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5章 イズナバール迷宮編
194話 冬が過ぎ
「……多芸だな」
ヌソッとばかりに屋台の前に現れたジェリクさんに開口一番そう言われた。
「あいにくと、一芸に秀でた物がありませんのでね」
「ヘイらっしゃい! ウチのジン特製のお菓子はいかがかな!?」
そんな屋台の前では揉み手に猫背で呼び込みをするウチの若さんの姿が……動きが無駄に洗練されてるな。
「……なあ、コイツはどこぞの御曹司ではないのか?」
おいおいジェリクさん、御曹司と言っときながらコイツ呼ばわりするなよ。
「ウチの若さんは「職業に貴賎は無い」じゃなくて「面白い事に貴賎は無い」の人でね、とりあえず楽しけりゃ何でも全力疾走なんだよ」
「なるほど」
実際、愉快犯の暇神だからな、コイツときたら。
俺は蒸籠のフタを開け、周囲に溢れる蒸気をかきながら中の物体を取り出す。
直径20センチほど、お椀をひっくり返したような形状のそれは、表面から湯気を立たせながら姿を現す。
──そう、あんまんだ。
酒まんじゅう? それならさっき全部リオンに食われたわ! しかも、
「ジンの嘘吐き! 香りはお酒っぽいのに全然お酒の味がしないじゃありませんか!?」
「うるせえ、ありゃあ作る時に発酵させる”例え”で酒って言ってんだよ!」
何だかんだと言いながら結局、出来立ての酒まんじゅうを蒸籠ごとリオンに持って行かれてしまった。
リオンのヤツ、女性の身体でいるせいか、酒どころか甘味にまで食いつきやがって、最近は色々と圧がスゴイ。まったく、迫り来るのは胸と尻と酔って艶っぽくなったご尊顔だけにして欲しい……ほとんど全部か。
ちなみに酒まんじゅうはこしあんであんまんは粒あん。ついでに言えば、さっきから俺の後ろで甘く香ばしい香りをさせているのがマドレーヌだ。
うん、気付かないうちに和・洋・中、揃ってた。
俺はあんまんをジェリクの前に差し出すと、
「1つ銀貨3枚、いかがです?」
「銀貨3枚!? いくらなんでも高すぎるだろう?」
ジェリクは目を剥いて声を上げる。
まあ安い定食屋なら銀貨1枚で腹が充分満たされる、それと比べれば高価なのはわかるが、これでも貴重な甘味をふんだんに使用した商品なんだから、探索者として迷宮から仕入れる側にもなるアンタが驚くことは無いだろう?
「これでも迷宮産の甘葛煎やメープルシロップを使った高級菓子ですぜ? その証拠に、春先のまだ肌寒いこの時期、今から町を出ようって商人や護衛の冒険者はまとめ買いしてくれますよ」
なんだかんだでこの町に来てそろそろ1ヶ月、3月初頭と暦の上では春になるが未だに周りは雪が残っている。
そんな事も相まって、出来立てホカホカのあんまんと酒まんじゅうは町を出る連中にとても人気がある。熱々の甘い菓子は珍しいとのことだ。
それなら汁粉やぜんざいでもイケるかと思ったのだが、食器の問題があるので諦めた。
パンケーキ? 知らんな、あれは温かい食べ物だ。
ちなみにマドレーヌはやはり女性に人気だ。ラフィニアもそうだが思いの外キャサリンがマドレーヌに喰い付き、非番や休憩の合間に買いに来る。
……話が逸れたな、つまり、今のところ屋台は順調という事だ。
「それに」
「それに?」
俺の言葉にジェリクは首を傾げる。俺は言葉を続ける。
「交渉相手の機嫌はなるべく取っておくもんですぜ?」
「……スマンな、この通り駆け引きも説得も苦手でね」
肩をすくめながら懐から銀貨を取り出すジェリク。若さんはそれを大事そうに受け取ると、洗った大きな甘葛の葉で包んだあんまんをジェリクに差し出す。
「ハイ、お買い上げありがとうございます♪」
「あ、ああ、ありがとう」
0円スマイルの若さんからあんまんを受け取ったジェリクはそれにかぶり付くと、交渉相手であるはずの俺、いや俺達をほったらかしにしてあんまんをパクつく。
まあなんだジェリク、搦め手の出来なそうなおっさんだよアンタは。
少なくとも俺の元にジェリクをよこしたヤツは有能だろう、ルフトかな? くだらん駆け引きよりも正面からぶつかってくる方が上手く話が進むと踏んだのだから。
ジェリクがあんまんを食べ終わるのを屋台を回しながら待っていた俺達だが、
「重ね重ねスマンな、つい食べるのに夢中になってしまった」
「いえいえ、最高の評価ですよ。好感度アップですぜ、ジェリクさん」
「で、話ってなに、ジェリクおじさ──んっ!!」
ゴスン──
「だから毎度の事ながら一言余計ですぜ、若さん。スミマセンね、この通りまだ子供で」
「いや、実際おじさんと呼ばれてもおかしくない年なので問題は無いが……それにしても変わった主従関係だな」
「まあ、このくらいのチビの頃から知り合いですんでね、今さらですよ」
そう言って俺は両手を使って縦に50センチくらいの空間を作り、ジェリクに見せる。
どっちが50センチの頃だったのかは、あえて言うつもりはない。
「で、話ってのはこんな所でしても構わない話で?」
「ああ、別に構わんさ、隠すようなことでも無いしな」
「ほう……?」
「近々この町に、周辺国家から迷宮攻略を目的とした精鋭部隊が送られてくる」
おやまあ、それはそれは。
「それはまた唐突ですね、迷宮と周辺土地の領有権問題は解決したんですか?」
「いや、むしろそれ込みでの攻略部隊らしい」
ジェリクが語ってくれた話によれば、エステラ大陸と呼ばれる東方大陸の南西部に位置するバスカロン連山、そして古代迷宮を含むイズナバール湖周辺地帯の領有権を主張しているのは彼の地を中心に、北のシュゲン、東のライゼン、南のドウマ、西のモロク、の4カ国だそうだ。
そもそもの原因はここの探索者連中が30層を突破したことが発端らしく、今までだらだらと迷宮攻略していた連中が、どうした事か最近になって30層を超えた、しかも氏素性の知れぬ、しかし相当な実力者がイズナバール迷宮に出入りしているとの報告を聞いた各国は、一向に出口の見えない領土問題を解決するため強硬手段に打って出た。
「──要するに、迷宮の最深部を最初に踏破、それを成した探索者を要する国家がここイズナバール周辺地域の持ち主であるとな」
まあ血生臭くも平和的な戦争だな、障害物競争の勝者には土地一帯がプレゼントされます! ──と言う訳だ。
「しかし解せませんね、それなら最初からそうすればいい話なのに」
「まあ、それにも理由があってな──最深部に眠る”秘宝”ってヤツさ」
秘宝──古代迷宮の最深部に待ち構えている迷宮最強の守護者を打ち倒した果てに手に入れることの出来る神秘のアイテム。
何が手に入るかはその時によって違い、魔剣であった事もあれば鎧だった事もある、秘薬の類や、果ては超が幾つも付く貴重な素材だった事もあるらしい。
──余談ではあるが、帝国の猛将アラルコンが身に着けていた3武具は、帝国が管理している古代迷宮から持ち帰られたものである──
この秘宝だが、基本的には最深部を攻略した探索者に所有権はあるのだが、古代迷宮を単独のパーティで攻略など出来ようはずも無く、管理している国家のバックアップがあってこその迷宮攻略であるとして、秘宝は国に献上するのが慣例となっている。もちろん、莫大な報酬と引き換えにだ。
だからこそ、どの国の支援も受けられないイズナバール迷宮では迷宮の下層へ行くのは難しいと、高ランクの冒険者や探索者は他大陸の古代迷宮に、国家の支援を受けながら下層へ赴き、危険とそれに見合った報酬を手にしている。
要するに、高ランクのヤツ等にとってここは、危険と見返りのバランスが取れていない”割に合わない”迷宮という事だ。
だから周辺国家も、先ずは領有権を確たるものにしてから本格的な迷宮攻略を、その為この地には情報収集の為の人員のみを送っていたのだが、ここに来て状況に大きく変化が現れた。
それが、コミュニティ「韋駄天」の支援によって可能となった下層への道、そして俺達というイレギュラーのせいで、迷宮攻略の可能性が見えてきた。
ケツに火の着いた連中が下した決断は、4国が各々用意した探索者による古代迷宮の攻略、そして秘宝の争奪戦らしい。
全ては勝った国の総取り、まあ元々棚からぼたもち的な存在だから手に入るのならラッキー、そうならなくても損は無い、と言う事で決まったらしいのだが……。
アホか! んな訳あってたまるか!!
古代迷宮と土地を手に入れた国が将来、周辺国に対して圧倒的に強い立場になるに決まってるじゃねえか。
……ったく誰だ、各国を上手いこと唆しやがったヤツは?
「正直に言えば、あの「森羅万象」は知らんが、俺の所を含めて4つのコミュニティはそれぞれ4カ国の支援を密かに受けている。というか創設者が各国から派遣されたパーティらしくてな」
「……で、まさか俺達にコミュニティに入れ、そういうお話で?」
「まさか! そんな恐ろしい──イヤすまん、今のは聞かなかった事にしてくれ……ただ、これからは迷宮攻略は前だけじゃなく、後ろにも気をつけないといけないかもしれん。つまりだな、その──」
ジェリクが頭を掻きながら必死に言葉を捻り出そうとしている。
「ええい! とにかく、俺達のコミュニティ「異種混合」はお前達と事を荒立てる事もその気も無い。だから──」
「俺達と関わるな?」
「違う!」
「判ってますよ、取り込む様な真似はしないから、今まで通り付かず離れず、良好な関係でいてくれって事ですね?」
宥めるように俺が話すと、慌てたジェリクも次第に落ち着きを取り戻す。
それにしても、このおっさんの中で俺達は一体どんな扱いになっているのか……?
「とにかく、ウチの意向は伝えた。コミュニティの連中もそれで納得してるし、仮にお前達が他所に取り込まれる事になっても、お前達とは個人的に仲良くやって行きたい」
「ありがたい話ですね。リオンにもよく言っておきますよ」
「ああ、それじゃな──」
そう言ってジェリクは屋台を離れて行った。マリーダさんへのお土産にマドレーヌをサービスで持たせると、ぎこちない笑顔を浮かべていたな。
……それにしてもライゼンか、イズナバールに続きまた懐かしい名前を。
「で、ジンはどうするつもりなの?」
「態々聞くような事ですかい、若さん? 他の3つがリオンに持ちかけたのは、結構な額の報酬とお抱え冒険者の地位、対してジェリク、いやルフトの所は中立宣言。天秤にかける必要も無い話ですぜ」
すでに俺達の、正確にはリオンの元に「異種混合」以外の3つのコミュニティから迷宮攻略に協力して欲しいとの打診は来ていた。内容は予想を欠片も超えない物だったが。
そして今日、これで4カ国の紐付きコミュニティから話が来たわけだが……。
「そうだよねえ……リオンに話を持ちかける時点で3つはアウト、このパーティがどういう集まりかを把握出来ていない証だものね」
「……リーダーは若さんですぜ?」
「動かしてるのはジンでしょ? それを理解できたのはあのおじさんの所だけって事さ」
やだなあ、俺は裏方さんでいたいのに。
とりあえず、4カ国の思惑は知らんしどうでもいい、裏で絵図を描いたヤツも関係ない。
俺にとって重要なのは、最深部にあるであろう神酒、アレだけなのだから。
「それにしてもジン、師匠の命令とはいえ迷宮を踏破してお宝を取って来いなんて言いつけ、よく素直に聞いてるね?」
唐突にルディがイヤな質問をぶつけてきやがった。
「……前のお使いを果たせなかったんでな」
全く、気分が滅入る。
「お使い?」
「ああ……ヴリトラを倒して来いってな」
「……討伐したよね?」
「打倒した訳じゃ無いんでな、殺してくれって嘆いてるヤツに介錯してやっただけさ」
アレでお使い成功なんざ、口が裂けても言えねえ。特にヴァルナの前では。
「頑固だねえ、我が相方は」
「男のこだわりと美学と言いたまえよ、相方なら」
「キミがオッパイ以外にこだわりを持ってるとは知らなかったよ」
馬鹿野郎、それは生き様だ──!!
ヌソッとばかりに屋台の前に現れたジェリクさんに開口一番そう言われた。
「あいにくと、一芸に秀でた物がありませんのでね」
「ヘイらっしゃい! ウチのジン特製のお菓子はいかがかな!?」
そんな屋台の前では揉み手に猫背で呼び込みをするウチの若さんの姿が……動きが無駄に洗練されてるな。
「……なあ、コイツはどこぞの御曹司ではないのか?」
おいおいジェリクさん、御曹司と言っときながらコイツ呼ばわりするなよ。
「ウチの若さんは「職業に貴賎は無い」じゃなくて「面白い事に貴賎は無い」の人でね、とりあえず楽しけりゃ何でも全力疾走なんだよ」
「なるほど」
実際、愉快犯の暇神だからな、コイツときたら。
俺は蒸籠のフタを開け、周囲に溢れる蒸気をかきながら中の物体を取り出す。
直径20センチほど、お椀をひっくり返したような形状のそれは、表面から湯気を立たせながら姿を現す。
──そう、あんまんだ。
酒まんじゅう? それならさっき全部リオンに食われたわ! しかも、
「ジンの嘘吐き! 香りはお酒っぽいのに全然お酒の味がしないじゃありませんか!?」
「うるせえ、ありゃあ作る時に発酵させる”例え”で酒って言ってんだよ!」
何だかんだと言いながら結局、出来立ての酒まんじゅうを蒸籠ごとリオンに持って行かれてしまった。
リオンのヤツ、女性の身体でいるせいか、酒どころか甘味にまで食いつきやがって、最近は色々と圧がスゴイ。まったく、迫り来るのは胸と尻と酔って艶っぽくなったご尊顔だけにして欲しい……ほとんど全部か。
ちなみに酒まんじゅうはこしあんであんまんは粒あん。ついでに言えば、さっきから俺の後ろで甘く香ばしい香りをさせているのがマドレーヌだ。
うん、気付かないうちに和・洋・中、揃ってた。
俺はあんまんをジェリクの前に差し出すと、
「1つ銀貨3枚、いかがです?」
「銀貨3枚!? いくらなんでも高すぎるだろう?」
ジェリクは目を剥いて声を上げる。
まあ安い定食屋なら銀貨1枚で腹が充分満たされる、それと比べれば高価なのはわかるが、これでも貴重な甘味をふんだんに使用した商品なんだから、探索者として迷宮から仕入れる側にもなるアンタが驚くことは無いだろう?
「これでも迷宮産の甘葛煎やメープルシロップを使った高級菓子ですぜ? その証拠に、春先のまだ肌寒いこの時期、今から町を出ようって商人や護衛の冒険者はまとめ買いしてくれますよ」
なんだかんだでこの町に来てそろそろ1ヶ月、3月初頭と暦の上では春になるが未だに周りは雪が残っている。
そんな事も相まって、出来立てホカホカのあんまんと酒まんじゅうは町を出る連中にとても人気がある。熱々の甘い菓子は珍しいとのことだ。
それなら汁粉やぜんざいでもイケるかと思ったのだが、食器の問題があるので諦めた。
パンケーキ? 知らんな、あれは温かい食べ物だ。
ちなみにマドレーヌはやはり女性に人気だ。ラフィニアもそうだが思いの外キャサリンがマドレーヌに喰い付き、非番や休憩の合間に買いに来る。
……話が逸れたな、つまり、今のところ屋台は順調という事だ。
「それに」
「それに?」
俺の言葉にジェリクは首を傾げる。俺は言葉を続ける。
「交渉相手の機嫌はなるべく取っておくもんですぜ?」
「……スマンな、この通り駆け引きも説得も苦手でね」
肩をすくめながら懐から銀貨を取り出すジェリク。若さんはそれを大事そうに受け取ると、洗った大きな甘葛の葉で包んだあんまんをジェリクに差し出す。
「ハイ、お買い上げありがとうございます♪」
「あ、ああ、ありがとう」
0円スマイルの若さんからあんまんを受け取ったジェリクはそれにかぶり付くと、交渉相手であるはずの俺、いや俺達をほったらかしにしてあんまんをパクつく。
まあなんだジェリク、搦め手の出来なそうなおっさんだよアンタは。
少なくとも俺の元にジェリクをよこしたヤツは有能だろう、ルフトかな? くだらん駆け引きよりも正面からぶつかってくる方が上手く話が進むと踏んだのだから。
ジェリクがあんまんを食べ終わるのを屋台を回しながら待っていた俺達だが、
「重ね重ねスマンな、つい食べるのに夢中になってしまった」
「いえいえ、最高の評価ですよ。好感度アップですぜ、ジェリクさん」
「で、話ってなに、ジェリクおじさ──んっ!!」
ゴスン──
「だから毎度の事ながら一言余計ですぜ、若さん。スミマセンね、この通りまだ子供で」
「いや、実際おじさんと呼ばれてもおかしくない年なので問題は無いが……それにしても変わった主従関係だな」
「まあ、このくらいのチビの頃から知り合いですんでね、今さらですよ」
そう言って俺は両手を使って縦に50センチくらいの空間を作り、ジェリクに見せる。
どっちが50センチの頃だったのかは、あえて言うつもりはない。
「で、話ってのはこんな所でしても構わない話で?」
「ああ、別に構わんさ、隠すようなことでも無いしな」
「ほう……?」
「近々この町に、周辺国家から迷宮攻略を目的とした精鋭部隊が送られてくる」
おやまあ、それはそれは。
「それはまた唐突ですね、迷宮と周辺土地の領有権問題は解決したんですか?」
「いや、むしろそれ込みでの攻略部隊らしい」
ジェリクが語ってくれた話によれば、エステラ大陸と呼ばれる東方大陸の南西部に位置するバスカロン連山、そして古代迷宮を含むイズナバール湖周辺地帯の領有権を主張しているのは彼の地を中心に、北のシュゲン、東のライゼン、南のドウマ、西のモロク、の4カ国だそうだ。
そもそもの原因はここの探索者連中が30層を突破したことが発端らしく、今までだらだらと迷宮攻略していた連中が、どうした事か最近になって30層を超えた、しかも氏素性の知れぬ、しかし相当な実力者がイズナバール迷宮に出入りしているとの報告を聞いた各国は、一向に出口の見えない領土問題を解決するため強硬手段に打って出た。
「──要するに、迷宮の最深部を最初に踏破、それを成した探索者を要する国家がここイズナバール周辺地域の持ち主であるとな」
まあ血生臭くも平和的な戦争だな、障害物競争の勝者には土地一帯がプレゼントされます! ──と言う訳だ。
「しかし解せませんね、それなら最初からそうすればいい話なのに」
「まあ、それにも理由があってな──最深部に眠る”秘宝”ってヤツさ」
秘宝──古代迷宮の最深部に待ち構えている迷宮最強の守護者を打ち倒した果てに手に入れることの出来る神秘のアイテム。
何が手に入るかはその時によって違い、魔剣であった事もあれば鎧だった事もある、秘薬の類や、果ては超が幾つも付く貴重な素材だった事もあるらしい。
──余談ではあるが、帝国の猛将アラルコンが身に着けていた3武具は、帝国が管理している古代迷宮から持ち帰られたものである──
この秘宝だが、基本的には最深部を攻略した探索者に所有権はあるのだが、古代迷宮を単独のパーティで攻略など出来ようはずも無く、管理している国家のバックアップがあってこその迷宮攻略であるとして、秘宝は国に献上するのが慣例となっている。もちろん、莫大な報酬と引き換えにだ。
だからこそ、どの国の支援も受けられないイズナバール迷宮では迷宮の下層へ行くのは難しいと、高ランクの冒険者や探索者は他大陸の古代迷宮に、国家の支援を受けながら下層へ赴き、危険とそれに見合った報酬を手にしている。
要するに、高ランクのヤツ等にとってここは、危険と見返りのバランスが取れていない”割に合わない”迷宮という事だ。
だから周辺国家も、先ずは領有権を確たるものにしてから本格的な迷宮攻略を、その為この地には情報収集の為の人員のみを送っていたのだが、ここに来て状況に大きく変化が現れた。
それが、コミュニティ「韋駄天」の支援によって可能となった下層への道、そして俺達というイレギュラーのせいで、迷宮攻略の可能性が見えてきた。
ケツに火の着いた連中が下した決断は、4国が各々用意した探索者による古代迷宮の攻略、そして秘宝の争奪戦らしい。
全ては勝った国の総取り、まあ元々棚からぼたもち的な存在だから手に入るのならラッキー、そうならなくても損は無い、と言う事で決まったらしいのだが……。
アホか! んな訳あってたまるか!!
古代迷宮と土地を手に入れた国が将来、周辺国に対して圧倒的に強い立場になるに決まってるじゃねえか。
……ったく誰だ、各国を上手いこと唆しやがったヤツは?
「正直に言えば、あの「森羅万象」は知らんが、俺の所を含めて4つのコミュニティはそれぞれ4カ国の支援を密かに受けている。というか創設者が各国から派遣されたパーティらしくてな」
「……で、まさか俺達にコミュニティに入れ、そういうお話で?」
「まさか! そんな恐ろしい──イヤすまん、今のは聞かなかった事にしてくれ……ただ、これからは迷宮攻略は前だけじゃなく、後ろにも気をつけないといけないかもしれん。つまりだな、その──」
ジェリクが頭を掻きながら必死に言葉を捻り出そうとしている。
「ええい! とにかく、俺達のコミュニティ「異種混合」はお前達と事を荒立てる事もその気も無い。だから──」
「俺達と関わるな?」
「違う!」
「判ってますよ、取り込む様な真似はしないから、今まで通り付かず離れず、良好な関係でいてくれって事ですね?」
宥めるように俺が話すと、慌てたジェリクも次第に落ち着きを取り戻す。
それにしても、このおっさんの中で俺達は一体どんな扱いになっているのか……?
「とにかく、ウチの意向は伝えた。コミュニティの連中もそれで納得してるし、仮にお前達が他所に取り込まれる事になっても、お前達とは個人的に仲良くやって行きたい」
「ありがたい話ですね。リオンにもよく言っておきますよ」
「ああ、それじゃな──」
そう言ってジェリクは屋台を離れて行った。マリーダさんへのお土産にマドレーヌをサービスで持たせると、ぎこちない笑顔を浮かべていたな。
……それにしてもライゼンか、イズナバールに続きまた懐かしい名前を。
「で、ジンはどうするつもりなの?」
「態々聞くような事ですかい、若さん? 他の3つがリオンに持ちかけたのは、結構な額の報酬とお抱え冒険者の地位、対してジェリク、いやルフトの所は中立宣言。天秤にかける必要も無い話ですぜ」
すでに俺達の、正確にはリオンの元に「異種混合」以外の3つのコミュニティから迷宮攻略に協力して欲しいとの打診は来ていた。内容は予想を欠片も超えない物だったが。
そして今日、これで4カ国の紐付きコミュニティから話が来たわけだが……。
「そうだよねえ……リオンに話を持ちかける時点で3つはアウト、このパーティがどういう集まりかを把握出来ていない証だものね」
「……リーダーは若さんですぜ?」
「動かしてるのはジンでしょ? それを理解できたのはあのおじさんの所だけって事さ」
やだなあ、俺は裏方さんでいたいのに。
とりあえず、4カ国の思惑は知らんしどうでもいい、裏で絵図を描いたヤツも関係ない。
俺にとって重要なのは、最深部にあるであろう神酒、アレだけなのだから。
「それにしてもジン、師匠の命令とはいえ迷宮を踏破してお宝を取って来いなんて言いつけ、よく素直に聞いてるね?」
唐突にルディがイヤな質問をぶつけてきやがった。
「……前のお使いを果たせなかったんでな」
全く、気分が滅入る。
「お使い?」
「ああ……ヴリトラを倒して来いってな」
「……討伐したよね?」
「打倒した訳じゃ無いんでな、殺してくれって嘆いてるヤツに介錯してやっただけさ」
アレでお使い成功なんざ、口が裂けても言えねえ。特にヴァルナの前では。
「頑固だねえ、我が相方は」
「男のこだわりと美学と言いたまえよ、相方なら」
「キミがオッパイ以外にこだわりを持ってるとは知らなかったよ」
馬鹿野郎、それは生き様だ──!!
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