文字の大きさ
大
中
小
130 / 231
5章 イズナバール迷宮編
194話 冬が過ぎ
「……多芸だな」
ヌソッとばかりに屋台の前に現れたジェリクさんに開口一番そう言われた。
「あいにくと、一芸に秀でた物がありませんのでね」
「ヘイらっしゃい! ウチのジン特製のお菓子はいかがかな!?」
そんな屋台の前では揉み手に猫背で呼び込みをするウチの若さんの姿が……動きが無駄に洗練されてるな。
「……なあ、コイツはどこぞの御曹司ではないのか?」
おいおいジェリクさん、御曹司と言っときながらコイツ呼ばわりするなよ。
「ウチの若さんは「職業に貴賎は無い」じゃなくて「面白い事に貴賎は無い」の人でね、とりあえず楽しけりゃ何でも全力疾走なんだよ」
「なるほど」
実際、愉快犯の暇神だからな、コイツときたら。
俺は蒸籠のフタを開け、周囲に溢れる蒸気をかきながら中の物体を取り出す。
直径20センチほど、お椀をひっくり返したような形状のそれは、表面から湯気を立たせながら姿を現す。
──そう、あんまんだ。
酒まんじゅう? それならさっき全部リオンに食われたわ! しかも、
「ジンの嘘吐き! 香りはお酒っぽいのに全然お酒の味がしないじゃありませんか!?」
「うるせえ、ありゃあ作る時に発酵させる”例え”で酒って言ってんだよ!」
何だかんだと言いながら結局、出来立ての酒まんじゅうを蒸籠ごとリオンに持って行かれてしまった。
リオンのヤツ、女性の身体でいるせいか、酒どころか甘味にまで食いつきやがって、最近は色々と圧がスゴイ。まったく、迫り来るのは胸と尻と酔って艶っぽくなったご尊顔だけにして欲しい……ほとんど全部か。
ちなみに酒まんじゅうはこしあんであんまんは粒あん。ついでに言えば、さっきから俺の後ろで甘く香ばしい香りをさせているのがマドレーヌだ。
うん、気付かないうちに和・洋・中、揃ってた。
俺はあんまんをジェリクの前に差し出すと、
「1つ銀貨3枚、いかがです?」
「銀貨3枚!? いくらなんでも高すぎるだろう?」
ジェリクは目を剥いて声を上げる。
まあ安い定食屋なら銀貨1枚で腹が充分満たされる、それと比べれば高価なのはわかるが、これでも貴重な甘味をふんだんに使用した商品なんだから、探索者として迷宮から仕入れる側にもなるアンタが驚くことは無いだろう?
「これでも迷宮産の甘葛煎やメープルシロップを使った高級菓子ですぜ? その証拠に、春先のまだ肌寒いこの時期、今から町を出ようって商人や護衛の冒険者はまとめ買いしてくれますよ」
なんだかんだでこの町に来てそろそろ1ヶ月、3月初頭と暦の上では春になるが未だに周りは雪が残っている。
そんな事も相まって、出来立てホカホカのあんまんと酒まんじゅうは町を出る連中にとても人気がある。熱々の甘い菓子は珍しいとのことだ。
それなら汁粉やぜんざいでもイケるかと思ったのだが、食器の問題があるので諦めた。
パンケーキ? 知らんな、あれは温かい食べ物だ。
ちなみにマドレーヌはやはり女性に人気だ。ラフィニアもそうだが思いの外キャサリンがマドレーヌに喰い付き、非番や休憩の合間に買いに来る。
……話が逸れたな、つまり、今のところ屋台は順調という事だ。
「それに」
「それに?」
俺の言葉にジェリクは首を傾げる。俺は言葉を続ける。
「交渉相手の機嫌はなるべく取っておくもんですぜ?」
「……スマンな、この通り駆け引きも説得も苦手でね」
肩をすくめながら懐から銀貨を取り出すジェリク。若さんはそれを大事そうに受け取ると、洗った大きな甘葛の葉で包んだあんまんをジェリクに差し出す。
「ハイ、お買い上げありがとうございます♪」
「あ、ああ、ありがとう」
0円スマイルの若さんからあんまんを受け取ったジェリクはそれにかぶり付くと、交渉相手であるはずの俺、いや俺達をほったらかしにしてあんまんをパクつく。
まあなんだジェリク、搦め手の出来なそうなおっさんだよアンタは。
少なくとも俺の元にジェリクをよこしたヤツは有能だろう、ルフトかな? くだらん駆け引きよりも正面からぶつかってくる方が上手く話が進むと踏んだのだから。
ジェリクがあんまんを食べ終わるのを屋台を回しながら待っていた俺達だが、
「重ね重ねスマンな、つい食べるのに夢中になってしまった」
「いえいえ、最高の評価ですよ。好感度アップですぜ、ジェリクさん」
「で、話ってなに、ジェリクおじさ──んっ!!」
ゴスン──
「だから毎度の事ながら一言余計ですぜ、若さん。スミマセンね、この通りまだ子供で」
「いや、実際おじさんと呼ばれてもおかしくない年なので問題は無いが……それにしても変わった主従関係だな」
「まあ、このくらいのチビの頃から知り合いですんでね、今さらですよ」
そう言って俺は両手を使って縦に50センチくらいの空間を作り、ジェリクに見せる。
どっちが50センチの頃だったのかは、あえて言うつもりはない。
「で、話ってのはこんな所でしても構わない話で?」
「ああ、別に構わんさ、隠すようなことでも無いしな」
「ほう……?」
「近々この町に、周辺国家から迷宮攻略を目的とした精鋭部隊が送られてくる」
おやまあ、それはそれは。
「それはまた唐突ですね、迷宮と周辺土地の領有権問題は解決したんですか?」
「いや、むしろそれ込みでの攻略部隊らしい」
ジェリクが語ってくれた話によれば、エステラ大陸と呼ばれる東方大陸の南西部に位置するバスカロン連山、そして古代迷宮を含むイズナバール湖周辺地帯の領有権を主張しているのは彼の地を中心に、北のシュゲン、東のライゼン、南のドウマ、西のモロク、の4カ国だそうだ。
そもそもの原因はここの探索者連中が30層を突破したことが発端らしく、今までだらだらと迷宮攻略していた連中が、どうした事か最近になって30層を超えた、しかも氏素性の知れぬ、しかし相当な実力者がイズナバール迷宮に出入りしているとの報告を聞いた各国は、一向に出口の見えない領土問題を解決するため強硬手段に打って出た。
「──要するに、迷宮の最深部を最初に踏破、それを成した探索者を要する国家がここイズナバール周辺地域の持ち主であるとな」
まあ血生臭くも平和的な戦争だな、障害物競争の勝者には土地一帯がプレゼントされます! ──と言う訳だ。
「しかし解せませんね、それなら最初からそうすればいい話なのに」
「まあ、それにも理由があってな──最深部に眠る”秘宝”ってヤツさ」
秘宝──古代迷宮の最深部に待ち構えている迷宮最強の守護者を打ち倒した果てに手に入れることの出来る神秘のアイテム。
何が手に入るかはその時によって違い、魔剣であった事もあれば鎧だった事もある、秘薬の類や、果ては超が幾つも付く貴重な素材だった事もあるらしい。
──余談ではあるが、帝国の猛将アラルコンが身に着けていた3武具は、帝国が管理している古代迷宮から持ち帰られたものである──
この秘宝だが、基本的には最深部を攻略した探索者に所有権はあるのだが、古代迷宮を単独のパーティで攻略など出来ようはずも無く、管理している国家のバックアップがあってこその迷宮攻略であるとして、秘宝は国に献上するのが慣例となっている。もちろん、莫大な報酬と引き換えにだ。
だからこそ、どの国の支援も受けられないイズナバール迷宮では迷宮の下層へ行くのは難しいと、高ランクの冒険者や探索者は他大陸の古代迷宮に、国家の支援を受けながら下層へ赴き、危険とそれに見合った報酬を手にしている。
要するに、高ランクのヤツ等にとってここは、危険と見返りのバランスが取れていない”割に合わない”迷宮という事だ。
だから周辺国家も、先ずは領有権を確たるものにしてから本格的な迷宮攻略を、その為この地には情報収集の為の人員のみを送っていたのだが、ここに来て状況に大きく変化が現れた。
それが、コミュニティ「韋駄天」の支援によって可能となった下層への道、そして俺達というイレギュラーのせいで、迷宮攻略の可能性が見えてきた。
ケツに火の着いた連中が下した決断は、4国が各々用意した探索者による古代迷宮の攻略、そして秘宝の争奪戦らしい。
全ては勝った国の総取り、まあ元々棚からぼたもち的な存在だから手に入るのならラッキー、そうならなくても損は無い、と言う事で決まったらしいのだが……。
アホか! んな訳あってたまるか!!
古代迷宮と土地を手に入れた国が将来、周辺国に対して圧倒的に強い立場になるに決まってるじゃねえか。
……ったく誰だ、各国を上手いこと唆しやがったヤツは?
「正直に言えば、あの「森羅万象」は知らんが、俺の所を含めて4つのコミュニティはそれぞれ4カ国の支援を密かに受けている。というか創設者が各国から派遣されたパーティらしくてな」
「……で、まさか俺達にコミュニティに入れ、そういうお話で?」
「まさか! そんな恐ろしい──イヤすまん、今のは聞かなかった事にしてくれ……ただ、これからは迷宮攻略は前だけじゃなく、後ろにも気をつけないといけないかもしれん。つまりだな、その──」
ジェリクが頭を掻きながら必死に言葉を捻り出そうとしている。
「ええい! とにかく、俺達のコミュニティ「異種混合」はお前達と事を荒立てる事もその気も無い。だから──」
「俺達と関わるな?」
「違う!」
「判ってますよ、取り込む様な真似はしないから、今まで通り付かず離れず、良好な関係でいてくれって事ですね?」
宥めるように俺が話すと、慌てたジェリクも次第に落ち着きを取り戻す。
それにしても、このおっさんの中で俺達は一体どんな扱いになっているのか……?
「とにかく、ウチの意向は伝えた。コミュニティの連中もそれで納得してるし、仮にお前達が他所に取り込まれる事になっても、お前達とは個人的に仲良くやって行きたい」
「ありがたい話ですね。リオンにもよく言っておきますよ」
「ああ、それじゃな──」
そう言ってジェリクは屋台を離れて行った。マリーダさんへのお土産にマドレーヌをサービスで持たせると、ぎこちない笑顔を浮かべていたな。
……それにしてもライゼンか、イズナバールに続きまた懐かしい名前を。
「で、ジンはどうするつもりなの?」
「態々聞くような事ですかい、若さん? 他の3つがリオンに持ちかけたのは、結構な額の報酬とお抱え冒険者の地位、対してジェリク、いやルフトの所は中立宣言。天秤にかける必要も無い話ですぜ」
すでに俺達の、正確にはリオンの元に「異種混合」以外の3つのコミュニティから迷宮攻略に協力して欲しいとの打診は来ていた。内容は予想を欠片も超えない物だったが。
そして今日、これで4カ国の紐付きコミュニティから話が来たわけだが……。
「そうだよねえ……リオンに話を持ちかける時点で3つはアウト、このパーティがどういう集まりかを把握出来ていない証だものね」
「……リーダーは若さんですぜ?」
「動かしてるのはジンでしょ? それを理解できたのはあのおじさんの所だけって事さ」
やだなあ、俺は裏方さんでいたいのに。
とりあえず、4カ国の思惑は知らんしどうでもいい、裏で絵図を描いたヤツも関係ない。
俺にとって重要なのは、最深部にあるであろう神酒、アレだけなのだから。
「それにしてもジン、師匠の命令とはいえ迷宮を踏破してお宝を取って来いなんて言いつけ、よく素直に聞いてるね?」
唐突にルディがイヤな質問をぶつけてきやがった。
「……前のお使いを果たせなかったんでな」
全く、気分が滅入る。
「お使い?」
「ああ……ヴリトラを倒して来いってな」
「……討伐したよね?」
「打倒した訳じゃ無いんでな、殺してくれって嘆いてるヤツに介錯してやっただけさ」
アレでお使い成功なんざ、口が裂けても言えねえ。特にヴァルナの前では。
「頑固だねえ、我が相方は」
「男のこだわりと美学と言いたまえよ、相方なら」
「キミがオッパイ以外にこだわりを持ってるとは知らなかったよ」
馬鹿野郎、それは生き様だ──!!
ヌソッとばかりに屋台の前に現れたジェリクさんに開口一番そう言われた。
「あいにくと、一芸に秀でた物がありませんのでね」
「ヘイらっしゃい! ウチのジン特製のお菓子はいかがかな!?」
そんな屋台の前では揉み手に猫背で呼び込みをするウチの若さんの姿が……動きが無駄に洗練されてるな。
「……なあ、コイツはどこぞの御曹司ではないのか?」
おいおいジェリクさん、御曹司と言っときながらコイツ呼ばわりするなよ。
「ウチの若さんは「職業に貴賎は無い」じゃなくて「面白い事に貴賎は無い」の人でね、とりあえず楽しけりゃ何でも全力疾走なんだよ」
「なるほど」
実際、愉快犯の暇神だからな、コイツときたら。
俺は蒸籠のフタを開け、周囲に溢れる蒸気をかきながら中の物体を取り出す。
直径20センチほど、お椀をひっくり返したような形状のそれは、表面から湯気を立たせながら姿を現す。
──そう、あんまんだ。
酒まんじゅう? それならさっき全部リオンに食われたわ! しかも、
「ジンの嘘吐き! 香りはお酒っぽいのに全然お酒の味がしないじゃありませんか!?」
「うるせえ、ありゃあ作る時に発酵させる”例え”で酒って言ってんだよ!」
何だかんだと言いながら結局、出来立ての酒まんじゅうを蒸籠ごとリオンに持って行かれてしまった。
リオンのヤツ、女性の身体でいるせいか、酒どころか甘味にまで食いつきやがって、最近は色々と圧がスゴイ。まったく、迫り来るのは胸と尻と酔って艶っぽくなったご尊顔だけにして欲しい……ほとんど全部か。
ちなみに酒まんじゅうはこしあんであんまんは粒あん。ついでに言えば、さっきから俺の後ろで甘く香ばしい香りをさせているのがマドレーヌだ。
うん、気付かないうちに和・洋・中、揃ってた。
俺はあんまんをジェリクの前に差し出すと、
「1つ銀貨3枚、いかがです?」
「銀貨3枚!? いくらなんでも高すぎるだろう?」
ジェリクは目を剥いて声を上げる。
まあ安い定食屋なら銀貨1枚で腹が充分満たされる、それと比べれば高価なのはわかるが、これでも貴重な甘味をふんだんに使用した商品なんだから、探索者として迷宮から仕入れる側にもなるアンタが驚くことは無いだろう?
「これでも迷宮産の甘葛煎やメープルシロップを使った高級菓子ですぜ? その証拠に、春先のまだ肌寒いこの時期、今から町を出ようって商人や護衛の冒険者はまとめ買いしてくれますよ」
なんだかんだでこの町に来てそろそろ1ヶ月、3月初頭と暦の上では春になるが未だに周りは雪が残っている。
そんな事も相まって、出来立てホカホカのあんまんと酒まんじゅうは町を出る連中にとても人気がある。熱々の甘い菓子は珍しいとのことだ。
それなら汁粉やぜんざいでもイケるかと思ったのだが、食器の問題があるので諦めた。
パンケーキ? 知らんな、あれは温かい食べ物だ。
ちなみにマドレーヌはやはり女性に人気だ。ラフィニアもそうだが思いの外キャサリンがマドレーヌに喰い付き、非番や休憩の合間に買いに来る。
……話が逸れたな、つまり、今のところ屋台は順調という事だ。
「それに」
「それに?」
俺の言葉にジェリクは首を傾げる。俺は言葉を続ける。
「交渉相手の機嫌はなるべく取っておくもんですぜ?」
「……スマンな、この通り駆け引きも説得も苦手でね」
肩をすくめながら懐から銀貨を取り出すジェリク。若さんはそれを大事そうに受け取ると、洗った大きな甘葛の葉で包んだあんまんをジェリクに差し出す。
「ハイ、お買い上げありがとうございます♪」
「あ、ああ、ありがとう」
0円スマイルの若さんからあんまんを受け取ったジェリクはそれにかぶり付くと、交渉相手であるはずの俺、いや俺達をほったらかしにしてあんまんをパクつく。
まあなんだジェリク、搦め手の出来なそうなおっさんだよアンタは。
少なくとも俺の元にジェリクをよこしたヤツは有能だろう、ルフトかな? くだらん駆け引きよりも正面からぶつかってくる方が上手く話が進むと踏んだのだから。
ジェリクがあんまんを食べ終わるのを屋台を回しながら待っていた俺達だが、
「重ね重ねスマンな、つい食べるのに夢中になってしまった」
「いえいえ、最高の評価ですよ。好感度アップですぜ、ジェリクさん」
「で、話ってなに、ジェリクおじさ──んっ!!」
ゴスン──
「だから毎度の事ながら一言余計ですぜ、若さん。スミマセンね、この通りまだ子供で」
「いや、実際おじさんと呼ばれてもおかしくない年なので問題は無いが……それにしても変わった主従関係だな」
「まあ、このくらいのチビの頃から知り合いですんでね、今さらですよ」
そう言って俺は両手を使って縦に50センチくらいの空間を作り、ジェリクに見せる。
どっちが50センチの頃だったのかは、あえて言うつもりはない。
「で、話ってのはこんな所でしても構わない話で?」
「ああ、別に構わんさ、隠すようなことでも無いしな」
「ほう……?」
「近々この町に、周辺国家から迷宮攻略を目的とした精鋭部隊が送られてくる」
おやまあ、それはそれは。
「それはまた唐突ですね、迷宮と周辺土地の領有権問題は解決したんですか?」
「いや、むしろそれ込みでの攻略部隊らしい」
ジェリクが語ってくれた話によれば、エステラ大陸と呼ばれる東方大陸の南西部に位置するバスカロン連山、そして古代迷宮を含むイズナバール湖周辺地帯の領有権を主張しているのは彼の地を中心に、北のシュゲン、東のライゼン、南のドウマ、西のモロク、の4カ国だそうだ。
そもそもの原因はここの探索者連中が30層を突破したことが発端らしく、今までだらだらと迷宮攻略していた連中が、どうした事か最近になって30層を超えた、しかも氏素性の知れぬ、しかし相当な実力者がイズナバール迷宮に出入りしているとの報告を聞いた各国は、一向に出口の見えない領土問題を解決するため強硬手段に打って出た。
「──要するに、迷宮の最深部を最初に踏破、それを成した探索者を要する国家がここイズナバール周辺地域の持ち主であるとな」
まあ血生臭くも平和的な戦争だな、障害物競争の勝者には土地一帯がプレゼントされます! ──と言う訳だ。
「しかし解せませんね、それなら最初からそうすればいい話なのに」
「まあ、それにも理由があってな──最深部に眠る”秘宝”ってヤツさ」
秘宝──古代迷宮の最深部に待ち構えている迷宮最強の守護者を打ち倒した果てに手に入れることの出来る神秘のアイテム。
何が手に入るかはその時によって違い、魔剣であった事もあれば鎧だった事もある、秘薬の類や、果ては超が幾つも付く貴重な素材だった事もあるらしい。
──余談ではあるが、帝国の猛将アラルコンが身に着けていた3武具は、帝国が管理している古代迷宮から持ち帰られたものである──
この秘宝だが、基本的には最深部を攻略した探索者に所有権はあるのだが、古代迷宮を単独のパーティで攻略など出来ようはずも無く、管理している国家のバックアップがあってこその迷宮攻略であるとして、秘宝は国に献上するのが慣例となっている。もちろん、莫大な報酬と引き換えにだ。
だからこそ、どの国の支援も受けられないイズナバール迷宮では迷宮の下層へ行くのは難しいと、高ランクの冒険者や探索者は他大陸の古代迷宮に、国家の支援を受けながら下層へ赴き、危険とそれに見合った報酬を手にしている。
要するに、高ランクのヤツ等にとってここは、危険と見返りのバランスが取れていない”割に合わない”迷宮という事だ。
だから周辺国家も、先ずは領有権を確たるものにしてから本格的な迷宮攻略を、その為この地には情報収集の為の人員のみを送っていたのだが、ここに来て状況に大きく変化が現れた。
それが、コミュニティ「韋駄天」の支援によって可能となった下層への道、そして俺達というイレギュラーのせいで、迷宮攻略の可能性が見えてきた。
ケツに火の着いた連中が下した決断は、4国が各々用意した探索者による古代迷宮の攻略、そして秘宝の争奪戦らしい。
全ては勝った国の総取り、まあ元々棚からぼたもち的な存在だから手に入るのならラッキー、そうならなくても損は無い、と言う事で決まったらしいのだが……。
アホか! んな訳あってたまるか!!
古代迷宮と土地を手に入れた国が将来、周辺国に対して圧倒的に強い立場になるに決まってるじゃねえか。
……ったく誰だ、各国を上手いこと唆しやがったヤツは?
「正直に言えば、あの「森羅万象」は知らんが、俺の所を含めて4つのコミュニティはそれぞれ4カ国の支援を密かに受けている。というか創設者が各国から派遣されたパーティらしくてな」
「……で、まさか俺達にコミュニティに入れ、そういうお話で?」
「まさか! そんな恐ろしい──イヤすまん、今のは聞かなかった事にしてくれ……ただ、これからは迷宮攻略は前だけじゃなく、後ろにも気をつけないといけないかもしれん。つまりだな、その──」
ジェリクが頭を掻きながら必死に言葉を捻り出そうとしている。
「ええい! とにかく、俺達のコミュニティ「異種混合」はお前達と事を荒立てる事もその気も無い。だから──」
「俺達と関わるな?」
「違う!」
「判ってますよ、取り込む様な真似はしないから、今まで通り付かず離れず、良好な関係でいてくれって事ですね?」
宥めるように俺が話すと、慌てたジェリクも次第に落ち着きを取り戻す。
それにしても、このおっさんの中で俺達は一体どんな扱いになっているのか……?
「とにかく、ウチの意向は伝えた。コミュニティの連中もそれで納得してるし、仮にお前達が他所に取り込まれる事になっても、お前達とは個人的に仲良くやって行きたい」
「ありがたい話ですね。リオンにもよく言っておきますよ」
「ああ、それじゃな──」
そう言ってジェリクは屋台を離れて行った。マリーダさんへのお土産にマドレーヌをサービスで持たせると、ぎこちない笑顔を浮かべていたな。
……それにしてもライゼンか、イズナバールに続きまた懐かしい名前を。
「で、ジンはどうするつもりなの?」
「態々聞くような事ですかい、若さん? 他の3つがリオンに持ちかけたのは、結構な額の報酬とお抱え冒険者の地位、対してジェリク、いやルフトの所は中立宣言。天秤にかける必要も無い話ですぜ」
すでに俺達の、正確にはリオンの元に「異種混合」以外の3つのコミュニティから迷宮攻略に協力して欲しいとの打診は来ていた。内容は予想を欠片も超えない物だったが。
そして今日、これで4カ国の紐付きコミュニティから話が来たわけだが……。
「そうだよねえ……リオンに話を持ちかける時点で3つはアウト、このパーティがどういう集まりかを把握出来ていない証だものね」
「……リーダーは若さんですぜ?」
「動かしてるのはジンでしょ? それを理解できたのはあのおじさんの所だけって事さ」
やだなあ、俺は裏方さんでいたいのに。
とりあえず、4カ国の思惑は知らんしどうでもいい、裏で絵図を描いたヤツも関係ない。
俺にとって重要なのは、最深部にあるであろう神酒、アレだけなのだから。
「それにしてもジン、師匠の命令とはいえ迷宮を踏破してお宝を取って来いなんて言いつけ、よく素直に聞いてるね?」
唐突にルディがイヤな質問をぶつけてきやがった。
「……前のお使いを果たせなかったんでな」
全く、気分が滅入る。
「お使い?」
「ああ……ヴリトラを倒して来いってな」
「……討伐したよね?」
「打倒した訳じゃ無いんでな、殺してくれって嘆いてるヤツに介錯してやっただけさ」
アレでお使い成功なんざ、口が裂けても言えねえ。特にヴァルナの前では。
「頑固だねえ、我が相方は」
「男のこだわりと美学と言いたまえよ、相方なら」
「キミがオッパイ以外にこだわりを持ってるとは知らなかったよ」
馬鹿野郎、それは生き様だ──!!
感想 497
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【老化返却】聖女の若さは俺の寿命だった〜回復魔法の代償を肩代わりしていた俺を追放した報いだ。回復のたびに毛が抜け、骨がスカスカになるが良い〜
「寿命を削って回復してやってたのに……感謝すらしないんだな」
聖女パーティの荷物持ち兼回復術師だった俺は、ある日突然パーティを追放された。
理由は「回復魔法のコストが寿命で、もうすぐ死ぬ無能はいらない」という勝手な思い込み。
だが、彼らは知らなかった。
俺の正体が、この世界の生命を司る世界樹の根源そのものだったことを。
俺の寿命は無限であり、俺がパーティにいたからこそ、彼らは「若さ」と「健康」を維持できていたのだ。
「俺がいなくなったら、誰が君たちの老化を止めるの?」
俺がいなくなった途端、聖女たちの身体に異変が起きる。
回復魔法を唱えるたびに、自慢の金髪はバサバサと抜け落ち、肌は土色に。
若さに溺れていた彼女たちは、骨がスカスカになり、杖なしでは歩けない老婆のような姿へと変わり果てていく。
一方、解放された俺は隣国の美少女皇女に拾われ、世界樹の力で枯れた大地を森に変える「現人神」として崇められていた。
「今さら戻ってきて? ……悪いけど、そのハゲ散らかした老婆、誰だっけ?」
すべてを失ってから「俺」の価値に気づいても、もう遅い。
これは、恩を仇で返した連中が、自らの美容と健康を代償に破滅していく物語。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
クラス全員で異世界召喚されたが、俺だけ教室に取り残されたのでとりあえず帰宅した
クラス全員で異世界召喚されたが、先生と俺が残っていた。
魔法もチートスキルもステータス画面すら表示されない、ただの「残され損」
異世界に行けなかった俺を待っていたのは、世知辛い現実だった。
AI使用状況
GoogleのGeminiさん使ってます〜
誤字脱字チェックと調べ物お願いしてます
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。