とても最低ランクの冒険者とは思えない。

「待ってくれ。その、タケルなる男はランクF、の冒険者なのか?」

ニヴェルス達は驚きを隠せない。
タケルがベルカイムを訪れて既に二月(ふたつき)以上が経過している。あの恐ろしいほどの結界魔道具を作り出した男が、未だに最低ランクの冒険者であるなどと信じられない。彼ほどの才能と魔力があれば数日もせずに上位ランクを目指せるはずなのだ。それこそ、Aランクだと言われても納得してしまうほど。

「そうなんです!わたくしたちは再三ランクアップ試験を受けなさいと要請しているのにも関わらず、彼は地味依頼…薬草や野草の採取が出来なくなる等と言ってランクFに甘んじているのです」

騎士達は互いに顔を見合わせた。
我ら―――隊長が探していた男が、最低ランクの冒険者。
あのとてつもない魔力を発揮した魔道具の製作者が、ランクF。

「なあ、騎士様たち、タケルに逢いに来たというのなら、アイツにランクアップしろって言ってくださいませんかい?ギルドマスターの威圧すらケロッとかわすアイツに俺らが何を言っても聞いちゃくれねぇんですよ」
「タケルさんにもっともっと活躍してもらえれば、エウロパの人気も上昇します!今よりも冒険者が多く集うようになれば、ベルカイムの活性化にも繋がります!」

目の色を変えたエウロパ職員に詰め寄られ、流石のニヴェルスも怯んだ。
冒険者ギルドでは花形冒険者というものをあえて作り、新規加入者を呼び込むのだとか。花形冒険者が活躍すればするほど、その所属先のギルドは賑わう。
この街にはすでに栄誉の竜王という竜騎士すら憧れる存在がいるのだから、もういいじゃないかと思うのだが、現状に甘んじていてはいつ何時他のギルドに足をすくわれるかわからない。

と、熱く語られ四半時。



ギルドを後にした辺境偵察隊の面々は、酒場で情報を纏めることにした。

タケルは最低ランク冒険者である。

人々の人望が厚い。

人並み以上の正義感がある。

教養がある。

相当な魔力と魔道具生成の技術に長けている。

外面が良い悪党かと警戒もしたが、どうにも違うようだ。これから領主に面談して街の様子なども伺わなくてはならないが、彼がこの街に滞在するようになってから治安が乱れるどころか、目立った動きをする悪党はいつのまにか鳴りを潜めるようになった。
警備隊の報告によると、絡んできたものの額を指で弾いただけで吹っ飛んでいったとかなんとか。それは流石に誇張しすぎた話ではあるが、きっと全てが虚言ではないのだろう。

「隊長、我々が探している冒険者、タケルなる男は想像以上の男なのかもしれませぬな」
「優秀な魔法使いだと思っていたのですが、採取家と」
「なんでランクFに甘んじているんだ。馬鹿なのか?ギルドがランクアップを強く望むって滅多なことじゃないのに。豊かな生活が送りたくないのか?」

冒険者はこの世で一番多い職業であり、国の経済を支えている存在。
それこそ掃いて捨てるほどいる。日々誰かが冒険者になり、誰かが死んでいる。消耗品とも揶揄されることもあるそんな冒険者の中でも、ギルドが推す冒険者は各ギルドに数人のみ。

「ふふ、変わった男だな」

逢って聞いてみたい。
とてつもな威力を発揮する魔道具(マジックアイテム)のことを。
何処からやって来て、何処へ行こうとするのか。
気高い志を持つ聖竜騎士(サン・ドラゴンナイト)を仲間にした理由を。


ニヴェルス・エイルファイラスは密かに誓った。
タケルに逢って話をするまで王都の邸宅に戻らないと。
隊の仲間には迷惑をかけてしまうが、彼らの顔つきを見る限り彼らもまた、タケルに興味を持っているようだ。鑑定士のテユリア・ナンツはそれが特に顕著である。複雑かつ強力な魔道具(マジックアイテム)を作り出したその腕を直接見たくてたまらないようだ。

夢物語に出てくるような人物であるが、確かに実在する。



夢を追うような心持で、彼らは一人の冒険者を追うのだった。







「…王都の竜騎士(ドラゴンナイト)に目を付けられるとはなぁ」
「杞憂では終わりそうにありませんね。どうします?ギルドマスターに報告しますか?」
「ああ。だが報告したところで、マスターもタケルの存在を隠したがると思うぜ。アイツはこの街に必要な男だ。例え冒険者でなくてもな」
「それではタケルには内密に」
「竜騎士(ドラゴンナイト)が訪れたことは耳にするだろうよ。アイツらがタケルを探していた、ってぇのは黙っておけ」
「わかりました。エウロパ全職員と警備隊員に根回しをしておきます」
「頼む。あとは領主だが」
「大丈夫です。ルセウヴァッハ卿もむざむざと有能な冒険者を王都にやることはお考えでないでしょう」
「よっしゃ。それじゃあ王都に繋ぎを飛ばせ。辺境偵察隊のお坊ちゃまらが街に長期滞在されると困るってな」
「追い出すようで心苦しいですけどね」


そうしてニヴェルスの存在は秘密裏に処理された。

全ては有能な冒険者を取られない為。
竜騎士(ドラゴンナイト)は有能な冒険者を見つけては好条件で王都に引き抜いてしまう。

冗談ではない。
取られてたまるか。



ギルドエウロパの職員とベルカイム警備隊衛兵一同、強く思うのだ。

あの飄々とした眠たそうな男は、この街に必要なのだと。

平和と平穏と


日々の笑いを失いたくはないのだから。






+++++++++++

長すぎました。ごめんなさい。
前後編にするとぐだぐだになるので、一気にお届けしました。
わっほい8600文字ィィ

次回からは第4章をお届け致します。

タケルの珍
ふしぎな旅行記をどうぞ。

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